13、心配
風邪が治っても、ユーディットはしばらく外に出ることも禁じられ、部屋の中で大人しく過ごしているようベルンハルトとエアハルトの両名から命じられた。
「二人とも少し大げさだわ」
寝入ってしまったエアハルトの髪を撫でながら、ユーディットはぽつりとつぶやいた。部屋で一人寝ているのは退屈だろうと、先ほどまで本を読んでくれていたのだが、窓から差し込む日差しの暖かさに我慢できず眠ってしまったのだ。
「この子はきっと母親のこともあって、あなたのことが心配なんだろう」
様子を見に来たベルンハルトは寝台に突っ伏する息子を抱きかかえると、ソファに寝かせてやった。母親という言葉に、彼の先妻を思い出す。
「ルイーゼ様は……」
「流行病に罹って、あっけなく亡くなったよ。この子が四歳頃だったかな……」
だからだろうね、と彼は立ち上がってユーディットの寝ている寝台に腰を下ろした。
「病気になったきみのことも、彼女と同じ運命をたどってしまうのではないかと、無意識に恐れているわけだ」
「そうだったの……」
そういう理由なら、もう少しだけ休ませてもらおうか。そしてこれからは自身の体調にも気をつけようとユーディットは決めた。しっかりしていても、まだ幼いエアハルトを心配させたくないから。
「しばらくは、夜会に出るのもやめておこう」
まるでベルンハルトも出席するのは遠慮しておく、というふうに聞こえ、ユーディットは首をかしげた。
「わたしは構わないので、あなただけでも出席なさったら?」
今までもそうしてきたのだから。
「いや、そういうのは夫婦そろって出席するのが礼儀というものだろう?」
今さら? という心の声が聞こえたのか、彼は目を逸らした。
「これからは、そうしようと思って」
「エアハルトのためですか?」
「それもある。……だが一番はきみのため、私のためかな」
こちらを見ないまま、彼は言った。ユーディットにはよくわからない。
「あなたのため、というのは?」
「私はきみのことが嫌いではない。でもきみは、それを素直に受け取ってはくれないだろう? だから、行動で示していくしかないと思ったんだよ」
もっともな意見ではあるが、言葉にされた時点で、何だかいやらしいと思ってしまった。計算高いというか、策士というか……
(こんな感じで、今までたくさんの女性を虜にしてきたんだわ)
黙り込んだユーディットに、ベルンハルトは振り返り、手を伸ばそうとして――やめた。
「とにかく、何かして欲しいことや欲しいものがあったら遠慮なく言いなさい」
ユーディットはわかりましたと頷きながらも、特に思い浮かぶことはなかった。ただ平穏に暮らせればいい。でも生きている限り、それは叶わない夢なのかもしれない。
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