第89話
「ふぅ、シルビアよ、お前は毎度毎度、普通のメイドとしての適性はないのか?」
謁見の間で跪き、
そんな事を言われても、私は言われた事を実行していただけなのですが……
「申し訳ありません。私としましては普通のメイドたろうとしていますが、なにぶん出しゃばった性格が災いしているようです」
「それはわかっている。わかっているがグチの一つも言わせろ」
グチ? 国王
嫌ならメイドを辞めさせることもできるのに、それをせずにグチ。
ああ、そういう事かしら。
「私のつたない本でお気持ちを煩わせてしまい、大変申し訳ございません」
形だけでも謝罪しておきましょう。
どうやら私が書いた本、随分と大きな話になっているよですね。
「お前が書いた剣術書、今は騎士団団長が見ているが……ん、来たか」
謁見の間の大きな扉が開くと、鎧を着こんだ髭の男性が兜を左わきに抱え、私が書いた本を右手に持って入ってきました。
この方が騎士団長かしら。
「
「うむ。それでどうだ?」
「その前にいくつか確認をしたい事があるのですが、よろしいでしょうか」
「かまわん」
「ではまず、この剣術書は本当に一介のメイドが書いたのでしょうか」
「間違いない様だ。そこのシルビアが書いた」
騎士団長が私をギロリと上から睨みつけます。
背も大きいし体格も良い、それに百戦錬磨なのか顔にいくつか傷があり、それが余計に怖い顔に箔を着けています。
「ではシルビア嬢、君に質問がある。この剣術書には一対一から一対五までの戦い方、三対三までの戦闘方法しか書かれていないが、多数対多数は考えていないのか?」
「私が参考にした戦いは、兵士や騎士が訓練でやっている範囲のみです。なので多数対多数の訓練を見ていないのでわかりません」
「では最後に一つ。どうして君は我が騎士団のみが使える技を知っている」
「え?」
騎士団のみが使える技? そんな事を言われても見て覚えただけだから、どれが騎士団の技かなんてわかるはずが……あ。
「ひょっとして、三人一組で大型の盾を使って突進し、敵と衝突しなかった騎士が攻撃に回る、という戦い方でしょうか?」
「……それだ。なぜわかった」
「普通の兵士はそんな戦い方をしていませんでしたので」
「よろしい。ではシルビア嬢、今度集団戦を見せるから、剣術書に追加する事は可能か?」
「それは……見てみないと何とも言えません」
「
「そうか……まあそうだろうな」
「つきましては、シルビア嬢の騎士団への正式な配属をお願いしたくぞんじ――」
「ちょっと待ったー!」
騎士団長の声を遮って謁見の間の扉が開きました。
入ってきたのはバネット様。
難しい顔をしてツカツカと騎士団長に歩み寄ります。
「おいお前! シルビアは俺のもんだ! 勝手に他にやるわけにはいかねぇ!」
「シルビア嬢は
「ぐ、だ、だが今は俺に任されている! まずは俺の許可を取るのが先だろう!」
「いやバネットよ、お前は騎士団長と協力し剣術書を完成させよ。お前の傭兵団や手下どもに学ばせるのはその後だ」
「ち、父上! シルビアの功績は俺の功績のはずです! ならば剣術書の功績も俺が最初にあずかるべきだ!」
「勘違いするな、シルビアを王族メイドにしたいといったのはセドリックだ。今は別々に行動しているが、その成果の半分はシルビアを誘ったセドリックにある。それにお前はシルビアの登用に消極的だったではないか」
「じょ、状況が変われば態度も変わります。これほど有能なメイドだとは思っていなくて……ハッ!」
思わず出たバネット様の本音に、
私を有能だと思ってくれていたのですね、嫌われているとばかり思っていました。
「まあ今回はお前の功績もあろうが、今は騎士団長と協力する事だ。我が国の兵士が強くなれば、それはお前の成果にも繋がろう」
「わかりました、今回は父上の命令とあらば従います」
「うむ。それとシルビアよ、他国の大使がお前に会いたいと来ているから、この後で会いにいけ」
「他国の大使が? かしこまりました」
私に会いたいなんて一体どなたかしら。
私に会いたいと言われても、心当たりがあるのはプレアデス
だとしたら久しぶりにお会いするから失礼の無いようにしないと。
ドアをノックすると中から返事がありました。
「シルビアです。失礼いたします」
扉を開けて中に入ると、そこには三人の男女が居ました。
ああやっぱり、プレアデス
それに……褐色の肌で目付が鋭く、白い髪は少々乱雑に切られているが後ろ髪の一束だけが長い。
背はスラリと高く百八十センチを超えており、白い詰襟で肩には金糸で刺繍が施されている。
「お久しぶりです、エクシーガ大司教様」
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