第70話
私が姿を消して二十日後。
私はプレオ・ネスタ大聖堂で受勲されていました。
「シルビアに
中心の円に記号のような鳥が描かれ、円の上下左右には王冠のような装飾が付いており、後光が差したような彫り物が付いています。
赤と青のストライプの短い帯に付けられた勲章を、教皇アルシオーネ八世が私の左胸に付けてくれました。
「ありがとうございます。これからもプレアデス
「うむ! それにしても姿を消した時は驚いたぞ」
「あの時はお騒がせしました。ですがお役に立てて光栄です」
私が姿を消した理由、それは単純に
なんとか許しを請うために動き出したのです。
まず始めたのは宿に火を放った放火犯の調査です。
プレアデス
手掛かりが欲しかったので燃えた宿をくまなく調べると、私とローレル様が泊まっていた部屋からかすかに特徴のある匂いがしました。
その匂いは部屋全体からしましたが、こんな匂いのする物は持っていません。
「この匂いの元がわかれば手掛かりになるかしら」
他にも従業員に聞きたい事が沢山ありましたが、ほとんどが治療院で治療を受けているため聞けません。
なのでこの匂いから探す事にしました。
実は匂いの元は思ったよりも簡単に見つかったのですが、それをどうやって使ったのかがわかりませんでした。
まず匂いの元は
石鹸ならもっといい香りを付けたら? と思いますが、この石鹸を火であぶると火事現場ととても似た匂いがします。
問題はどうして石鹸の匂いが私達の部屋からしたのか。
石鹸の他の使い方でもあるのかと店員に聞きましたが、店員も石鹸以外の使い方は知らない。
本当に困りました。
売り切れている店も多いのですが、何件目かの店で話を聞いていると旅行客が声をかけてきました。
「それはクラウン帝国製の石鹸だろ? 帝国民でもあまり知られていないが、砕いた粉を少量の水に溶かし布に吸い込ませて乾燥させると、ロウソクの様に燃えるんだ。さらに乾燥させた布を軽く水に濡らして絞ると、少量だがまるで油の様になる」
早速石鹸を砕いて実践してみると、完成した油のような液体は現場の匂いと同じでした。
クラウン帝国民でも知られていないという事は、国外の人間にはまず知られていないはず。
それを知っているという事は……
数日が過ぎて宿の従業員がポツポツと戻ってきました。
どうやら治療院でも聞き取りが行われていたらしく『またか』という顔をされましたが何とかお願いしました。
当日働いていた従業員は三十一名。
聞き取り中は石鹸で作った油の小瓶の蓋を開けていましたが、誰も反応しません。
なので普通に話を聞いていたのですが、その中で少々気になる証言がありました。
『クラウン帝国の使節が部屋の下見に来たけど、火事にあって災難だったな』
です。
どうやらクラウン帝国からも使節団が来ているらしく、別の宿に泊まっているようです。
クラウン帝国……エルグランド王国と戦争をした国だ。
逆恨みでもされたのかと思いましたが、そのクラウン帝国の使節も治療院に入っているため、犯人が自らの放火で火傷はしないだろう、との事でお
しかし私は執念深い女です。
疑問に思った事を解決しないと気が済みません。
するとどうでしょう、帝国の使節は大量の石鹸を買っていたのがわかりました。
「帝国で使っていた大好きな石鹸の香りが恋しいから、ある分を全部ください」
なので店員も顔を覚えていたようです。
余計なおしゃべりをする人は、心にやましい事がある場合が多いですね。
状況証拠は揃ってきましたが、確実に犯人かと言われると疑問が残ります。
あと一歩何かがあればよいのですが……
何かないかと街を歩いていると、いつの間にか裏路地深くに入っていました。
いけない、治安がいい国とはいえ裏路地は危険です。
急いで戻ろうとすると、ヒソヒソ話が聞こえてきました。
「……フィルティーベルの聖地……予定で……そろって……だがしかし……プレアミア……鉄槌を……」
古ぼけた家屋の中から聞こえてきた内容は、あまり穏便な内容ではありません。
しかしフィフティーベル? 確かプレアデス
あ、急いで戻らなきゃ。
それにしてもいい手が思い付きませんね……こうなったら犯人に自白してもらいましょう。
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