第7話
「えっとね、そのね……シルビア! ワタクシと付き合って欲しいの!」
プリメーラ様は右手を差し出して頭を下げている。
えーっと、えーっと、お付き合い? お付き合いって男性とお付き合いするみたいな意味? いえいえお嬢様は女性よ? ならこの場合は……そういう事ね!
「わかりました、お付き合いさせていただきます」
「ほ、本当に⁉」
「ええもちろんですとも。では今からお茶の用意をしますからしばらくお待ちください」
「え? ちょ、ちょっとシルビア?」
もープリメーラ様ったら馬車でお疲れだったのね。だから甘いものが欲しいけど素直に言えなかったんだわ。
お茶に付き合って欲しいだなんて、貴族の
お湯を沸かしてバルコニーに紅茶セットを運び込む。
バルコニーには白いガーデンテーブルセットが置いてあるから、プリメーラ様にはそこに座って頂いた。
私は紅茶セットをテーブルに置き、もう一人手伝ってもらったメイドさんには三層のケーキスタンドを持ってきてもらった。
「さあプリメーラ様どうぞ」
「ありがとう……ってそうじゃないのよ! 付き合って欲しいの! 学園に!」
「学園、ですか?」
「そう! ワタクシは王都の学園に通っているのだけど、お付きの者が事故で動けなくなってしまったの。だから別の者を探していたんだけど、同年代が居ないのよ。だからシルビアに一緒に来て欲しいの」
「しかし私はここの秘書をしていますよ?」
「だからお父様にお願いして来てもらったの。まずはラシーンに許可をもらって、その後でエクサ子爵にお願いしようと思って」
「え、今回の訪問の目的はそれだったんですか? でもどうしてあった事もない私を?」
「あなたのウワサは聞いているわ。一人で男爵領をやりくりしたやり手だって。そんな優秀な人材だもの、ぜひにお願いしたいわ!」
最近になってようやく元男爵領がどれだけ酷かったか理解出来ましたが、私がやっていた事もかなりギリギリだったことも理解出来ました。
貴族の代理として町長に頭を下げたり、出入り業者に色々として頂いていましたが、貴族の代理人がそんな事をしてはいけません。
ですがその話が美談としてまわりに広がってしまったのです。
それが『一人で男爵領を数年持たせたメイド・シルビア』でした。
今回の様に直接交渉に来られたのは初めてですが、ラシーン代理人から「スカウトの話しが来ている」とは聞いていました。
「ですが私はラシーン代理人の秘書にすぎませんが……お嬢様の付き人など務まるでしょうか」
「問題ないわ。この屋敷を一人で維持管理していたのなら、私一人くらい大丈夫よ」
中々に強引なお嬢様です。
ですが私は雇われの身、ラシーン代理人やエクサ子爵に行けと言われれば行くしかないでしょう。
それに……学園にはちょっと興味があります。
「わかりました、代理人や子爵が良いと言えばお受けいたします」
「そう来なくちゃ!」
プリメーラ様は満足げにお茶を一口飲み、ケーキスタンドの一口ケーキを口に運びます。
まだ決定したわけじゃないんですよ?
「行っておいで。なんなら今から
ラシーン代理人がアベニール辺境伯と共に昼間からリビングでお酒を飲んでいましたが、二人ともニマニマとご機嫌です。
ああ、どうやらすでに話しが決まっていたようです。
どうりでラシーン代理人が妙に落ち着いていたわけですね。
「それでは明日にでも出発しよう! なーにワシの馬車は大きいからな、一人や二人、荷物の数人分が増えた程度どうという事はないわい! グハッハハハ!」
「え? アベニール様と同じ馬車に乗るんですか?」
「そうよ! シルビアは私の付き人だもの、同じ馬車で行くの」
こういう時は荷物用の馬車に乗るものだと思っていたけど、なんだか不思議な感じがするわ。
あれよあれよと話しが進み、プリメーラ様と一緒に荷造りまでしてしまいました。
「あら、このメイド服は随分とボロボロね、継ぎはぎだらけじゃない」
「それは以前着ていた物です。随分と着ていませんね」
「学園では新しいメイド服を用意するわよ! それとも今みたいな男装っぽいのが良い?」
「お仕えするのですからメイド服の方がいいでしょうか」
「わかったわ! じゃあオーダーメイドしましょう!」
すごく楽しそうです。
メイド服のオーダーメイドなんて聞いた事ありませんが。
翌日の朝には出発し、数日後にはエクサ子爵領に到着しました。
そしてエクサ子爵にお会いすると「ああ、行っておいで」と当たり前の様に言われてしまいました。
わかっていましたよ、ええ。
しかしそこからが長旅でした。
てっきりアベニール辺境伯領に戻るのかと思いきや、そのまま王都へ向かうというのです。
子爵領から王都まで馬車で十日以上……がんばれ私のお尻!
途中の街で二回宿泊をして、ようやく到着しました。
私のお尻はギリギリ耐え抜きました。
「大きい……」
「凄いでしょ! ウチの領地も凄いけど王都は別格なの!」
高い城壁に囲まれた街に入ろうとする人で行列ができています。
入り口は大きい様で三カ所で手続きをしていますが、あまりにも多いため中々進んでいるように見えません。
「ワシらは並ばなくてもいい。あそこから入るぞ」
アベニール辺境伯が指さした先には小さめ、と言っても正門が大きすぎるだけなんだけど、入り口があった。
そこには数台の馬車が並んでいるだけでスムーズに入っている。
「あそこは貴族専用の入り口なの。だから私達はあそこからよ」
「わかりました。では私は行列に並んでいます」
馬車から出ようとする私を辺境伯とお嬢様が同時に止めました。
「「
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