第8話

 馬車に乗ったまま貴族用の門をくぐり王都内に入りました。

 街に入ると……思ったよりも静かですね。

 通路の両脇にお店は無く、兵士や業者らしき人ばかりです。

 意外そうな顔をする私にプリメーラ様が声をかけます。


「思ったほど活気が無いって思ったでしょ」


「はい、これだけ大きいのでもっと活気があるとばかり」


「それはね、ここが貴族専用の入り口だからよ。もう少し待ってなさい、きっと開いた口がふさがらなくなるわよ」


 少しいたずらっぽい顔を私に向けます。

 静かな道を進むともう一つ門が現れました。

 あら? 街の中にもう一つ入り口があるの? もう一つの門は馬車が停まる事なく開き、そのまま中へと入っていきます。


「きゃ!」


 私は思わず両手で耳を塞ぎました。

 え? え? 今凄く大きな音が聞えたけどなに? まさか襲撃⁉

 驚く私の膝にプリメーラ様は優しく手を乗せてくれます。


「大丈夫よ、ゆっくり耳から手を離して」


 静かに手を離すと大きな音が聞こえてきます。

 あら? これは人の声? 沢山の人が……話をしているの?

 馬車の外を見ると人でごった返しているのが見えました。

 山のような人だかりで露店や宿がたくさん並んでいます。

 

「全部……人?」


「そうよ。凄いでしょ王都は! 私も始めて来た時は同じ反応をしたわ」


 プリメーラ様の声に首を縦に何度も振り、私は外の景色から目を離せなくなってしまいました。

 あのお店は何屋さん? ああっ喧嘩をしてるわ! あの果物美味しそう、あれは白パンに何かを挟んで食べているの⁉ 子供がぶつかりそう! あ、避けた。


「んん……着いたのか?」


「ええ、もうとっくに到着していますわお父様」


 どうやらアベニール様は寝ていたご様子。

 この音の中で眠れるなんて、もう慣れてらっしゃるのね。


「ではまず寮に行って荷物を下そう。私はそのまま城へ行く」


「わかりました。シルビア、学園の寮を案内するわね」


「かしこまりました」


 人混みの中を馬車が進み、しばらく行くと段々と人が少なくなっていきました。

 なるほど、入り口近くは商売が活発なのね。

 学園の寮は直ぐに到着した。

 どうやら学園の敷地内にあるらしく、高さ三メートル程のレンガ積みの壁の中に入っていく。


「ではワシはここまでだ。シルビア、プリメーラを頼むぞ」


「はい、誠心誠意努めさせていただきます」


 馬車を降りるとすでにもう片方の馬車から荷物が降ろされていた。

 私のバッグが一つ、プリメーラ様の特大バッグが四つ……いきなり私一人では運べない量だわ!!


 と思ったら男性が二人付いてきてプリメーラ様の荷物を運んでくれた。

 毎回運んでもらえないだろうから、筋力を付けないとダメね。

 寮はレンガ造りの五階建て、大きな扉を開けると玄関周りは二階との吹き抜けになっており、外から見た以上に広く見える。


「じゃあ荷物を部屋に運んでおいて、ワタクシとシルビアは買い物に行ってくるわ」


「え? 荷物は私が……」


「いいのよそんな事。力仕事は寮の人間がやるんだから」


 気が付くと最初に荷物を運んでくれた二人は姿が無く、寮の職員らしき男性が荷物を持っていた。

 こ、こういうものなのかしら。

 手を引かれて学園を出ると、最初に向かったのは服屋さん。

 

「さあシルビアの衣装を作るわよ!」


 全身を採寸されてベースとなる衣装を次々に見せられて、プリメーラ様と一緒にアレが可愛いコレが可愛いと楽しんでしまった。

 次に食べ歩き。

 私が興味津々で見ていた白パンに何かを挟んでいた物を食べ、途中からはただのウィンドウショッピングに切り替わっていた。


「あー楽しかったー!」


 日が沈みかけたので寮に戻ってくると、寮の玄関には灯りがともされていた。

 寮に入るとお嬢様は私を三階の自室に連れて行ってくれたけど、なんと部屋の前では食事の準備をする為にシェフが二人待っていた。

 食事の乗ったワゴンと共に部屋に入ると手際よくテーブルに並べ、手伝おうとする私を手で制するとプリメーラ様の正面の席に座らされた。


「食事の準備はこの者達の仕事よ。あなたはワタクシと一緒に食事をするの」


「し、しかしプリメーラ様」


「あ、あとその呼び方、友人からは縮めてプリメラって呼ばれてるからそう呼んで」


「わかりましたプリメラ様」


「プ・リ・メ・ラよ」


「プ、プリメ……ラ」


「さあ食事を頂きましょうシルビア」


 食事を頂きながら話をしたけど、どうやら私の仕事は友人兼サポート役らしい。

 友人として共に学業にいそしみ、それ以外ではプリメラのお世話をするようだ。

 しかしお世話といっても専門の担当が何人もいるらしく、私の主な仕事は学園内でのお世話らしい。

 そして部屋はプリメラと同室ですが、寝室は二つあるので別々に寝る様です。


 今は長期休暇の最中らしく、数日は学園や寮の事、そして王都の事を色々と教えて頂いた。

 プリメラの御友人にも会えたし、その付き人さんとも仲良くなれた。

 他のお嬢様方と付き人の関係も私とプリメラと同じように呼び捨て、更にはため口という何とも恐れ多いモノだった。


「明日からは学園が始まるわ。授業も受けてもらうけど、わからない事があったら言ってちょうだい、ワタクシが教えてあげるわ」


 入浴を済ませ(部屋に大きな浴室があるの! 凄い!)ソファーに寝ころんだプリメラの体をマッサージしていた。


「私は授業について行けるでしょうか」


「大丈夫よワタクシが教えてあげる。人に教えるのは自分の勉強にもなるの。だから心配する事ないわ」


 そして翌日。

 届いていたオーダーメイド服にそでを通しましたが……スッ! スカートが膝上ですって!?

 確かに動きやすいですが大胆過ぎませんか!!

 

「あら似合ってるじゃない。ほらほら行くわよ」


 プリメラは少し口元に手を当てて笑っています。

 注文時はスカート丈はもっと長かったのに……やりましたねプリメラ。

 しかしプリメラの制服も膝上とは言いませんが膝のすぐ下、ここはお仕えするお嬢様の好きにさせてあげましょう。


 学園にいくとお嬢様方とお付きの人達が沢山です。

 当たり前だけど。

 そして当たり前の様に初めて会う方たちと私は挨拶をかわします。

 この方は公爵令嬢⁉ こちらはあの大手商会の御令嬢⁉ あわわ、私なんかと口をきいても良いんでしょうか。


 教室に入ると更に貴族の方々との挨拶三昧……ううっ、男爵、男爵までなら平常心で対応できるんです!


「随分と芋臭い女がいるな」


 不意に後ろから声がしたので振り向くと、嫌な笑い方をした男子生徒が五名、私を見てニヤニヤしていました。

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