第79話

 部屋のドアが壊れた(壊した?)ので、修繕部の方に修理をお願いしました。

 さて急がないと打ち合わせに遅れてしまいそうです。

 半地下の広間に入るとギリギリ間に合った様で、今から全体ミーティングが始まるようです。

 ええ、ええ、私が間に合ったからってそんな顔をしないでください、遠くにいるメイドさん。


 リーフ様が近くにいる時は何もありませんが、私が一人で移動や何かをしていると、必ずメイドが肩からぶつかってきます。

 しゃがんでゴミ拾いをしている時は転びそうになりました。


 ふ~、そんな幼いイジメに耐えてお昼になりました。

 ようやくひと息……つけるでしょうか?

 残念ながら私を訪ねてきた人がいました。


「シルビアといったか、お前の部屋のドアは直しておいた。それについて話があるから付いてこい」


 この方は修繕部の長でクリッパーさんだ。

 五十過ぎの男性で顔がスス汚れており、濃い茶髪は針金のように硬いのかあちこちが跳ねあがり、乱雑に頭の後ろでまとめている。

 筋肉質で非常に体格がいいけど背は低め。

 分厚い皮手袋と分厚い皮エプロンを着けている。


 クリッパーさんの後を付いていくと、そこは修繕部の倉庫でした。

 色々な道具や材料が沢山棚に並んでいますが、お昼なので誰もいません。


「シルビアから渡されたモップのとロープだが、シルビアの部屋のドアを固定するのに使われていたのは本当か?」


「はい。出るのに苦労しました。あ、修繕、ありがとうございます」


「いや構わねぇ。お前さん、イジメにあってるんじゃないのか?」


「ご名答です。とても分かりやすい相手なので助かっています」


「助かってるってお前……」


「ご心配なく、コレは理由があってやっている事なので、お手数ですがご助力はご遠慮して頂けると」


「いやそうしてぇのは山々なんだがな、こっちにも事情があるんだ」


「修繕部の、ですか?」


「そうだ。実はな……」


 修繕部の倉庫から出て、クリッパーさんと別れました。

 それにしても驚きました、これは思った以上に大ごとになってしまうかもしれません。

 出来れば内輪で治めておきたかったのですが。

 一度リーフ様にご相談を……いえ、これはリーフ様には関係がありません。

 そうですね、あの方のご意見を伺いましょう。


「そんな事があったんでしゅね。私から伝えておくので思う存分やってくだしゃい」


 これで後顧の憂いは無くなりました。

 どこまで飛び火するかわかりませんが、やれるところまでやってみましょう。


 夜になり、リーフ様は就寝されました。

 部屋に戻るとドアがキレイに直っていますが、ドアの前に誰かいます。


「君がシルビアか? ドアとドア枠は直しておいたが、他に調子が悪い物は無いか?」


 修繕部から一人、部屋の修理に来てくれました。

 ドアを治してくれた人のようですが、クリッパーさんに言われて私が戻ってくるまで待っててくれました。


「ありがとうございます、他に調子が悪い物はありません」


「そうか、なら壊さないように丁寧に使ってくれ」


 そう言って男性は去っていきます。

 部屋に入りランプを点けると中は特に変化はなく、朝出た時と同じです。

 明日の朝はどうなってるでしょうか、何事も無ければよいのですが。


 翌朝、私が起きた時は変化がありません。

 ではドアは開くでしょうか……開きました、普通に。

 何も無かったのなら良いのですが、もしもすでに何かがあった後だったら……いえ、今考えても仕方のない事です。


「離しなさい! 無礼者! 私を誰だと思っているの!!」


「あーはいはい、そういうのはいらねーから。あとお仲間の事もはいてもらうぜ」


 広間に入ると、三人のメイドが修繕部の人達に囲まれていました。

 三人のメイドはシルフィー様のメイドだわ、修繕部の人達に捕まっているという事は、やっぱりまた何かしようとしたのね。

 修繕部の人、昨日ドアを直してくれた人がチラリと私を見ますが、すぐに視線を逸らします。

 修繕部の人達が手に何かを持っていますね、アレは……松ヤニ接着剤? あれで何をしようとしたのでしょうか。


「お前達が接着剤を鍵穴に入れようとしたのを見たんだ、言い逃れはできねーぞ」


 鍵穴に接着剤⁉ そんな事をされたらドアノブ以前に鍵を開けられなくなってしまいます。

 なんならモップとロープをドアノブに括りつけるよりもお手軽で効果があるのに、なぜやらなかったのでしょうか。

 その理由は後日知る事になりますが、まずはメイド達の境遇をどうするかです。


 結果から言うとお城を追い出されました。

 更にいうとメイドの悪行に沢山尾ひれが付いて、実家にまで影響が出るほどです。

 今回のメイドは侯爵・伯爵だったのでかなり深刻だとか。

 王宮に働きに行かせた令嬢が同じメイドの平民をいびったのですから、そんな令嬢がいる家とは仲良くできない、という事でしょう。


 とはいえ流石は貴族、メイドだろうが王宮内の事だろうが、しょせん相手は平民だから問題ない、という方々が少なからずいる様です。

 あら? 変な場所でおかしな集まりが出来そうですね。

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