4話 堕落するか派閥②

話は少し前に遡る


放課後。

私の心にはまだ朝の事柄が居座っていた。


私はよく正義感が強いと言われる。また、それとちょうど均等に偽善者と言われた事がある。

私の中ではもちろん目の前で自分の力だけじゃどうにもならない人を1人でも助けたい、一緒に苦しみを分け合って少しでも相手が助かって欲しいという思いだけでやっているつもりだった。本当に、本当にただその一心で。


「君?今暇?」


私は心ここに在らずの状態で帰路に着くため玄関に向かう。

その道中、目の前に金髪で何処かのハーフだろうかとても美しい顔立ちをしている男性に話しかけられる。さっきは怒りのあまり忘れていたが自分自身元々あまり男性と話すのが得意ではないので少し慄く。


「な、なんですか?」


「いやー、ちょっと暇ならこの後一緒に来て欲しいんだけど」


男性からの突然の誘いに警戒心を高め理由を見つけて立ち去ることを決意する。


「すいません、今日は用事があるので帰ります」


「えー、そうなの。残念。じゃあ良いよ。また明日誘わせてもらうから」


嫌だな。私は声に出さないが胸中で思う。男性嫌いもある上、今日の朝の件でこの学校とこの学校の奴隷制度を良しとする生徒全てを嫌いになったため、正直この提案は乗り気になれない。


「明日は明日の用事があるかもなので確約は出来ません」


私はキッパリとお断りの念を表しその男性の横を通り抜ける。

もう、傷つくのは十分だ……



「あーあ、無理だったか」


男は過ぎ去った彼女の背を見て1人呟く。


「朝陽様、なんで『命令』として彼女をお誘いにならなかったのですか?」


彼女が過ぎ去ってから近くの影から現れた。眼鏡を掛けた少女は『十傑』に対して疑問符を投げる。


「うーん、俺的にあんまり好まないからかな」


「それは、タキシードやバッチを付けないことに関係しますか?」


「ハハッ、まーちゃんには敵わないなー。まあ、そうかもね」


男は当たり障りのない回答を口にして一度真剣な趣で一言『彼女はうちに入れる』と強い思いを告げた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「でもおねーちゃん本当に良かったの?」


堀江が立ち去った後の白夜の間。

寧々と亜弥は中央にあるソファーに向かい合って座る。

目の前には紅茶が入ったカップと手作りのクッキーの乗ったお皿が置かれている。


「まあね、でも彼を入れたい気持ちは変わらないかな」


「おねーちゃん、彼が入学生名簿にあった時から言ってるけどどうして?」


寧々の言う通り、亜弥は堀江と言う名前を名簿で見つけた時より彼を白派閥に入れる事に強い執着心を抱いていた。


「まあ、色々ある訳ですよ」


亜弥は笑いながら話を逸らす。寧々にはまだ、あの事は知られない様にしなければ。


「そうなんだ〜。寧々はあまり頭が良くないからわかんないけど、おねーちゃん。あんまり無理しないでね」


無理か。無理ね。確かに最近は無理をしているかもしれない。

白派閥は年々人数減少に合わせ、派閥資金、派閥ポイント共に低下している。

様々な面で今白派閥は最下位。もっと言えばもう0という数字に現実味を帯びる段階まで来ている。

そう言った業務に昨年から無能な元白派閥十傑の代わりに後継者として亜弥はほぼ1人で立ち向かっていた。


「ありがとう。寧々。でも大丈夫だよ。寧々だけは必ず守るから」


「おねーちゃん」


そこに亜弥自身が含まれていない事を露知らず寧々は大きく息を呑むのと同時にクッキーをリスの様な頬になるまで口に詰め込んだ。


亜弥は白夜の間にある1つの窓から外を眺め空を自由に飛び立つ鳥に1人憧憬の眼差しを向けた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


堀江は今日の朝の事を思い出す。

それは学校の事ではなく朝の電車での事だ。


「あの時、助けるべきだったのか?」


自分でも、わからない感情が言葉として誰もいない一軒家の中を巡る。

感情なんて元からなかった。とは言えないが堀江は父、母に会った事がない特別な家庭に生まれ、幼少期は父方のおじいちゃん、おばあちゃんの家で過ごした少年だ。

そのため、他者に対する意識はどうしても上手く掴めない人生をこれまで何十年と過ごしていた。


「はぁ、『正解がない時は自分を信じて己が道を行け』おじいちゃん。俺は本当に正しい事出来たのかな」


無き人、無き人物に対する悲痛の叫びを静かに春先でまだ肌寒い室内で夜空に沈む星々の光を眺め少年はただ1人思う。


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昨日は投稿出来なくて申し訳ないです。

出来るだけ1日1話を目指します!!!

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