第15話 知らなければいけないたくさんのこと
「ひとまず、そこのソファにでもかけてくれ、レイ。」
ヘンダーソンはそう言って私に座るように促した。革張りのブラウンのソファだった。私が座ると、ヘンダーソンも向いのソファに腰をかけた。シンはドアの傍に立ったまま表情を変えない。
部屋は予想していた通りに狭く、ドアを入った正面には小さな窓が一つあったが、レースカーテンが引かれていて外は良く見えない。
ソファの向いの壁には天井までの高さの本棚が設置されていたが、一冊も本は置かれていない。先ほどまでの廊下は暗かったが、対してこの部屋にはLEDの照明が点けられていて、シンやヘンダーソンの顔をよく見ることがでる。
「Mr. ヘンダーソン、私は知らなければならないことがたくさんある気がします。あなたのことも、父のことも。それに、シンのことも。」
シンと目が合う。彼女の表情は一つも変わらない。
「昨日のことは申し訳ないと思う。このような形で君を巻き込んでしまうとは思っていなかった。」
巻き込んでしまう、とヘンダーソンは言ったがその意味が分からない。表情を読み取ったのだろう。ヘンダーソンが続ける。
「まず、私自身のことについて話そう。」
そう言って、ゆっくりと立ち上がり、小窓の傍まで歩く。落ち着かないのだろうか。
「私の名はイーサン・ヘンダーソンという。これは昨日君に自己紹介した通りだ。けれどこの名前は本名ではない。」
少し驚きはしたが、冷静になって考えてみれば、彼の名前が偽名だろうが特に何かが変わるわけではない。
「しかし、偽名を使うというからには、何か事情があるのですね。」
「その通り。私は今、反政府勢力を束ねる立場にいる。現大統領を失脚させ、AW法の廃止を達成するために、活動している。」
これには少々驚いた。ただの父の仕事仲間ではないということは感づいていたが、そこまで来ると想定外だった。けれど、確証がない。単なるホラの可能性もある。
「父とのご関係をもう少し詳しく教えて頂けますか?」
「君に伝えていないことが、ルーカスらしいと思ったよ。ルーカス、君の父は元々私と同じ組織の人間だった。それどころか、私の前のリーダだった。」
まさか—。
「父は一介の公務員だと聞いています何かの間違いではありませんか?」
「嘘ではない。確かに話が突拍子もないからすぐに信じられないのも無理はない。
だが、それでも真実は変わらない。本当はルーカス自身から伝えるべき内容のはずなのだがね。」
「父は?今どこにいるのです?」
「ルーカスなら一足先に向かったよ。」
「向かった?どこにですか?」
「NYだ。私もこれからそこに向かう。そして、レイ、君にもNYに来てもらう。」
「え?それはどういうことでしょうか?」
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