5話 動き出す派閥勧誘
「はい、堀江君」
白派閥の一件があった次の日。
俺と数人の生徒は前原先生から派閥に入会するためのプリントを配られていた。
内容は至って簡単なもので指名や入会する派閥名、趣味、特技などを記入する場所があるくらいだ。
「みんな、もうどこの派閥に入会するか決めた?」
前原先生は誰と特定することなく全体に質問を投げかけるが何故か俺のほうを協調的に見てくる。
そのため、ほかの数人の生徒の目も俺に向けられる。
「い、いや俺はまだ決まってないですよ」
「そうなの?へー、堀江君編入性代表に選ばれてたからこれからいろんな派閥の人が勧誘に来るかもね」
悲しい事実を教えられ悲嘆の吐息を漏らす。
「私たちは来ないのか~」
「先生どこの派閥がいいですか?」
「先生のタイプ教えてください」
贔屓目の発言により他の生徒から色々な不満や不安などの押収が来る。
「待って、他のみんなもそうだよ。派閥って人がいればいるほどその人の長所が追加されるわけだから強力になっていくから」
「先生!派閥には絶対に入らないといけないんですか」
隣の生徒が神妙な顔つきで本題から逸れる質問をする。確かにいくら派閥に入ることが絶対だとしてもこの入会プリントを出さなかった場合どうなるのかは聖典書に書いていなかった
「まあ、あんまり深くは言えないけど恐ろしいことになるとだけ言っておくわ」
前原先生は表情はさっきまでの温厚な雰囲気を纏っているが、言葉には重みが含まれていた。
それから前原先生は様々な生徒からの受け答えをして、俺はそれに聞き耳を立て朝の時間を過ごした。
「じゃあ、改めて今日からちゃんとした授業が始まるので自己紹介するね。今年からクラスを受け持つことになりました
ほんわかとした雰囲気を持ちつつも、さっきの受け答えを見る限りメリハリをしっかり持っていてみんなから好かれ慕われる姿が容易に創造できる。
今も多くのクラスメイトから親しく[なぎ先生って呼んでいい言い?]など派閥の垣根を超えてみんなが楽しそうに質問攻めを行う。
だからこそ俺には少しうざったく彼女がみえた…
「まあまあ、私の事はおいおい話すから、この時間ではみんなのことを私に教えて。っていう事で、今から少し時間をとるからこれにみんなのことを書いて」
前原先生は朝から教卓に置いてあったA4の半分ほどの大きさの紙切れを前から後ろに回すように促す。
【仲良くなろうカード】
記入欄には、名前、派閥名・出身中、特技、趣味、目標を記入する欄があり、その下に[一年間の短い期間だけどお互い理解を深めて仲よくしよう]と添え書きされていた。
内容はさておき、派閥によってどうあがいても一定ライン以上仲良く慣れないクラスメイトに仲を深めさせようとするのはどうにも合理的な考えだとは思えなかった。
「あ、そうだ。これみんな書き終わったら先生がくじで引いた。5人が一つのグループになって、その中で自己紹介してもらうから」
その言葉を聞いた瞬間、俺含めクラスの一部が嫌悪の表情を表す。
しかし、先生のやる気と共にその場は流れ記入時間が始まる。
「やっぱり、あなたの意見には賛成できません」
俺がペンを握ってすぐに隣の少女がこちらに向き、否定を告げる。
これは、昨日の事だろう。
「俺は何も言ってないがな」
「羽崎君の意見に賛成していたじゃないですか」
記入時間のため小声だが強い言霊を感じる。
主観では昨日の発言は羽崎の意見に肯定をしただけでどちらの肩も持たず中立の立場でいられたと思っていたが彼女には違うように見えていたみたいだ。
「俺の賛否は置いといてこの学校ではそういう思念を持った奴のほうが多数なんじゃないか」
この学校に入ったばかりの生徒は『かわいそう』や『ああなりたくない』などの不安を持っている人もいるだろうが昨日の亜弥の発言からしてだんだんとそれが標準化、いわゆる日常の一コマになって行くんだと思う。郷に入っては郷に従えこれが出来ないのなら退学でもなんでも勝手にしろ。こういう思想でこの学校は成り立っているんだろう。
「だから私はこの学校が嫌いです」
少女はそう言い残しペンを握った。
それから30分ほど経ち全員が書き終わったのを確認して前原先生はくじを引く。
決められたグループで集まるため2人終結していた俺と隣の少女の席に集合することになった。
「みんな、よろしくね!」
グループでも明るい女子が初めに声を発する。
このグループのメンバーは編入生が俺と隣の女子生徒ともう一人男子生徒の3人で残りは赤派閥の生徒と黄派閥の生徒で構成されている。
なお黄色の派閥は前年度6位でバッチには巳(蛇)の絵が描かれている。
明るい女子に対して「うん、よろしく。」「うぃ~、よろ」「よろしくお願いします」など軽く返答する。
