第71話

 放火犯に自首してもらう事にした私は、クラウン帝国の使節団が宿泊している宿へと来ました。

 受付の人に小箱を渡し、クラウン帝国の使節団に渡してもらうようにお願いした後、私はその足で警備隊の建物へ向かいます。

 警備隊の扉を少し開けて手紙を放り込むと、中の人が気付いたのか声をかけてきますが急いでその場を去ります。


 さて、一応確実に動いてもらうためにローレル様にお手伝いして頂きましょう。

 ……匿名で出しても気付いてしまわれるでしょうが、バレても問題はありません。

 そして翌日からは警備隊の巡回回数が増え、当然ですがクラウン帝国の使節団が泊る宿の前も多くの警備隊が行き来します。


 おや、宿の窓から隠れるように警備隊を見ている人がいますが、一体誰でしょうかね?

 しかし私の計画に引っ掛かったのは放火犯だけではありませんでした。

 以前裏路地深くまで入った時に聞いた声が聞こえてきます。


「おいどうなってる、まさか計画がばれたのか?」


「そんなバカな。俺達の計画は数名しか知らないんだぞ」


 建物の陰に身を潜めている人物がいます。

 今度は二名の声がしましたが、片方は間違いなく裏路地の古ぼけた家屋の中から聞こえた声です。

 警備兵が増えて困っている? これはもう一通送った方が良いかもしれませんね。

 とりあえず古ぼけた家屋の場所を描いた地図を警備隊の建物内に放り込み、ローレル様に警戒を促す手紙も送っておきましょう。


 翌日からは警備体制が緩みました。

 おや? てっきり更に警備が厳重になると思いましたが逆ですね。

 恐らくあまり警戒させると逃げてしまうからかもしれません。


 その考えは正しかったようです。

 ある日の昼下がり、警備隊が通常の巡回中に宿から一人の女性が飛び出してきて、警備隊に怒鳴り散らします。


「アンタたちは一体何なのよ! わかってるんでしょ!? わかってるんならさっさと捕まえなさいよ! それとも私が放火犯だと知ってワザと泳がせてるの⁉ 苦しむ私を見て喜ぶなんてどうかしてるわ!!」


 中年の女性がフードもせずに警備隊にわめき散らしますが、その姿はまるで狂人のようです。

 そんなに苦しかったのならやらなければいいのに。

 放火犯だと自白し、更に女性なのにフードをしていなかった事で警備隊に連れていかれました。


 ふぅ、これで私のやる事は無くなりまし――壺か何かが壊れるような音が鳴り響きました。

 何事かと思い音のする方へ行くと、なんと裏路地の奥の方から言い争う声が聞こえてきます。

 あ、あそこは怪しい声が聞えた古ぼけた家屋だわ。

 家屋の住人と他の住人が大勢……いえ、あれは変装した警備兵が家屋に押し入っているように見える。


 聞き耳を立てると「フィフティーベルの回し者め!」「テロなんて許せん!」「ここは我らの聖地だ!」この辺りは警備兵らしき人物たちの声。

 他には「やはりバレていたのか!」「裏切者はどいつだ!」「おのれ侵略者ども!」こちらは怪しい人物たちの声です。


 テロ? え、テロをくわだてていたんですか?

 ……背筋が寒くなり、私はその場を後にしました。

 ふぅ、放火の犯人を見つけられたので、これで教皇様に顔向けができます。


「ただいま戻りました。音信不通にしてしまい、大変申し訳ありませんでした!」


 新しい宿に戻り、私はローレル様に頭を下げます。


「おかえりなしゃい。別の者まで引っ掛かりましゅたね」


「はい。私としては放火犯が見つかったので安心しました」


「うふふふ、今回も面白い事になりそうでしゅね」


 ん? 別の者が引っ掛かったって、ローレル様はテロリストの事までご存じなの?

 諜報員が何人もいるとは思っていたけど、ひょっとして王国ではなく、ローレル様ご自身で雇っているのかしら。


 そして私は大聖栄誉勲章だいせいえいよくんしょうを受ける事になったのです。

 ええ、私がやっている事は全てローレル様に筒抜けで、放火犯だけでなくテロリストのアジトを突き止めたことも含めて受勲されました。

 大聖栄誉勲章だいせいえいよくんしょう騎士団大翼星章きしだんだいよくせいしょうよりもランクが一つ上なので、うーん、災い転じて福となす?


 テロリスト達の国であるフィフティーベルは、プレアデス教国きょうこくにあるとある土地を神聖視しており、そこをプレアデスに奪われた! として聖戦を仕掛けるつもりだったようです。

 なので私は戦争を未然に防いだ功労者らしいです。

 ただの偶然なんですけどね。


 そうそう、クラウン帝国の使節が放火した理由はもちろん逆恨みですが、それ以上にクラウン帝国は苦しい立場にあるため、何としてもプレアデス教国きょうこくと親交を深めたかったようです。

 なのに宿敵であるエルグランド王国の使節が受勲されたものだから、感情の高ぶりを抑えきれなかったとか。

 あくまでも個人の暴走らしいですが、少しだけ警戒した方がいいでしょう。


「今までもシルビアしゃんには驚かされましたが、今回は格別に驚かされましゅた」


「騎士団大翼星章の不手際を挽回しようとして暴走してしまいました。しかもローレル様には筒抜けという……お恥ずかしい限りです」


「結果的に丸く収まったのだから大丈夫でしゅよ。しかし多国籍屋台村の準備は一人で大変でしゅたねぇ……」


「申し訳ありません。今までの分を挽回する位に働きます!」


 あ、そういえば屋台村だけではなく、エルグランド王国の遊びを伝えるイベントもあるんでした……これは結構大変かも!?

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