3話 堕落する派閥①
「やっほー!私寧々って言いまーす」
放課後、帰宅する為鞄に聖典や学活中に配られた教科書等をしまっていた。
「やっほー!私寧々って言いまーす」
たまに聞こえる雑音は無視してすぐに教室を出る為後ろの扉に向かう。
そうすると目の前に10人いくかいかないか位のガタイの良い生徒達が前に現れる。
「おい!お前聞こえてるだろ?寧々さんが話しかけて下さってるんだから聞けよ」
「そうだ!編入生代表だからって舐めてんじゃねーよ」
「寧々さんが試験を受けてたら間違いなくお前はあの神聖なるステージに登る事すら出来なかったんだからな」
口々に文句を垂れる男達の胸にはしっかりと白で『酉』の絵が描かれたバッチを付けていた。10番目の鳥だ。
「まあまあ、みんな。こっちはお願いする側だから無視するのも堀江君の勝手だよ」
「くっ!さすが我らの寧々さんだ!」
「やべー。やっぱり寧々さん最高だわ」
「確かに。悪かったよ」
彼女が一言俺の肩を持った瞬間、男達は寧々を褒めるのと同時に俺に対して謝罪をしてくる。
「でもね。堀江君、今は立場的に私からの『お願い』を無視できるけどこれから先私は『命令』として貴方を拘束する事が出来るの。だから今来てくれた方が未来的に明るくなると思うよ」
他の男達は目の前の事象を変化させる為、強引に腹を狙ってナイフを刺そうとして来たが彼女はしっかりと後のことを考えて首を機敏に鮮やかに狙ってくるかの様に目を見て訴えかけて来た。
「わかった。だが、30分だけだ。30分だけはお前達に拘束されてやる」
「本当に!!ありがとう」
彼女はさっきまで首を刃物で狙って来た筈なのに今や俺に刺されなくてよかった見たいな様子で俺の両手を握って来た。
「チッ、こいつ生意気じゃね?」
「確かに、態度デカ過ぎだろ」
「こいつ、ぜってえ奴隷にして、俺の靴舐めさす」
彼女が俺の手を握った瞬間眉間に皺を寄せ男達は睨んでくる。
それから俺は約束通り拘束され、派閥棟と言う棟が立ち並ぶ所に連行される。そこはそれぞれ一色を基調としたとんでもなく大きな建造物が立ち並んでいた。
寧々はその建造物の中の白銀に輝く城みたいな場所で足を止める。
「じゃーん!これが由緒正しい私たち白派閥のWhite castleでーす!」
寧々は白銀の城の前で自慢げに弾み聲で語る。
White castleかそのままだな。
「まあまあ、どうぞどうぞ!」
「靴脱げよカス」
「そのきたねースニーカー脱いで綺麗なスリッパ履けよ」
汚らしい言葉が聞こえて来たが俺はその言葉の通り靴を脱ぎ来客用と書かれている場所からスリッパを拝借して履いた。他の面子はと言うとWhite castleの入り口にある下駄箱から靴を取り中に入る。
「まあ、内装は外の迫力には劣っちゃうけど広さは確かだから!!」
別に興味はないが目的地に着くまでの道中、寧々からこのWhite castleについて詳しく説明を受ける。
内容を簡略化するとここWhite castleは白派閥の集会所見たいなもので、一部の生徒はここに住むくらい色々なものが揃っているらしい。そしてどこの派閥棟にも存在するらしいが様々な場所にボードゲームやテレビゲームさらにはバスケコートなど様々なゲームを取り行うための施設が置かれているらしい。
それから歩く事数十分目的の場所だろうか。エレベーターの最上階に着くと目の前には扉が一つだけ存在する場所に到着する。
「着いたよ。ここが白派閥責任者の部屋略して白夜の間だよ」
どこを略せばその名前に辿り着くかは謎だが施設の完成度の高さと厳重なセキュリティに少し興味をそそられた。
「気になる?あの部屋の中」
「まあな」
「……でも、入る前に1つお願い聞いて欲しいの」
彼女は少しの間の後さっきまでの溌剌とした様子から一変し悲壮感漂う雰囲気を纏いつつ俺の正面に立つ。
「なんだ」
「私とここでジャンケンして欲しいの」
「はぁ?」
彼女の謎のお願いに困惑を隠しきれなかった。
「ジャンケン?」
「そうルールはそうね。公式戦じゃないから明確には作らないけど負けたら負け勝ったら勝ちってルールぐらいで良いかな」
俺の困惑を知らないのか無視しているのか。彼女はどんどん話を進めようとする。
「ルール追加だ。最初はグー又出した手を変えるのもなし、それとジャンケンの参加者は俺とお前他の奴は手をあげている。これを守らないならやらない」
俺はわざと問い詰めるのではなくさらにルールの追加を要求する。そうすると彼女は不意をつかれたように目を見開く。
「え?疑問に思わないの?」
「何がだ?」
わざと知らないふりをする。『彼女』は初手俺に2つのゲームを仕掛けて来た1つ目はジャンケンそして2つ目が心理ゲームだ。
「やり方が標準かされてるな。これは初めてじゃないのか」
「何の事かな?」
「まあ、バカは馬鹿なりにって言うが流石に酷いな」
「お前?何寧々さんに言ってやがるんだ」
「そうだぞ!!お前十傑が1人寧々様にそんな事言うなんて奴隷確定だろ」
