第17話 11月29日
孔明は今回は模試の会場の近くのホテルに泊まっていたらしい。
そのホテルで首を吊って死んでいるところを発見された。
PCに遺書らしき物が残っていたので自殺だと断定された。
何も考えられなかった。
いや、考えたけど理解ができなかった・・・・・
『俺に勉強を教えてくれながらも頑張ってA判定だったのに』
『東京の模試の出来が悪かったのか?』
『そんなに東大に入ることが大事だったのか?』
『自殺するくらい思い悩んでいたのか?』
『俺は仲良くなったつもりでいただけで、あいつの事を何もわかってなかった・・・・・』
『俺はいつも何もできない・・隆も、孔明も、本当の気持ちに気づけない・・・・』
帰りのホームルームの後、俺と折原が職員室に呼ばれた。
今日の孔明の通夜に出て欲しいと言われた。
理由が理由なので、参列者をなるべく少なくしたいと孔明の家族から連絡があって、俺と折原と隆だけにしてほしいと。
何故俺たちだけなのか?と思ったが、その理由は通夜が終わった後、孔明の祖父から説明してもらった。
「新谷くん?高木くん?折原さん?」
俺たちは孔明の祖父に呼び止められた。
お母さんは、孔明が死んだ事を聞いて、塞ぎ込んでしまったらしい。。。。
孔明のPCの中に遺書の他にもう一つ、ファイルがあったようだ。
そのファイルに俺たちへのメッセージがあったから俺たちが通夜に呼ばれたようだった。
「孔明と仲良くしてくれてありがとう」
「あの子は、こっちでも友達ができたって話をしてくれて・・・・」
「せめて・・・その友達だけでも・・・」
そう言って、孔明の祖父は泣き崩れてしまった・・・・
孔明の祖母から
「遺書と一緒にこの文章も見つかったので、よかったら読んでやってください」
涙を浮かべながら祖母はそのテキストファイルのプリントを俺に渡してくれた。
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新谷、高木、折原
文化祭の準備、打ち上げ、楽しかったよ、ありがとう。
高木
お前はうれしくないかもしれないけど、僕はお前が羨ましかった
お前みたいになりたかった
動画いつも楽しみにしてた、才能あるからがんばれよ
折原
折原の話は興味深かった、信じてはいないけどね
折原のこと好きだった
折原には幸せになってほしいと思ってる
新谷
お前は自分が思っているよりずっと良いやつだよ
お前と話すのは楽しかった
あと、お前ならあの大学ぐらいなら絶対受かるよ
しっかり対策してがんばれよ
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嗚咽と涙が止まらなくて、俺はその場で泣き崩れてしまった。
俺たちは無言のまま隆の家に向かっていた。
このまま家に帰る気持ちにはなれなかった。
何を話していいかもわからないが、気持ちの整理するためにも3人で話をしたいと思った。
隆の部屋に集まったは良いが、長い時間沈黙が続いた。
「人間ってなんの為に生きているだろうね?」
折原が話を切り出してきた。
「私はアンドロイドだから、生きている意味がはっきりしている」
「私は別にそれに対して何の疑問ももっていない」
「井澤くんは私に『幸せになってほしい』って言ってくれた」
「だから、私は自分が幸せになることが・・・・」
「井澤くんのためにもなると思う」
「悲しくないのかよ!」
あまりも冷静に、そしてこの後に及んでまだアンドロイドとか言っている折原に腹が立って大きな声で言ってしまった。
「悲しいよ」
「人が死ぬのは悲しいよ」
「でも・・・・悲しんでいるだけじゃどうにもならないの」
「お父さんも、井澤くんも、私が幸せになって欲しいと言ってくれた」
「死んだ人の為にできることは、悲しむだけじゃなくて、私たちがそれに応えることだと思うの」
表情一つ変えず、冷静に、淡々に話しをする折原を見て本当にアンドロイドなんじゃないかと思ってしまったが、折原の言っていることは正しかった。
ただ、俺にはまだそんなに割り切った考えを持てない。
今はまだ、孔明が今ここにいない悲しさと、俺が何もできなかった悔しさで溢れる感情を抑えることができなかった。
反比例するように、その気持ちを表現する言葉は出てこなかった。
おしゃべりな隆が、ずっと黙っていた。
いつもこんな神妙な空気でも、ふざけた冗談でその場を空気を変えてくれるのに
ガチャ!!!
