第114話

 パルサー様にディアマンテ龍王国に残るように言われ、サファリ様達とはお別れしました。

 サファリ様は泣くほど悲しんでくださいましたが、まあ国に戻れば私の事など忘れてしまうでしょう。

 さて問題はこの国で何をするのか、です。


「早速で悪いけど、この手紙をアウトランダー陛下へいかに届けていただきますわ」


 一枚の手紙を渡され、私はいつものメイド服でお城へと向かいます。

 私はメイドなので馬車などは使えません。

 なので街中を歩いて行く事になるのですが、そういえばこうして街を歩くのは初めてかもしれませんね。

 ずっと発掘現場とお屋敷の往復ばかりでしたから。


 そういった点ではこの国に残って良かったかもしれません。

 さてそうこうしている内にお城に到着しました。

 オレンジ色の大きな砦のようなお城の裏門へ回り、門番さんに手紙を渡します。

 用事が終わり帰ろうとしたら、門番さんは私を呼び止めます。


「シルビアだな? 少し待っていてくれ」


 ひょっとして中身の確認の必要がある手紙だったのかしら?

 でもパルサー様はそんな事をおっしゃっていなかったし……まあしばらく待つことにしましょう。

 門番さんが確認から戻ってくると、一緒に執事さんが現れました。


「シルビア様、陛下へいかがお呼びですのでこちらへどうぞ」


 ああやっぱり内容を確認したうえで返信をもらうまでが仕事で……あら? 案内された場所は見晴らしのいいバルコニー、しかもお茶の用意がされています。

 どなたかがお茶をしていたのかしら。

 本当にここでいいのか執事さんに確認を……いない。


 キョロキョロしていると男性が二人現れました。


「へ、陛下へいか、このような場所でお会いできるとは思っておらず、御目汚しして申し訳ありません。直ぐに立ち去りますので――」


「かまわん。茶の用意も出来ている事だ、共に休もうではないか」


 膝を付いて首を垂れる私に手を差し伸べるので、私はどうしたらよいのか軽く混乱しました。

 国王がメイドに手を差し伸べる? こんな状況は想定していません。

 もう一人いらっしゃる男性に助けを求めますが、こちらも随分と高貴そうなお姿をしてらっしゃいます。


「父上、シルビア嬢が戸惑っておりますよ?」


 ちちうえ?……助けを求める相手の位が高すぎます!!

 ああっ! 先ほどの執事さんはどちらへ!!


「さあお嬢さん、そんな恰好ではお茶が冷めてしまいます、お立ちください」


 陛下へいかに手を差し伸べられるよりは随分と敷居が下がりました。

 なので素直に立ち上がる事にしましょう。

 ……陛下へいかは背が高く体格も良いので、膝を付いていても立っていても威圧感が変わりません。


 王子に椅子を引かせるという気が遠くなるような事をされ、私はこれから何が起きるのか恐怖におののきます。

 確かこの方は王太子のエクリプス様。

 三十歳を過ぎており、すでにお子様もいらっしゃるはず。

 陛下へいかに似て体格もよく厳ついお姿です。


 陛下へいかと王太子もイスに座ると、メイド達がお茶を入れ始めます。

 メイドの私もメイドにお茶を入れてもらいました。

 もうわけがわかりません。


 戸惑いばかりのお茶会は終始雑談で終わりました。

 気が付けば日が沈みかけています、急いで帰らないと。


「お帰りなさいシルビア。お城はどうでしたの?」


「ただいま戻りましたパルサー様。遅くなり申し訳ございません。お城では……陛下へいかとエクリプス王太子と共にお茶をさせていただきました」


「そう。他に変わった事はありませんでしたの?」


 陛下へいかや王太子とお茶をする以上に変わった事なんて無いと思いますが、一応考えてみます。


「特にありませんでした」


「じゃあ明日も手紙があるから届けていただきますわ」


 明日も⁉ 必死に平静を装いシンプルな返事を返します。


「かしこまりました」


 そして翌日は第二王子のスタリオン様と陛下へいか、三日目は第一王女のエルテナ様と陛下へいか、四日目は第二王女のエメロード様と陛下へいかと共にお茶をさせていただきました。

 手紙の内容とお茶会の関連は⁉


 ただこの頃になると諦めと慣れによりかなり冷静になりました。

 あ、お城の中庭にはバラ園があるのですね。おや廊下には石像が、誰でしょうか。

 それにしても砦のようなお城だと思っていましたが、中もお城に寄っていますが砦っぽい場所が沢山あります。


 兵士の詰め所が妙に多い、武器庫や消耗品の管理が目に見える場所にある、内装はお城然としていますが兵士が出陣しやすいような造りになっている、などです。

 街で何かあった場合には直ぐに出陣できるので便利そうですが、そんな危機迫るような事態が起きる事を想定しているのでしょうか?


 なんてことを考えていたら見晴らしの良いテラスに到着しました。

 今日も美味しそうなお菓子が並んでいます。

 

「あなたがシルビアさんですね!」


 テーブルの近くから外を眺めていると、最近では珍しく大きな声が聞こえてきました。

 今日は王族ではないのでしょうか。

 しかし陛下へいかはいらっしゃるし……もう一人の、恐らく大きな声を出した男性は私よりも年下、十八、九といった所でしょうか。


「はい、私がシルビアでございます」


 残るアウトランダー陛下へいかのお子様でお会いしていないのは一人、恐らくこの方が最後の一人なのでしょう。


「俺は第三王子のコルト! 俺の花嫁候補と聞いて会いに来てやったぞ!」

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