寧々の取り巻きは表情に怒りを露わにして今にも殴りかかろうと前のめりになる。
「ひ、酷いよ。そんな事言うなんて」
そして寧々本人はと言うと両足を地面に着け俯いている。まだ、続ける素振りを見せたので俺は少し嫌がらせをする事にした。
「泣くなよ。てか、そこまで言うなら『命令』でもなんでもすれば良いだろ?」
「えっ?」
もう少し長引かせれば今以上に色んな情報が集められたかもしれないが俺的にこんな胡散臭い芝居劇で一緒に踊ってやるほど他者に興味が湧かない為手を出す。
「ちょっと何するの!!?」
俺は強引に寧々の胸元に付いている十傑専用のバッチを取り裏を確認する。
「
「!?」
俺がその言葉を発した瞬間彼女の顔は強張り体が少し震えだす。
そうこの裏の名前これこそがこの白派閥を裏で牛耳る十傑の本当の名前だ。
「な、なんでそれを」
「北条、姿を明かさない限り俺は何も喋らないし今すぐにでもここから立ち去る」
俺は確信的な声で寧々ではなく北条本人に語りかける。それから数秒後目の前の白夜の間の扉がゆっくりと開かれる。
「いや〜、参った参った。まさか、影分身が破られるとは」
扉の中から肩まで伸びるベージュ色の髪を靡かせながら1人の女子生徒が現れる。彼女は凛とした様子で笑みを浮かべつつこちらを観察する。
「おねーちゃん!」
双眸から涙を溢しながら膝まで崩れていた寧々は目の前の少女に抱きつく。
「はいはい、寧々は役やりましたよ?」
「え?なに?」
「寧々さんって今年から十傑に入ったんじゃないの?」
「いや、これは夢だ。我らがアイドル寧々様が嘘付くはずがない」
その瞬間さっきまで寧々を持ち上げていた。護衛隊の様な立ち位置の男達は各々あたふたとし出した。
「じゃあみんなはこれで下がって良いよ」
「聞いてないですよ。てか、貴方何なんですか?」
「そうだそうだ!」
「夢だ!これは夢だー!誰か俺を殴ってくれ」
「うるさいな。『命令』下がれ」
各々に怒りをぶつける男達に対して亜弥は力強くそして冷たく『命令』として男達を下がらせる。
「ピピッ、十傑が1人白派閥北条 亜弥より退出の命令が下されました。直ちに今いる地点から移動して下さい。30秒以内に移動しない場合聖典法第1条第2項十傑の命令に対する無視又は妨害により即退学処分が下されます。繰り返します。十傑……」
彼女が命令した瞬間男達のバッチから機械的な音が発せられ中から退学という大それた内容が聞こえてくる。
「なっ!?」「そんな!!」
男達は慌ててエレベーターに乗り組みすぐにそこには静寂が流れる。
「凄いですね。あのシステム」
「そう?この学園では日常茶飯事よ」
あれが日常茶飯事か。それほどこの学園では階級が重視されている事の表れとでも言えるかもしれない。
「まあ、話は沢山あるから中に入ってくれる?」
「30分と言いましたよね?」
そうして俺は彼女と約束した瞬間からセットして置いたタイマーを差し出す。
そこには29分30秒と記され、あと30秒で帰宅する事が許される時間だ。
「しっかりしてるんだね。でも、私が『命令』したらそれすら無に変える事わかってる?」
「逆に契約を破棄する事は命令と同等の罰が下される事をわかっていますか?」
「どういう事?」
俺の脅しに亜弥は目を細めて問いただしてくる。
「最初俺はお前達に30分って言いましたよね」
「そんなの私とあの子達だけでしょ?」
俺の返答に対して次は亜弥のお腹に顔を埋めた寧々が聞いてくる。
「いや、違う。俺が契約を結んだ範囲はあの時は誰かはわからなかった寧々の影にいたそこの本当の十傑も含まれている」
亜弥に指を刺しつつ問題に対する回答を続ける。
「ピピッ、ピピッ」
今回はバッチからではなくポケットから機械的な音が繰り返し響く。
「ははッ。負けだ。完敗だよ」
「おねーちゃん」
「わかった。今日は詳しく聞かないだから1つだけ教えて欲しい」
「何ですか?」
「君はいつから私に気づいたの?」
「最初の疑問は入学式に遡ります。体育館十傑用に並べられた席の1つの空席です。そしてこれは次の疑問寧々に結びつきます」
「へぇー、で、どうしてその2つが関係するの?」
「いくら隠蓑に寧々を使っても中等部から上がったばかりの1年で無ければ貴方の存在には気付くはず。そこでピースは揃いました。謎の空席、突然の白派閥を名乗る者の登場。でも、ここまでではまだ結論に辿り着けてはいなかった。これまでは偶然と言う一言で事足りてしまうから、でもこのジャンケンで俺は貴方の存在を確信した」
「もう、良いよ。なるほどね」
俺が皆まで言おうとした時突如亜弥は言葉を遮り頷きながら寧々を撫でる。
「そうですか」
「取り敢えず、今日は帰ってくれて構わない。でも、君にはまたここに来てもらわなければならなくなったから、今度はしっかりとした命令で呼ばせてもらうよ」
と、俺的に全然嬉しくない提案を受け渡され俺は白夜の間に入る事なく踵を返してエレベーターに乗り込んだ。
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