隆の部屋のドアが開いた。
隆の親父さんだった。
「なんとなく話は聞いたぞ」
「井澤だっけ?」
「あいつはバカだ、自分から死んじゃいけねえよ」
「でもな、人はいつか死ぬんだよな」
「オレも今までいっぱい人が死ぬところをみてきたけどな、そんな時どうするか?」
「まあ、とりあえず酒を飲む事だな笑」
「いいよ、オレがパクられても、今日は井澤の為に献杯しろよ」
そう言って、ビールとチューハイを置いて部屋を出て行った。
俺は初めてビールを飲んだ。
飲んですぐに頭がフラフラして、感情が溢れ出してきた。
俺は号泣しながら孔明との思い出も語り始めた。
隆と折原に慰められているところで記憶は終わっている。
折原とセックスをする夢をみた。
全裸の折原は、今までみたどんなアダルトビデオの女優より綺麗な身体をしていた。
透き通るような綺麗な肌、小ぶりだけど綺麗な乳房、ピンク色の乳首、綺麗なパイパン。
折原とキスをして、アダルトビデオを見て学んだ愛撫をしたら、折原は今まで聞いたことのないような小さい、か細い声で喘いでいた。
俺は挿入をしたが、すぐに果ててしまった。
初体験とはこんなものなんだろう。
そんな俺を見て折原は笑いながら「やっぱり新谷くんは違うかな?」と呟いた。
折原の瞳が緑色に光って微笑んだ。
12月25日
2学期の成績表をもらった。
今まで一番良い成績だ、担任からも東京の大学に学校推薦を出せるかもしれないと言われた。
当たり前だ、お前よりずっと優秀な孔明に大丈夫だって言われていたんだから。
折原の言葉じゃないが、俺は孔明のためにも頑張りたいと思った。
俺にできることは、孔明・・・いや自分の為に頑張るしかないって。
12月31日
隆と初詣に行くことにした。
中学の頃はよく一緒に行っていたが、高校に入ってからはめっきり行かなくなっていた。
孔明のことがあってから、俺たちはお互いの進路について真面目に考えるようになったかもしれない、俺はあの後も時間があれば勉強をするようにしたし、孔明に教えてもらった情報で、他の模試をうけたり、受験の対策をしていた。
隆は相変わらずyoutubeで動画を上げている、ただ上げる動画は全部オリジナルの曲になって、ニットキャップで隠していた顔を出すようになっていた。
チャンネル登録者も視聴数も、いいねも増えていった。
「先月youtubeで300円収入あったぜ笑、オレも一端のyoutuberだな笑」
俺たちは前を向いて生きて行こうと思っていた。
孔明の為にも。
「なにお願いした?」
「あれ?初詣って神様にお願いをするんだっけ?笑」
「笑」
「まあ、合格祈願だよ」
「受験生だからな」
「オレは、ヒカキンみたいになりたいってお願いしたぜ」
「お賽銭も500円も入れたしな」
「お前の月のyoutubeの収入より上じゃねえか笑」
「そりゃ大金だな笑」
「俺さ、東京の大学受けるわ」
「正月に親にも話すつもり」
「おお、そうかー」
「オレも父ちゃんに話してみる、正月に」
「兄ちゃんも帰って来るし、怒られるかもしれないけどな」
「俺も初めて親に話すし、反対されるかもなぁ」
「まあ、言うだけ言ってみようぜ」
「おみくじ買って帰ろうぜ」
隆は中吉、俺は末吉だった
「これどっちのほうが良いんだ?」
「わかんね」
「まあ、でも大吉でも、凶でもない中途半端な感じなのはわかる」
「まあ、そんなもんだろ俺たち」
1月1日
いつもと変わらない正月だった。
朝からTVの漫才を見て、家族みんなでダラダラと過ごしていた。
正月くらいは勉強は休んでも大丈夫だろうと思い、親父に話を切り出すタイミングを伺っていた。
昼食の時、親父が酒を飲み始めたので、酔っ払う前に話そうと思った。
親父は酒があんまり強くない、この間ビール一杯ですぐ酔った俺も、親父と同じように酒は強くなさそうだ。
「父さん、あのさ」
「うん?どうした」
「大学の話なんだけどさ、第二志望で出してた東京の大学、あっちを第一志望にしようかと思うんだけど良いかな?」
東京に出るとなると仕送りをしてもらうことにもなる、うちは特に裕福な家庭とは言えないから、この問題が一番ネックになると思っていた。
