第1章 始まり

1話 派閥

学活も早々に担任の前原まえばらの指示のもと放送後第一体育館に集まる様に言われ、次いでそれまでは聖典を見るように言われた。


「あのさっきの事なんですけど…」


担任の誘導通り聖典を新太の内容と合わせて理解を進めていると朝の女子生徒から声をから掛けられた。


「何か?」


「さっき件なんですけどやっぱり私が間違ってたんですかね?」


弱々しく彼女はさっきの行いの正否の確認を求める様な質問を投げかけて来る。


「どうだかな。これがもしこの学園のルールがない場所なら温厚篤実な行動だったかもな」


「それってさっきも言った。この学園のルールの事ですか?」


俺は静かに頷いた。


「でも、それでもそれは悲しいと私は思います」


悲しいか。彼女が何に悲しみを抱いてそれを口にしたかはわからないが一般的世間的に考えるとさっきの行いの客観的観念では可哀想や酷いなどの言葉が先に出て来るのもおかしくないかもしれない。


「なら何故あそこで自己防衛に走ったんだ?」


「!?」


彼女は驚いた顔でこちらを凝視してくる。俺は少し居た堪れなくなり外を眺める。


「それ。どう言う事ですか?」


さっきより少し声のトーンを下げて怒りの籠った声で尋ねてくる。


「いや、何でもない。取り敢えず学園の方針を目にしてからまた考えてみるのもいいんじゃないか?」


言いながら俺は彼女の手元にもある聖典に指を差し自分も聖典に目を戻す。


「それもそうですね…」


少し歯切れの悪そうな様子で俺と同じ様に彼女は聖典に目を落とした。


それから10分くらい経ち俺達のクラスが体育館に移動する様に促された。


俺達のクラスは後ろから数えて2番目の1年9組のため体育館には10組以外の1から3年それと教師達で総勢1000人を超える人でごった返していた。


そこで俺は一部の生徒に目についた。その生徒達は総勢8人でその生徒達は他の生徒と違う色のタキシードを羽織っていた。


「なんか雰囲気違うな」


「そうだろうな。あの人たちがこの学園最高権利保有者十傑だ」


ボヤいた声に対してさっきの説明の続きの様に新太は返答をしてくる。


「十傑か」


「ほら見ろよ。十傑だけ1番端で椅子に座っているだろう。ああ言った特権も十傑の一つだ。それと全ての生徒は十傑の従者又は継承者となる事が義務付けられている」


新太から聞き覚えのない名前が上がる。従者と継承者その名の通りなら俺も例外なくその立場にさせられそうな気がして背筋に冷たい汗が降る。


「その従者とかってなんだ?」


「多分この後説明があると思うがこの学園には独自のルールがあってな生徒は必ずどこかの十傑の派閥に入らなければならないんだよ」


そう言いながら新太は胸の2つ目のバッチをこちらに向けてくる。そこには青色で兎の絵が書いてあった。


「兎それがお前の派閥って事か?」


「いや、違うこれは年始に行われる派閥戦線で勝ち残った順位によって決められる」


「……干支か」


「そうだ。そしてこの派閥戦線で勝ったものが来年の派閥の頂点に立ち様々な場面で優位に事を勧められると言うわけだ」


様々なか。それがどの部分を示唆しているかは具体的にはわからないのでもう少しだけ探る事にする。『派閥戦線についてもう少し知識を付けておくべきだと判断したため前の男子生徒に聞く事にした。』


「優位って具体的になんだ」


「まあ、1番分かりやすいのは朝のやつとかな」


朝と言えば電車の事件もあったが新太がいた事を考えるとあの事だろう。


「あのガタイの良い奴と眼鏡の奴か」


「そうだ。アイツらは実際立場的にはほぼ同等2人とも元は平民同士。だから眼鏡改め羽崎はさき かけるはガタイの良い奴改め上月こうずき 勇人はやとに命令出来るほどではないんだ。しかも元々は翔はいつも勇人にどやされてた立場だからな」


結論に急がず分かりやすく説明する新太は少しの笑みと光輝の目で話を早める。


「楽しそうだな」


「あ、いやわるい。別なそんな事はない。まあ結論だけ言うと派閥が下位に行けばそれだけ同列の人間にも弱くなるって事だ。わかりやすく言うと最上位『子』と最下位『酉』では立場が1つ下がるって事だ」


「なるほど。貴族は平民、平民は奴隷みたいな事か。そうなると…」


「そうだ。そこで出てくるのが元十傑と奴隷の立場だろ。それはな…」


「静粛にこれより第104回成蘭学園入学式を執り行う」


新太が言おうとした途端開会式が行われるコールが前のステージからマイクを通して体育館に反響した。

それから校長の挨拶、この学園のスポンサーか分からないが何処かのお偉いさんの式辞など小学校からよく見た景色が流れる。話している内容は特に現実的で普通で面白みのないものだった。


「次に昨年度、派閥戦線を制し見事『子』になった赤派閥十傑、早乙女さおとめ 紗希さきさんステージにどうぞ」


「はい!」


司会の合図とともに赤いタキシードに体を覆った赤い髪の毛の少女がゆっくりと立ち上がりステージに向かう。


「こんにちは、新入生諸君。まだ春先で花びら…いや辞めよう。私の柄ではないな。さっきの説明でもあったが私が昨年度派閥戦線に勝利し十傑の地位に落ち着いた。早乙女 紗希だ。まずは入学おめでとう。エレベーター式で登ってきた生徒達が多い様だがこれは一部の生徒に対してのものだ。そしてこれより先の話はその生徒達以外に関係のない事だと言っておく。手短に話したいと思うのでよく聞いてくれ。端的に私達十傑は君達を派閥に勧誘したい。わからない事が多いと思うので軽く説明するがこの学園には私の様に十傑と呼ばれる生徒が10人いるそして君達新たに編入した総勢31名の生徒達はこれより1週間以内にその10人から1人選びその人の持つ派棟に来てくれ。他は知らないが私は君達が来てくれることを心より待っている。これで第104回成蘭学園赤派閥十傑が1人早乙女紗希の生徒代表挨拶を終わる」


そう言い早乙女は頭を深々と下げて元の位置に戻る。


「続いて編入生代表挨拶。堀江 真崎さんお願いします」


唐突に名前を呼ばれびっくりする。俺は編入試験でこの様にならない様にしっかりと問題を選別した覚えがある。


「俺!?」


突然の事で頭が混乱し状況を上手く掴めないがこれまでの事を思い出し[はい!]と出来るだけ声をだし重い足を上げる。

行きますか……

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