第130話
クラウン帝国へ派遣されるのはリック様とローレル様、そして私でした。
リック様とローレル様は良いとして、なぜ私なのか疑問でしたのでグロリア様に尋ねたところ「お前はある意味帝国の天敵だからな。恐怖に感じるか助けと感じるか……どちらでもいいから揺さぶってこい」との事です。
天敵ですか? 私はクラウン帝国に何かした覚えはありませんが、ひょっとして他の人もそう思っているのでしょうか。
「なるほど、グロリアお兄しゃまは良い所をついて来ましゅね」
「敵対するものは……シルビアを怖がるんじゃ……ないかな」
ローレル様もリック様も同意見の様です!
そんなわけで私達三人はクラウン帝国へと馬車で向かっています。
護衛? 一応騎士が四名付いてきましたが、騎士が四人居てもリック様にかなわないそうです。
リック様曰く「シルビアが考えた剣術……完璧にマスターしたよ」という事で、銀閃流剣術をエキスパートまでマスターされたそうです。
エキスパートまでマスターしたのは騎士団長と数名の副団長、そしてリック様と国内では数名のみです。
「では最終確認をするでしゅよ。クラウン帝国との交渉は基本的にシルビアしゃんにお願いしましゅ。交渉内容は打ち合わせした通りでしゅが、それ以外の話をされても決して反応しないでくだしゃい」
「お二人を差し置いて私が前面に出るなんて、本当によろしいのですか?」
「大丈夫……周辺国の重要人物で……シルビアの事を知らない人は……居ない」
私は一体どういう人物として周辺国に伝わっているのでしょうか。
そういえばディアマンテ龍王国には魔性の女とか言われていましたが……
しかしご命令とあらば全力を尽くしましょう。
数日でクラウン帝国に到着しました。
街をいくつか通って帝都へ到着すると、沢山の帝国兵が街の入り口で待っていました。
そして私達を確認すると大きな木の門が開かれ、中へと案内されます。
街に入ると紙吹雪が舞い、音楽隊が明るい楽曲を演奏し、大勢の人々が道の両脇で手を振っていました。
「これは……凄い歓迎……だね」
「帝国の財政は火の車でしゅ。かなり無理をして用意したんでしゅね」
お二人はにこやかに手を振っていますね、流石に慣れておいでです。
私はというと……緊張のあまり背筋を伸ばして硬直していました。
「シルビア……手を振ってあげて」
「だっ、大丈夫です! 問題はありません!」
とまぁとんちんかんな答えをするほどに緊張しています。
お二人はそんな私を見て笑っています。
そんな事をしているうちに帝都のお城に到着しました。
そうそう帝都の街並みですが、基本的に建物は石造りで二階か三階建てが多く、道も石畳になっています。
ですが建物の色がバラバラで、よく見ると屋根や細かい箇所の破損が目立ちます。
一見するときれいな街並みですがメンテが行き届いていないようです。
お城も石造りですが全体が黒くなっています。
「ああ、ようやくお城に到着しましたか。やっと落ち着けますね」
「シルビア……普通の人は……緊張するんだよ?」
「……は! すっかり感覚が違っていました!」
さてエルグランド王国の王族がクラウン帝国を訪れるのは久しぶりで、街中では歓迎ムードでしたがお城の中ではどうでしょうか。
今のところ案内や応対に問題はありませんが……数日前から王族が来ることは伝えてあるので、今日はこのまま皇帝と謁見です。
皇帝との謁見は謁見の間ではなく特別に用意された部屋で行われました。
二十人ほどが入れる部屋で調度品などは高級そうに見えますし、中央には黒い長テーブルが置かれています。
「ようこそおいで下さいました。私がクラウン帝国皇帝センチュリーです」
部屋で待っていたのは年老いた男性でした。
地肌が見える白髪は短く、あご髭だけがお腹あたりまで伸びています。
歳のせいか痩せており、頬はこけていますが目だけは異様に輝いている。
八十近いでしょうか? 歳の割には背が高く背筋もピンとしていますね。
リック様とローレル様が軽く挨拶をすると、リック様が上座に案内されます。
「シルビア……君が上座……だよ」
リック様が私の名を呼ぶと周囲の人たちがざわめきます。
そうれはそうでしょうね、王族を差し置いてメイドを上座に座らせ……あら? 周囲の反応は違うようです。
「やはりあのメイドがシルビアか」
「王族を差し置いて上座とは、噂は本当のようだ」
「やはりシルビアが黒幕か」
などなど、私とは随分と考えの
この様子だと私への感情はグロリア様がおっしゃったように「恐怖」であっているようです。
ならば恐怖で通して見せましょう。
リック様を差し置いて上座に向かうと、リック様も見事なもので、イスを引いてくださいました。
それを当たり前の様に受け入れて座ると、周囲の人達は更にざわめきます。
あ、あら? 怖い人ってどんなしゃべり方をするんでしたか??
「この度は盛大な歓迎、誠にありがとうございました。エルグランド王国を代表してお礼を申し上げます」
「ととととんでもございません! シルビア殿に喜んでいただき、我々も安心しておる所です!」
あら? センチュリー皇帝が冷や汗を流しています?
私、思わず普通の対応をしたのですがどうしたのでしょうか。
まあ勝手に勘違いしてくれたのなら丁度良いでしょう。
センチュリー皇帝や他の人達もイスに座り、最初は軽く談笑をします。
さてそろそろ頃合いでしょうか。
「センチュリー皇帝、アフトヴァース国とワズ国の事、ご存知ですか?」
「もちろんです。我が国も小麦やトウモロコシの価格が上がって困っている所ですからな」
「そうでしょう、私達も同じく価格が上がって困っています。なので、エルグランド王国はクラウン帝国に支援をしようと考えています」
皇帝たちの目が点になっています。
それはそうでしょう、敗戦国として多額の賠償金を払っているのに支援をする、なんて逆の事を言われても困るでしょう。
しかし次の言葉でクラウン帝国側は凍り付きます。
「支援の条件としてクラウン帝国には軍を解体してもらいます」
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