第72話

 多国籍屋台村の準備に奔走し、イベントまで残す所三日となりました。

 大広場に二十以上の出店が集まり、開催までの短い時間を有効に使おうと必死に準備をしています。

 あれは豚肉の分厚いステーキ、あれは魚を油で揚げたあんかけ、こっちは具だくさんのスープですか、あっちは串に刺した丸い肉? こっちはライスにシチューをかけてあります。


「色んな料理があるものですね」


「エルグランド王国には海がありましぇん。だから生魚を見ると不安になってきましゅね」


「あそこの魚を小さく切ったものですね。アレは確かに興味が湧きます」


 ローレル様以外に十人ほどお手伝いさんがいますが、こちらの準備はおおよそできたと言っていいでしょう。

 他の出店も自国の特色に合わせた造りをしていて、この場所は色々な国が集まった、まさに多国籍な様相です。


「ふふん、どうやら準備は間に合ったようね」


「こんにちはヒミコ様」


「姿をくらました時は驚いたけど、準備は滞りなく進んでいるようね」


「ご心配をおかけしました。この通り準備はほぼ終わっています」


「ええ、私のライバルでしたらこれ位の事で後れを取ってほしくないものね。この勝負、必ず私が勝つのだから!」


 いつの間に勝負になっていたのでしょう。

 屋台村はプレアデス教国きょうこくの人達に楽しんでもらうものなのですが……しかし勝負ですか、それはそれで楽しそうですね。


「わかりました、その勝負受けて立ちます!」


 お客様に喜んでもらったうえで勝負に勝つ、これは中々に暑い展開になって……あら? 勝敗はどうやって決めるのかしら。

 ヒミコ様はすでにご自分の屋台に戻ってしまいました、売上勝負?


 イベントの準備が進み、いよいよ明日から屋台村が開始されます。

 ふー、流石に疲れましたね、やり残しは無いでしょうか?

 ……うん、問題は無いでしょう。

 食材、調味料、調理器具、リスト通りに揃っています。

 ただ少しだけ気になるのは、他の屋台数か所が慌ただしい事です。


「ローレル様」


「はい、こちらは大丈夫でしゅから、何人か連れて行っていいでしゅよ」


「ありがとうございます」


 私はお手伝いさんを数名連れて他の屋台を訪れます。

 やはり手が足りていなかったようで、荷物の運搬や雑務をお手伝いしました。

 特に……クラウン帝国の屋台が遅れています。


 それはそうよね、一人足りない上に手伝いの数も足りていない。

 放火の話が広まると、お手伝いさんの数がかなり減ったと聞いています。

 自業自得とはいえ、今残っている人達に罪はありません。


「お手伝いします」


「ありがとうござ……え! あ、あの……よろしいんですか?」


「屋台村は使節団によるプレアデス教国きょうこくのイベント。同じ使節なら協力して当たり前です」


 イベント当日。

 多国籍屋台村には沢山の人達が訪れてきました。

 色々な国の食べ物が揃っていますから、普段食べる事が出来ない食べ物が食べられるという事で、開催前から期待されていたようです。

 

 屋台村は一週間開催され、大きな問題が起きる事なく無事に終わらせることが出来ました。

 疲れましたが、沢山の人と交流を持てたのはとても楽しかったです。

 そしてわかってはいましたが、他の使節は貴族や階級の高い人たちばかりで、本当に平民なのは私だけでした。


 屋台村が終わり使節同士の交流会も行われ、各国の文化を身をもって体感します。

 面白いですね、ジャンケンをするときは必ずグーから出す文化があるんですって。

 細かな対応はローレル様にお任せし、私は他の方々のおもてなしをしただけでしたが、皆さん社交辞令がお上手で自国にも来て欲しいと言ってくれました。

 ありがたいですね。


 気が付けば文化交流は残す所ひと月。

 ここまで来たら使節団のやる事など大して残っていません。

 本国との調整と荷物整理がメインとなっています。

  私とローレル様も準備を整えていると、ソルテラ宮殿の部屋にエクシーガ大司教が来ました。


「や、やあこんにちはシルビアさ……ローレル様、シルビアさん、片付けは順調ですか?」


「ごきげんようエクシーガ大司教しゃま。片づけは順調でしゅ」


「片付けは一通り終わり、後は提出する書類を作成している所です」


「そ、そうですか。その、シルビアさん? 少しお話があるのですが」


「はい、なんでしょうか?」


 エクシーガ大司教が緊張していますね、何か緊急事態でしょうか。

 反面ローレル様はニヤ付いています。

 

「あの、場所を変えましょう!」


 部屋を出てソルテラ宮殿の外に出ると、人の少ない裏庭へと来ました。

 こんな場所でなんでしょう。


「しっ、シルビアさん!」


「はい?」


「あ、あの、えーっと、きょ、今日は! 今日は……いい天気ですね」


「ええ、とてもすごしやすい天気ですね」


「じゃなくって、シルビアさん、シルビアさん! 私と一緒にこの国を支えてくれませんか!」


 そう言って右手を差し出してきました。

 プレアデス教国きょうこくを支える、そうですね、それは私としてもやぶさかではありません。

 それに相手がエクシーガ大司教ならきっと上手くいくでしょう。


「はい、一緒にプレアデス教国きょうこくを支えましょう」


「ほ、本当ですか!?」


「ええ、エクシーガ大司教となら手紙のやり取りもスムーズにいくでしょうし」


「え? 手紙?」


「はい。私はエルグランド王国でプレアデス教国きょうこくとの友好をゆるぎないものにします、エクシーガ大司教はこの国で、エルグランド王国との友好をゆるぎないものにしてください。互いに支え合えば、よりよい国となっていくでしょう」


 エクシーガ大司教の動きが止まりました。

 ほぼ同時にどこかからか大きな笑い声が聞こえてきます。


「ローレル様? ヒミコ様?」


「ふふふっ、ひっひっひ、し、シルビア、あなたは本当に面白いわね」


「それでこそセドリックお兄様が見込んだ女性でしゅ」


 お二人とも近くにいたんですね。

 そもそもこういう内容ならば、ローレル様も一緒に居た方が良かったのでは?

 それにしても御二人とも、何がそんなにおかしいのかしら。


 文化交流の期間が終わり、私達はプレアデス教国きょうこくを後にします。

 楽しかったですね。

 全てが順風満帆とはいきませんでしたが、総合して来て良かったです。

 さて、帰ったらプリメラの結婚式が待っています。

 ふふふ、プリメラのウェディングドレス姿が楽しみです。

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