2話 編入生代表
「こんにちは、先に呼ばれた様に今年度編入生代表を任命された堀江 真崎です」
ここまでは前者の早乙女の真似をして緊張を掻き消すようにハキハキと脳内で構築した言葉を前に押し出す。
「正直な話。階級、派閥の話がされた時より今まで混乱だらけです。校門を潜った時のワクワク感やこれから思い描いていた高校生活との誤差に嬉しさは掻き消され今や不安に駆られています。ですが私たちは成蘭学園の制服に袖を通した誇り高き成蘭学徒である事に一縷の違いはありません。ですのでこれから先この学園の生徒たらしめる行動に気を掛け階級と言う物を自身の更なるランクアップのため逆に活用していく事を心に秘め。これにて第104回新入生挨拶を終わりにします」
ステージから周りを見ると全生徒が拍手をしている事から拙い部分も多いだろう俺の発表もそこまでマイナス点もなく卒なくこなす事が出来たと言えるだろう。特に十傑のメンバーは鋭い眼光でこちらを凝視してした。
「いやーまさかお前が新入生挨拶だったとはな」
教室に戻ると数多くの生徒が俺の席に押し掛ける。理由は分かりきっているが先の発表の事だろう。
「いや、俺もびっくりした」
「てか、お前祝辞の紙とか持ってなかったよな?まさか覚えてきてたのかよ!?」
「あ、そう言う事か。俺てっきりあの場で即興で言ってたのかと思ったぜ。でも、あそこで見ずに言えるのすげ〜な」
「流石にそんな事はないだろうな」
様々な生徒が色々な質問を投げ掛けてくるので半分無視して聖典の派閥が書いてあるページを読む。
「是非うちの派閥に入らないか?」
「いや、抜け駆けはずりーぞ。うち来いよ。お菓子とかあるから」
「私の派閥来ない?先輩達優しいし色々教えられる事あるよ」
生徒達は発表の話から勧誘の話に切り替えまた、質問攻めをしてくる。それから間も無くして
ガラガラ…
「……」
「……」
一つの扉を引く音と共に教室に静寂が広がる。
その変化にこれまで聖典に目を落とし続けた俺も扉のほうに目を配った。
「おっはー!!みんなー。あれ?何々。寧々ちゃんが朝の派閥会議から帰って来たよ」
白いタキシードに身を包んだまだ中等部の生徒と言っても頷けるほど背が低い生徒が物凄く元気な声で扉から現れた。その瞬間、静寂もすぐに止み俺の席にいた生徒達は即座に彼女の元に駆け寄りみんなで取り囲んだ。俺はこの境地から助けてくれた彼女に軽く一礼して次の授業まで5分あったためトイレに向かった。
「君が…なるほど…」
扉の近く。寧々と名乗る彼女の隣を通り過ぎる時小さいがしっかりとした声が耳に聞こえた。
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「あ!?どうしましょう」
高級感漂う一室。入学式で司会を取り行った女性が台本を見ながら乱れ声を発する。
「どうしたんだ?」
こちらもさっきの入学式で祝辞を務めた男性が女性と真逆に落ち着いた声を掛ける。
「さっきの編入生代表の挨拶1つずらして行ってしまいました……」
彼女はその大きな間違いに震え強張り打開案を全力で思案する。
「放送により生徒達には伝えられるけど…そうなると学園を外部から支えて頂いている投資家の皆様や政治の方々…うっ…」
今でも吐き出しそうな雰囲気を醸し出しながら口々に思考を口に出す。
「校長すいません。私の首はいくら落としてもらっても構いませんのでどうか妹だけは」
彼女には最愛なる妹がいた。この学校に今年から編入した生徒だ。妹は誰よりも他者を慮る性格で色々考慮した上で姉に心配させる事がない様に特待生としてこの学園に入学をした。
「まあ、起きた事は後から取り返せない。今は前だけを向こう」
[それは…?]
「彼に仮の新入生代表君に表向きこの学園の頂点を目指して貰う。これしかないだろう」
「でも、流石に彼の負担が大き過ぎます!」
取り乱す女性とは裏腹に男性は2枚のプリントを目の前に差し出した。1枚は彼女の親愛なる妹の過去の成績、性格等が記されたものでもう片方が堀江の書かれた紙だ。
「これは!?」
「私は彼に元より少し期待していたのだよ」
その紙を彼女は食い入る様に見て大きく息を呑んだ。彼女の中には安心と共に少し前に見た過去のデータが頭を駆け巡る。
「また、来ますかね」
その瞬間彼女は無意識に言形成された言葉を発していた。
「どうだろうな。まあ、見届けるしかないだろう」
校長室の中に綺麗に掛けられている銀と金のタキシードを憧憬的な眼差しで見つめつつ男は過去を自嘲気味に笑った。
この学園には25年前まで干支の様に12までの派閥が存在していた。
今では生徒は勿論のこと教師にも語られる事がなくなったあの事件があるまでは…
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