第121話

 リック様との帰り道は楽しい時間です。

 久しぶりに何も考えずに楽しめたような気がします。

 こんな休日みたいな時間をもらってもいいのでしょうか。


「そういえばリック様、パルサー様への置き土産は見つかったと思いますか?」


 お昼の時間になったので、馬車を降りて食事の用意をしています。

 リック様も手伝って下さるので準備が速いですね。


「見つけたと思う……隠したとはいっても……必ず開く書類の引き出し中だから」


「大丈夫、ですよね?」


「パルサーお姉様は……約束は守る……それに戦争が嫌いなのは……本当」


 タンネンベルク・ガンは木の棒の先に鉄の筒を付けて、爆薬の力で鉄の玉を発射する武器ですが、恐らくは狙いを定めにくく、威力もないでしょう。

 次の段階として厚みのある木を肩に当てるように構え、タンネンベルク・ガンよりも長い鉄の筒を木に沿える様に取り付け鉄の玉を発射させます。

 これは爆発事故のあった現場に落ちていた武器です。


 だた両方とも一回使うのに時間がかかってしまいます。

 なので発展形として鉄の玉と爆薬を一体化させたもの、発射の際に爆薬を使って点火していては即座に発射できないため、玉と爆薬を一体化させたものに融合させるもの、そしてタンネンベルク・ガンを巨大化させた物、などの発展形も書いておきました。

 

 ある程度未来の武器も予測できれば、それに対処する事も可能でしょう。

 パルサー様ならその情報を武器に交渉を有利に進められるはずですしね。


「シルビア……野菜が煮えてきたよ」


「本当ですね、じゃあここで隠し味を入れましょう」


 お鍋に調味料を入れ、ひと煮立ちさせます。

 御者さんや護衛の方々にお配りし、私達も倒れている木に腰かけていただきます。

 そうそう、切った後ろ髪はどうしようもありませんが、目を隠していた前髪は以前と同じように短くして横に流しました。


「明日には……王都に着くと思う」


「あ、もうそんなに来ましたか。なんだか早いですね」


「本当だね……もっとゆっくり動けば……よかった」


 苦痛のはずの馬車の移動がとても楽しく感じました。

 やはり友人との旅は楽しいですね。

 そういえばサファリ様達と来た時は苦痛でしたが、同じ友人なのに何が違うのでしょうか。


 そうこうしている内にエルグランド王国の王都に到着しました。

 久しぶりの景色ですね、思った以上にディアマンテ龍王国に滞在していましたから。


 お城に到着し、馬車を降りると懐かしい顔がありました。


「シルビアー! もう! あなたって子は、あなたって子は!」


黒いゴシックドレスを纏い、銀髪のツインテール、そして私の顔に抱き付いた豊満な胸、プリメラです。


「お久しぶりですねプリメラ。向こうに行って以来ですから何ヶ月――」


「バカ! ワタクシはそんな事を言ってるんじゃないの! どうして姿をくらましたりしたのよ! ワタクシも探しに行きたかったんだから!」


「それは……ご心配をおかけしました」


「まったくよ! もう許さないんだから、今日は一日ワタクシに付き合ってもらうからね! あら? あなた髪は? 随分短くなったわね」


「プリメーラ……まずは父上に挨拶を……しないと」


「あらセドリック、シルビアとワタクシのデートを邪魔する事は陛下へいかでも出来ないわ」


「プリメラ、流石に陛下へいかにはご挨拶させてください」


「……むぅ、仕方がないわね」


 ようやくプリメラから解放されて呼吸が楽になりました。

 お城に入り謁見の間に……プリメラも付いて来ていますね。


「プリメーラ……まあ……いいか」


 陛下へいかにお叱りを受けるかと思いましたが、どうやらすでに事情が伝わっているらしく、逆にお褒めのお言葉をいただきました。

 逃げ出した事よりも化石を発掘した方が強いようです。


「さて、パルサーからは問題なしとの返事が来ているから、次はシルフィーの所だな。シルフィー、シルフィーはいるか」


「はい、ここに」


 謁見の間の左右に並んでいる人達の中から男性が歩み出てきました。

 眼鏡をかけ、長めの銀髪をキレイに真ん中で分けてメガネの左右に流されている。

 白い礼服の胸に勲章が三つ付いています。


「お前の所にシルビアは必要か?」


「もちろん必要です。私の所は常に人手不足ですのでね」


「よし、では今日よりシルビアはシルフィー付きとする」


「お任せを」


「かしこまりました」


 一礼し、陛下へいかは席を立とうとします、しかしそれを制止する人がいました。


「お待ちください陛下へいか


「ん? プリメーラ嬢か。どうした」


陛下へいか、シルビアはディアマンテ龍王国から戻ったばかりで心身ともに疲弊しております。今日と明日は休みを与えてはいかがでしょうか? シルフィー様にお仕えするのに、疲れた状態では効率が悪うございます」


「ふむ……確かに色々あったからな、よかろう、今日と明日は休むがよい」


「ありがとうございます陛下へいか


 陛下へいかが謁見の間から退出されると緊張していた空気が緩み、雑談が始まりました。


「さあシルビア! 今日と明日はワタクシと遊ぶわよ!」


「まったくプリメラったら、ヒヤヒヤしたわ」


「言ったもの勝ちよ!」


 そう言いながら笑って私の両手を取り、踊りだしそうなくらいにはしゃいでいます。

 それを制止するようにシルフィー様が声をかけてきました。


「シルビア、ディアマンテ龍王国ではよくやってくれた。パルサーの交渉も上手く進むだろう」


「ありがとうございますシルフィー様」


「では明後日から仕事が山積みだ。しっかり休むのだぞ」


「はい」


 そう言って謁見の間を出て行かれました。

 シルフィー様は第二王子として微妙なお立場だ。

 王位継承は第一王子のグロリア様に決まっているし、長女のシーマ様はすでに他国の王族に嫁がれた。


 いわばシルフィー様は予備だったため、教育自体はグロリア様と同等の物を受けていたはず。

 しかし王位は継げない……どのようなお仕事が待っているのでしょうか。

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