「ああ、いいぞ別に、受かりそうなのか?」
「父さんも母さんも、このあたりから離れて暮らしたことないし、お前は、他の街で生活してみるのも良いんじゃないか?」
「お前が、こうやって積極的に何かを言ってくることも珍しいしな」
「あ、ありがとう」
「成績が上がってきてるから、多分大丈夫だと思う」
「でも、落ちたらどうする?浪人はあんまり賛成できないな」
「一応滑り止めも受ける」
「うん、まあでも頑張ってみろ」
あっさりオッケーを貰えて、拍子抜けしてしまった。
これで目標ははっきりした。
少しやる気がでてきたので、勉強することにして部屋に戻った。
そうだ隆に連絡しておこう。
『なんかあっさりオッケーもらえた笑』
光からLINEが来た。
もう話したのか、やる気満々だなぁ
オレも親父に話すかぁ・・・・
大晦日の夕方に上の兄ちゃんが帰った来た。
彼女を連れてきた、今年に結婚するつもりらしい、父ちゃんは大喜びで機嫌がいい。
たしかに今はチャンスだ、彼女もいるし大目玉は食らわないかもしれない。
思い切って話してみることにした。
「父ちゃん、相談があるんだけど・・・」
「お?なんだお前も彼女紹介したいのか笑」
「いや・・・・・・」
「卒業してからのことなんだけど・・・・」
やっぱりなかなか言い出せない、が、思いきって話してみた。
「東京に行ってみたいんだ・・・」
「もちろん家の仕事は継ぐつもりだから、1年でいいから東京で暮らしてみたいんだ」
「・・・・東京行って何をするんだ?」
父ちゃんが少し真面目な顔になった、怒られるかもしれないと思ったけど、正直に言うしかないと思って、思い切って本当の事を話してみた。
「オレさ、いまyoutubeでラップの動画を上げてるだけど、オレ、東京でライブとか・・ラップバトルって、ラップで戦う競技とかあるんだけど、そういうのやってみたくて。」
「もちろんそんなんじゃ食っていけないのは知ってるから、バイトとかして金は稼ぐよ」
「あと、もちろんそんな簡単にラッパーとかになれると思ってないけど、1年だけでもいいから挑戦してみたいんだ。」
少しの沈黙の後、兄ちゃんが
「youtubeみせてみろよ」
俺はスマホを兄ちゃんに渡した。
オレのチャンネルのリストをチェックしだして。
「あっレイジのカバーじゃん」
そういうって動画を見始めた。
みんなで動画を観ている4分くらいの時間が1時間くらいに感じた。
「ははっ隆、上手いじゃん。」
「これ、再生数多いね、オリジナル?」
兄ちゃんはオレが初めて作ったオリジナルのラップの動画を見始めた。
今度の3分は2時間くらいに感じた。
「・・・・隆」
父ちゃんが真面目な顔をして話はじめた。
「2つほど気に食わないことがある」
やっぱり怒られるのか・・・・
「まず、オレはお前に家の仕事を継げなんて一度も言ってない」
「お前はやさしいやつだから、一も和幸もいなくなって家の仕事を継ぐのが当たりまえと思ったのかもしれないが、オレは別にそんな事は思ってないぞ」
「もちろん継いでくれるって言うのならばうれしいし、お前が手伝ってくれてるのはすごく助かってる」
「ただ、お前がやりたいことがあるのに、無理矢理やらせるほど、ダメな親じゃないぞ、オレは」
「もう一つ」
「1年でダメならあきらめて帰ってくるのか?」
「そんな甘い考えでなれるもんなのか?」
「ラッパーになれるまで帰ってこねえ、くらいの気持ちがねえなら賛成はできねえ」
「やるんなら徹底的にやってこいよ!」
「父ちゃん・・・・」
オレは父ちゃんの言葉を聞いて泣いてしまった。
兄ちゃんがオレの肩を叩いて
「すげーよ、上手かったよ、やってみたら良いじゃん」
「家の仕事は・・・・どうせ和幸がそのうち借金抱えてこの街に帰ってくるよ笑」
「一回だけあっちで会ったけど、予想通り『金貸してくれ』だったからな」
「もちろん貸さないで、1発腹パンしといた笑、一応まだホストやってるらしいから、顔は商売道具だと思ってな笑」
兄ちゃんが東京にきたら面倒をみてくれることになった。
