第73話

 プレアデス教国きょうこくを出て二十日の旅が終わり、ようやくエルグランド王国へと戻ってきました。

 長い旅路でしたが、二度目なので行く時よりは随分と楽でした。

 帰ってきたらまずは陛下へいかに報告ね。


「良くやった。まさか勲章を持ち帰って来るとは思わなかったぞ!」


 謁見の間には沢山の貴族が集まり、私とローレル様の帰還を祝福してくれます。

 陛下へいかは勲章を見たいのか、玉座から降りてひざまずく私達の前までいらしました。


「どれ、よく見せよ」


 顔を上げて立ち上がり、胸に付けた大聖栄誉勲章だいせいえいよくんしょうを少し手で持ち上げます。

 陛下へいかはご自身のアゴを指でつまみ、勲章をまじまじを眺めます。


「これが大聖栄誉勲章か。確か騎士団大翼星章きしだんだいよくせいしょうもあったのだろう? アレはどんな形だったのだ?」


「騎士団大翼星章は細い線が放射状に広がり六角形を成し、中央には翼を広げた鳥が掘られた勲章でした」


「そうかそうか! ふっはっはっはっは! 気分が良いぞ! 今宵は帰還パーティーを開く、二人とも参加せよ!」


「はいでしゅ」


「はい」


 夜になり、私達の帰還パーティーが開かれました。


「どうしたんでしゅか? 早く出て来てくだしゃい」


「だ、ダメです。これはダメなんです」


 私は用意された部屋の扉を内側から押さえ、誰も入ってこれないようにしています。

 ローレル様が呼んでいらっしゃるけど、こればっかりはダメなんです!


「なにがダメなんでしゅか? いい加減覚悟をきめてくだしゃ~い」


 な、なんだか楽しんでませんかローレル様⁉

 どうしてこんな事になっているんでしょうか、私は普通にパーティーを楽しみたかっただけなのに……


「出てこないなら強硬手段でしゅ。さあ、こじ開けてくだしゃい」


 扉がドンドンと力強く押されます。

 わ、わわっ! ダメですったら! こんな、こんなのあんまりです!

 遂に押さえきれなくなり扉が開かれました。


「ふっふっふ、シルビアしゃん? どのドレスを……」


 ローレル様が私を見て言葉をなくします。

 ええ、ええわかっています、こんなキレイなドレス、私にはとても似合いません。

 ほら、他のメイドさん達も目を見開いて驚いています。


「きれい……」


 一人のメイドさんがそんな事を呟くと、他の人達から怒涛の美辞麗句が並べられます。

 

「シルビアしゃん、予想を超えてキレイになってるでしゅよ」


「まぁ! まぁまぁまぁ! 元が良いとは思っていましたが、ここまでの素材だとは思っていませんでした!」


「そ、そんな事ありません! ドレスに着られているだけです!」


 肩を出した青いロングドレス。

 軽くラメが散りばめられており、光が当たるとキラキラと光ります。

 髪が伸びていたので三つ編みにして右肩に乗せていますが、恥ずかしくて髪で顔を隠しています。


「さあ行きましゅよ」


 無理やり手を引かれ会場へと入ります。

 会場は既にたくさんの人達で溢れかえり、静かな音楽と共に立食パーティーを楽しんでいます。

 ううっ、こんなに沢山の人の前で恥ずかしい姿をさらすなんて。


「シルビア!」


 女性の元気な声と供に私の視界が真っ暗になりました。

 こっ、この柔らかい感触は!


「ぷ、プリメラ、苦しいです」


「もうなによ! 一年ぶりなんだから大人しく抱かれてなさい!」


 相変らず豊かな胸に抱き付かれ、私はもぞもぞと首を動かして何とか口を出します。

 ふぅ、久しぶりですね、コレ。


「お久しぶりですプリメラ。お元気でしたか」


「元気よ。ワタクシの体調管理は完璧なんだから、それよりもそのドレス、よく似合っているわ」


「ふふふ、ありがとうございます。そうですね、プリメラはいつも元気です」


「そうそう聞いたわ! クラウン帝国のやつらめ、私のシルビアになんて事するのかしら!」


「それはもういいですよ。お陰で勲章がランクアップしましたから」


「それもそうね。シルビアが帝国ごときに負けるはずがないわ」


 いえ、流石に個人で国には勝てませんからね?

 プリメラと楽しく会話をしているとリック様が来てくれました。


「シルビア……お帰り」


「お久しぶりですリック様。ただいま戻りました」


「うん……会いたかった……プレアデス教国きょうこくへの使節団の任務、しっかりとやり遂げてくれたね……ありがとう……なんだか、キレイになったね」


「ありがとうございます。お役に立てたのなら幸いです。リック様は……たくましくなられましたか?」


「ああ……グロリアお兄様に鍛えられたから……ね」


「ちょっと、二人の空間を作らないでくださいませんこと? 私の挨拶がまだですのよ?」


「リバティ様、お久しぶりです。エクストレイル伯爵領でお会いして以来ですね」


「手紙だけは欠かしませんでしたが、実際に合うのは数年ぶりですものね」


「はい。学園の皆様もお元気でしょうか」


「息災ですわよ。令息令嬢はしぶといんですから」


 とても懐かしい顔ぶれです。

 まるで学園に通っている頃に戻ったような感覚ですね。

 他にもアベニール辺境伯、エクサ子爵、エクストレイル伯爵、フーガ侯爵、レパード公爵とも挨拶をしました。

 皆さんお元気そうで何よりです。


 ほっ、知っている人達が相手ならドレスを見られても……少し恥ずかしいですが、素直な感想を言ってくれるので安心です。

 でもそれもここまで。

 一通り知り合いとの挨拶が終わると、後は知らない貴族の方々とのおべっか合戦が始まりました。

 つ、疲れます。


「うむ、一通り挨拶が終わったか」


 最後になって陛下へいかが会場入りされました。

 一同が頭を下げると、陛下へいかは私の前に歩いてきます。

 あら? 何かあったのかしら。


「シルビア、お前は明日から王宮のメイドとして働け」

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