「派閥の事もあると思うけどここは一旦無視して。やっていこう!」
「そうだね。じゃあどういう感じでやっていこうか」
「単純に時計回りにやっていくって感じでよくない?」
俺と隣でつまらなそうにしている女子生徒を置いてどんどん流れが決まっていく。
「じゃあ私からね。名前は
「えっと、もしかしなくても生徒会長の妹さん?」
生徒会。
これは入学式に言っていた派閥戦線で勝利した派閥の総責任者(十傑)が会長として行う組織である。
なお、生徒会役員は会長の任命か立候補して会長に一任されたものがなる。
制約には会長に任命されたものは拒否権なく役員にならなければならないや派閥が固まらないように派閥から一人は生徒会に入れなければならないなど他にも様々な物がある。
「まあね」
紗奈はまんざらでもなさそうに呟いた。
「じゃあ、次は私か。」
それから、黄色の派閥の女子改め
内容に関してはこれと言って気になる部分はなかったが夏帆がずっと黙って俺を見ていたのが気になった。
「なんだ?」
1時間目の自己紹介が終わり日向に問う。
「いや、単にあなたがとてもつまらなそうにしていたから」
自分では比較的あの場面で正しい反応や感性を持って溶け込んでいたつもりだが客観的にはそうではなかったらしい。
「別にそんなことないだろ」
「そうですか」
会話はそこで終わる。
この前の事と言い今回のことと言い彼女がどうしてそこまで感情の矢先を他者に向けているのか分からない。
知らない感情だ…
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「ピピっ。食事中すまない。赤派閥総責任者早乙女だ。」
昨日は早めに授業が終わったため実質高校生活始めての昼休みはスピーカーから流れ出る放送によって幕を開けた。
内容はまだ派閥に入会していない生徒に対してのもので赤派閥がどういう派閥でどういう人が入るべきなのかなどを説明する為に放課後興味がある人は第3体育館に来るようにということらしい。
「そういえば、お前どこに入会すんの?」
前席の新太から問われる。
正直まだまったく決まってない。
理由を問われればいくらでもあるが、単純に情報がなさすぎる。
赤派閥が1位で青派閥が4位それと黄派閥が6位くらいしか分からない。
「おすすめとかあるか?」
「それを青派閥に入ってる俺に聞くか?」
新太は苦笑いをしつつ話を続ける。
「まあ、簡単に派閥の説明すると赤派閥は早乙女 紗希の独裁国家だ。そして2位の緑派閥は反対の民主国家。3位紫派閥は少数精鋭、4位青派閥は俺がいるところな。落胆した派閥、5位黒派閥これは中等部の生徒が総責任者を担ってる。6位黄派閥は比較的厭戦を望んでいる派閥で7位茶派閥は一言でいえば平凡派閥だ。10年間くらいよくも悪くもない成績を納めている。8位無派閥この派閥は俺もよくわからん。9位鼠派閥はこれも落胆した派閥だ。そして最後白派閥……」
これまで端的に素早く派閥の概要を語っていた新太の口が張りで縫われたように閉ざされる。
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもない。白派閥は別名『奴隷収容所』と言われている。」
「そんな!ひどいです」
その言葉を聞き俺ではなく隣の生徒が反論する。
「いや、まね。しかたないよ。不人気なうえ快く奴隷を入会させる派閥はあそこしかないし…」
実際誰でも入会していいよなんて言ったってそんなの言葉足らずなだけでその誰には奴隷が含まれていないのは直感的に感じてはいた。
そうなると逆に奴隷になってしまった生徒は入会出来たとしてもその派閥に入っていても快くは思はないだろう。
日向は新太の言葉に反論するわけでもなくお弁当を持ち席を立った。
それから急ぎ足で何処かへいく。
「堀江からみて彼女はどう思う?」
日向がいなくなって数分後新太は何かを探るかのように尋ねる。
「どうも思わないが」
「そうか。お前はすごいな。俺はそうなれなかった」
俺の回答に何を求めていたかわからないが自分をあざ笑うように微笑む新太に少し興味がわいたので投げられたボールを投げ返す事にした。
「逆に新太はどう思う?」
「俺か。まあ、今の俺には回答できないが多分彼女は正しいよ」
それだけ言い新太は箸を進めた。
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余談ですが編入生(派閥に入っていない人)は花の形をしたバッチを付けています。
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