第6話 無気力
20歳の青年、スティーブン・キングスランドが消息を絶ったという記事が地方紙の隅に小さく掲載されたのは、それから2週間後のことだった。
当然、AW法の決闘の情報は、あらゆる方面に対して秘匿される仕組みであり、彼がAW法の決闘に敗れたことはもちろん、ステラとの関係が記事に載ることは無かった。
決闘の後、ステラには一晩中泣いて感謝された。
翌日、街で一番高級なフレンチに母と三人でディナに出かけた。せっかく金はあるのに、父とマリクは仕事の都合で来られなかった。
さらに、その翌日にはステラは大学の授業のため下宿先へと戻っていった。
今回の決闘で得られたキャッシュは、キングスランドを思い出したくないから要らないと言っていたが、家を出る直前に、やっぱりティファニーを買うからと、後で三千ドル送金するようにお願いされた。
かわいい妹だと思った。
そして、キングスランドの記事が出た日に、私は久しぶりにカウンセリングを受けにクリニックへと向かった。
「その後、体調はいかがです?レイ。」
相変わらず重たい前髪と、赤いフレームの間を通すようにカウンセラが私を見る。
「そもそも体調は別に悪くないんです。無気力なだけ。」
そう言いて、またコーヒーを飲むが、こちらも相変わらず不味い。
「それを私は体調と表現したまでです。ええ、言い方を変えましょう。無気力なのは改善されませんか?」
「前回から思っていたのですが、視線がレンズを通らないなら、眼鏡をはずせばよいのではありませんか?あるいは、その眼鏡が必要な理由が別にあるのでしょうか?」
「Mr. ハリス。それは私の質問の答えにはなっていませんし、この眼鏡を私が仕事中に外すことはできません。それは『別の』理由があるからです。」
このカウンセラはどんな受け答えをするときも口調がほとんど変わらない。それでいて事務的な印象を感じないのは、彼女のスキルなのだろう。
「あー、質問への回答ですが、無気力なのは変わりません。
仕事を探すなんて、もってのほかです。軍からの退職金もたんまりありますし、先日思わぬ臨時収入が入ったので、当面はこのままでも暮らしていけます。」
「臨時収入というのは?まさかギャンブルではありませんよね?」
そもそも顎を引いている上に額に皺を作るので、その時の彼女の顔は幾分年増に見えて可笑しかった。
「もちろんギャンブルなんかではありません。それよりも一度顎をあげてはいかがですか?私は先生のお顔を拝見するのが好きなのですが、それではいささか角度が付きすぎて視野角を外れています。」
「それはつまり、『別の理由』に気付かれたのですか?レイ。」
「え?」
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