3、似た者同士
目が覚めて、ユーディットは寝台から降りようとした。頭も身体も、ひどく重かったけれど、ここにはいたくない。
「ユーディット」
後ろから抱きつかれ、ユーディットはほんの少し固まる。振り返らぬまま、相手の手の甲をそっと撫でた。
「ベルンハルト様。もうお昼ですわ」
「まだお昼だよ。もう少し寝ていなさい」
反論を許されぬまま、彼の腕の中へと引きずり戻される。
「昨日は無理させたからね」
ユーディットはなんと答えていいかわからず、目を伏せた。脱がせたはずの夜着をいつの間にかしっかりと身につけた妻をしばし見つめていたベルンハルトは、頬に口づけした。彼女の白い頬がさっと赤く染まる。
「ベルンハルトさま、」
指のはらでへそのあたりを優しく撫でられ、ぴくっとユーディットは身体を震わせた。
「何度抱いても、まだ慣れないようだね」
いや、と逃げ出すユーディットをベルンハルトは寝起きとは思えぬ早さで組み敷いた。手首を押さえつけられ、彼女は怯えた表情を隠すことができなかった。
「かわいい人だね、きみは」
そして可哀想だ。
その言葉にユーディットは傷ついた。ベルンハルトはすべてを見抜いている。ユーディットの幼稚な考えも、必死で隠そうとしている本心も。丸裸にして、隅々まで観察しようとしている。
――怖い。気持ち悪い。見ないで。
「きみのもと婚約者と、この前会ったんだ」
「アルフォンスさまと?」
「そう。アルフォンス・ミュラー」
彼はユーディットのどんな表情も見逃すまいというように見つめ続けた。
「きみを捨てて、別の女性を孕ませた最低野郎さ」
「……お話なさったの?」
「ああ。私が他の女性と楽しく談笑していたところ、遠くからまるで汚物を見る目で私を見ているのに偶然気づいてしまってね、こちらから話しかけてしまったよ」
嫌な人、と思った。放っておけばいいのに。わざと藪をつつく真似をなさる。
「彼にね、きみのような素晴らしい婚約者を譲ってくれてどうもありがとうと礼を言ってやったんだ。そうしたら、彼ね、道楽者めって言ったんだよ。笑えるだろう?」
ユーディットの首元に顔を埋め、くっくっくっと笑い声をあげた。
「好いた女の膣に精をみっともなく吐き出した男が何を言うのだと思ったよ。そうは思わないかい、ユーディット?」
「わたしには、わかりませんわ……」
ユーディットにとって、アルフォンスは常に遠い存在であった。学園に通っていたユーディットと違い、彼は王宮ですでに働いていた。年齢も六つ離れて、いつも会うたびに何を話せばいいかわからなかった。
婚約破棄されたこと、彼が別の女性を好きだったということ、このことについてはさほど驚きはしなかった。心のどこかで仕方がない、と納得する自分がいたのだ。遅かれ早かれ、こういうことになるのではないかと。
(相手の女性を身ごもらせたのはとても驚いたけれど……)
彼は無責任なことはしない真面目な性格だ。だからこそ、そういう関係になるまで避妊はきちんとやると思っていた。
(でも、そうすることでしか、わたしと別れられないと思ったのかも……)
手っ取り早い方法として、妊娠させる道を選んだ。
「ユーディット。彼と私、どちらが酷い男だと思う?」
どちらにせよ、もう別れた相手のことだ。真相なんて知らなくていい。知っても、無意味だ。
ユーディットはそう思い、覆いかぶさってくるベルンハルトの背中に腕を回した。
どちらも酷い、と思いながら。
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