第102話

 サファリ様の想いを聞きたい。

 しかし私が聞いたところで話てくださるとは思えません。

 なら外堀を攻めるのが良いでしょう。


「おはようございます妃殿下」


「おはようシルビア。今日の仕事は机に置いてあるわ」


 妃殿下は最近私専用になった机を指さすと、そこには一山の書類がありました。

 これ位ならすぐに終わるわね、ならその前に。


「妃殿下、本日はお話がございます」


「あら、何かしら?」


「出来れば側室の皆様にも集まっていただきたいのですが……」


 私の言葉に妃殿下は少し目を細めますが、仕事の手を止める事なく大きな声を発しました。


「キャラバン! セレナ! リオ! ホーミー! ちょっとこっちに来て!」


 部屋の中には二名、室外には二名いましたが、妃殿下の声で一斉に妃殿下の前に集まりました。


「どうしたんだ? サンタナ」


「どうもこうもないわキャラバン、シルビアから私達に話があるそうよ」


 四人が一斉に私を見ます。いえ五人ですね。

 側室四人は不思議そうに、妃殿下は冷たい目で私を見ています。


「集まっていただきありがとうございます。実はサファリ様の事でお聞きしたい事がございます」


 私は十年近く前の事件の事と現在のサファリ様の状態を確認し、サファリ様の現状をどうにかしたいというむねを伝えます。

 もちろん皆様事件の事はご存知ですし、何とかしたいという気持ちを持っているはずです。

 しかし。


「出しゃばりが過ぎるんじゃないか? 一介のメイドが首を突っ込んでいい問題じゃないだろう?」


「そうよね。そもそもサファリの事はすでに何度も話し合ってるわ。今さらシルビアがやる事なんて無いわよ?」


「過去を蒸し返さないでほしい。今はこれでいい」


殿下でんかが楽しんでいるんだから~。良いんじゃない?」


 やはり否定的ですね。

 しかし妃殿下サンタナ様はジッと私を見つめてきます。


「シルビア、あなたにその話をしたのは誰かしら」


「騎士団長にお聞きしました」


「あんのオヤジ! サファリを護れなかったばかりか言いふらしやがったのか!」


「お待ちくださいキャラバン様、私が無理やり聞き出したのです。サファリ様の今の状態はいつからなのか、なぜ他の王族とは違う事をするのか」


「そんな事! アナタが気にする事じゃない! 放っておいて!」


 大人しいリオ様が語気を荒げます。

 リオ様が怒りました、つまり皆さんも気になさっているからです。

 これなら希望はあります。


「気にする事です。私はサファリ様が自ら呼び寄せたメイドです。そのメイドが主の自堕落を正さずに誰が正すというのでしょうか」


 うっ、と皆さんは声を詰まらせます。

 しかし直ぐに言い返してきたのはホーミー様でした。


「でも~、当時から見ている私達が話合って決めたのよ~? 昨日今日来たばかりのシルビアが、どうにか出来ると思うの~?」


「どうにかするのが私の役目だと思っています」


 やはり何度も話し合っているのでしょう、しかしその結果がこれではダメなのです。

 ここからはかなり厳しい話をする事になるでしょう。


「サファリを支えるのは私達の役目よ。サファリが呼んだかなんてどうでもいいの。あなたは私達の言われた通りに動いてくれる?」


「セレナ様、それでは遅いから出しゃばっているのです。まさか今の状態がサファリ様にとって良い事だとお思いなのですか? だとしたら近くにいながら何も見ていなかったのではありませんか?」


「シルビア言葉を慎め! ここにいるのは全員お前よりも立場が上なんだぞ!」


「上だからといって正しい事をしている訳ではありません。立場を持ちだすのであればキャラバン様ももっとしっかりなさって下さい」


「もうアナタは黙って! これ以上サファリと私達の間に入ってこないで!」


「間になど入っていませんリオ様。私はあくまでも客観的に見た話をしています」


「それでもぉ~、理由を知っていながらサファリに厳しくしようっていうの~?」


「理由? 兄弟を助けたのは素晴らしい事です。ええ」


 五人の目が点になりました。

 キョトン? 何を言っているのか理解できない? 呆然? 怒り? 時間とともに色んな感情が混ざったのか、皆さんの表情は全部違うものになっています。


「ふざけるな! 命がけでグロリア様をお守りしたんだぞ!」


「その為に生死の境を彷徨ったというのに」


「信じられない。恥ずかし気もなくよく言う」


「たったそれだけの気持ちだったのね~」


 言いたい放題ですね。

 いいですよ、どんどん言って下さい。


「語るに落ちたな。お前なんかじゃサファリの苦しみは理解できない」


「兄弟の為に命を張る事を何だと思っているのかしら」


「はい終了。もうコイツと話す事はない」


「うふふ~、やっぱりサファリの事は私達が護らなきゃね~」


「皆様も素晴らしいですね。きっとサファリ様を命がけでお守りした事でしょう」


 今度は私を睨みつけてきます。

 ええ、命がけですよ命がけ。

 さあ命がけで守ったエピソードを聞かせてくださいますか?


「ふん。そうそう命を狙われる事なんてあるもんか」


「おや、キャラバン様は無いのですか?」


「あるわけ無いだろう!」


「そうですか? 私は今も狙われているかもしれませんよ?」


 こいつはバカか? という顔ですね。

 普通の人なら命を狙われる事なんてそうそうないでしょう。

 ええ普通の人なら、ね。

 ここで沈黙を守っていたサンタナ妃殿下がようやく口を開きます。


「悪魔教の生贄いけにえリストの事かしら?」


「はい。アベニール辺境伯と共に悪魔教の支部は潰しましたが、本拠地は依然として見つかっていません。私はまだリストに入っている可能性があります」


「え? え? なにどういう事だ? 本当に命を狙われてんのか?」


 私と妃殿下が同時に頷きます。

 四人の側室の顔から血の気が引いて行くのがわかります。


「そして私は当時の主であるプリメラの命を危険にさらした悪魔教を滅ぼすために、進んで生贄のおとり捜査に参加しました」

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