住む家も、バイトも兄ちゃんの知り合いに頼んで紹介してくれる事になった。
光の話もしたら、じゃあシェアハウスみたいな安いところを探してくれると言っていた。
『オレも大丈夫だった!!!』光にLINEを送った。
1月6日
3学期が始まった。
折原が伸びていた髪をまたショートにしてきた。
俺は転校してきた頃の、少し茶髪のセミロングが好きだったが、折原はショートが気に入っているんだろう。
そういえば、2学期の途中から『折原目撃情報グループ』の話題がほとんど更新されていなかった、みんな飽きたのか、それともそもそも折原が目撃されなくなったのか。
俺と隆は卒業してからの計画を立てていた。
隆の兄貴が色々世話をしてくれる事になった。
部屋探しは、隆に任せて俺は勉強に集中して良いと言ってくれた。
俺が大学に受からなければ全ては台無しになってしまうので、俺は勉強を頑張った。
孔明にいろいろ教えてもらった対策を実践していた、その度にあいつのことを思い出して、辛い気持ちになったが、折原が言っていた台詞じゃないが、今の俺には孔明のためにも勉強を頑張るしかなかった。
1月15日
受験が迫ってきた、ノートやマーカーが無くなったので、文房具屋に買いに行く事にした。
商店街で高柳さんが店にいるのを見かけた。
なんとなく寄ってみる事にした。
「おっ新谷くん久々だね〜、元気だった?」
相変わらずの軽いノリで話しかけてきてくれた、おそらく高柳さんも孔明の事は知っているはずだろうが、話題にしないのはきっと優しさなんだろう。
「俺、東京の大学受ける事にしました」
「知ってる、知ってる、お姉さんから聞いたよ笑」
え?姉ちゃんから?ひょっとして合コンしてからこの二人付き合ってるのか?
俺が少し言葉に詰まっていると。
「あはは、違う違う、信金行った時さ、世間話をして聞いたんだよ」
「お姉さんも喜んでたよ、なんかこんなに前向きな新谷くんみるの初めてだって」
「まあさ、もし挫折しても帰ってくるところがあるってことは幸せだよ笑」
挫折をするつもりはないけど・・・
でも、こうやって軽いノリで話してくれると少し救われる。
もし東京の大学に落ちたとしても今まで通り、この街で生活するだけなんだから。
「そろそろ受験でしょ?がんばってね」
「まあ、おれはなんにもしてあげれないけどさ笑」
何も買わずに帰るのもあれなんで、駄菓子を何個か買って店を出た。
文房具屋で買い物をして店を出ると折原を見かけた。
私服の折原をみたのは初めてかもしれない。
かわいい・・・とか、美しいとか・・・
いろんな言葉で表現できるかもしれないが・・・
折原にはやっぱりどこか他の女の子とは違う何かを感じる。
東京に行けば、折原みたいな女の子はいっぱいいるんだろうか?
思わず声をかけてしまった。
「折原!」
「あっ新谷くん」
「いや、買い物に出かけたんだけど、折原を偶然みかけたら声をかけただけ笑」
「笑」
「新谷くん、やっぱり変わったね・・・・」
「え?そう?」
「うん・・・・・」
「・・・・・言いにくいけど・・・・・」
「井澤くんが死んじゃってから・・・もっと変わった」
「・・・・・・・・」
「悪い意味じゃないよ・・・」
「うん、そうかもな・・・」
「あの日・・・折原が言った事・・・」
「あの時俺は混乱してたし、悲しかったし・・・」
「今もまだ正直気持ちの整理はできていない部分はあるけど・・・・・」
「それでも少しだけだけど・・・あいつの為にもがんばんなきゃって思うようになったよ」
「ふふっ」
折原は俺の目をじっとみて微笑んだ。
「それでもやっぱり新谷くんは違うけど・・・笑」
「綺麗な目になったし、良い匂いもするようになったよ」
夕焼けに反射しているはずの折原の目が緑色に光っているように見えた。
その折原は表情は今までで一番美しかった。
「新谷くんに男の子の子供ができたら、私の娘とセックスするかもしれないな」
折原は今まで俺に見せた事ない笑顔でそう言った。
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