第14話 11月1日

月は共通模試があるので、テストが終わってもみんなどこか緊張感が漂っている。

毎回のように学年でトップの成績だった大森は、孔明に大きく点差をつけられたことにショックを受け、猛烈に勉強しているらしい。


今回俺は孔明のおかげで自己最高の点数がとれたので、模試もちょっと頑張ってみようという気持ちになっていた、結果次第では、もう一つ上のランクの高い大学に挑戦しても良いかもなんてことも考え始めた。


隆に一緒に東京に行かないか?と言われた事もそうだが、高柳さんに言われた事も気になっている、あと、他の街に出ると、孔明や折原みたいなこの街にはいないタイプの人間と出会えるかもしれないと思った。

俺自身は何も変わらないかもしれないが、色んな人たちにもっと出会えるんじゃないかと。


今までこの街を離れることなんて一度も考えたことがなかったから、少しワクワクした。

東京の大学で折原みたいな可愛い彼女ができるかもしれない。なんてことも妄想しながら、勉強のモチベーションも少し上がってきた。


久々に隆と一緒に下校した。


「最近勉強がんばってるぽいじゃん」


「中間の結果も良かったし、模試も頑張ろうかなって」

「ところで、お前ほんと東京行く気あんの?」


「うーーーん、ちょっと行ってみたい気もするけど」

「父ちゃんの仕事あるからなぁ」


「なんだよ笑、お前が俺が行くならって吹っかけてきたくせに笑」

「まあ、俺も模試の判定次第だけどな」


「そういえば、まだ孔明ちゃんに勉強教えてもらってんの?」


「ああちょっとね、今回はあいつも集中したいみたいだし、邪魔しちゃ悪いから中間の時ほど連絡とってないよ、こっちで模試受けた後、東京でも違う模試受けるって言ってたよ」


「いやぁ、頭良さそうだと思ってたけど、めちゃくちゃな点数だったらしいな、この間の中間」


「うん、ほとんどの教科で満点とったみたいだから、ほんと東大受かっちゃうかもな」


「もしオレたちも東京行ったらたまには会えるかもしれないな」


いつものような実現するかどうかわからない話だが、今まで隆と話していたくだらない話とはちょっと違った。俺たちは未来に少し希望を持ち始めたのかもしれない。





11月8日


文化祭が終わってから、折原とは殆んど話をしていなかったような気がする。

特に話題があったわけでもなかったけれど、何となく放課後に話しかけてみた。


「折原、進路っていうか、学校決めたの?」


「うん、大阪の専門学校に行くことにした」


「大阪?なんで?」


「うーん、、、東京はちょっとやめておこうかなって事になって、東京というか関東は。」

「それで大阪にしようかなって」


どうして東京はダメなのか?と質問したかったけど、何となく触れちゃいけないような気がして聞けなかった。


「そっかぁ、折原も東京に行くんだったら、ひょっとしたらあっちで会えたかもしれないとか思ったんだけどなぁ」


「?」


「あっ、隆とさ、もし俺があっちの大学とか受かったら、一緒に東京行かないか?って話をしててさ、模試の結果が良かったらちょっと真面目に考えてみようかなぁって思っててね」


「・・・・・・・・」

「新谷くん、ちょっと変わったね」


「え?そう?どこが」


「うーん、上手くはいえないけど、ちょっと明るくなったかな?」

「あと、少し良い匂いがする」


「良い匂い?」


「うん」

「じゃあ、勉強がんばってね」


良い匂い?香水とかつけてないけど・・・・





11月22日


模試の結果がでた。

第一志望の隣町の大学はA判定、試しにと思って第二志望にした東京の大学はB判定だった。


「どうだった?」


孔明が話しかけてきた、LINEではそれなりに話していたように思うが、こうやって顔を合わせて話すのは久々だった。


「ああ、おかげさまで第一志望はA判定だったよ。」

そう言ってプリントをみせると。


「新谷、第二志望ここなの?」


「え?うんまあ、先生にも、もう一つくらい上を狙えるって言われたし、B判定だったけどね」


「まあ、でも新谷成績良くなってきてるから、まだ間に合うんじゃないかな?」


「え?まじ?」


「うん、ちゃんと対策立てたら・・いけると思うけど」


「まじ?まじかぁ・・・」

「孔明はどうだった?」


「ああ、一応全部A判定」


「え?まじで?東大も?」


「うんまあ」


「すげーじゃん・・・」

「・・・・・・」

「なあ、今日放課後、隆んち遊びにいかね?A判定のお祝い笑」


「・・・まあ、いいか」


放課後、隆と孔明と3人で隆の家に向かった。


「なんかあれだな、文化祭の打ち上げ思い出すな、折原ちゃんも呼んじゃう?」


「俺、折原の連絡先しらねーし笑」


「まじで?同じクラスなのに?」


「折原、クラスのLINEグループにも入ってないし、まあ、あんな感じだからなぁ」


「あっ、高柳さんとこでジュースと菓子買っていくわ」


「じゃあ、オレ先にちょっと部屋片付けるから先に帰ってるわ」


「片付けるって笑、あんな散らかった部屋すぐ片付くわけないだろ笑」


「いや、さすがにティッシュとかは捨てておこうかなってよ」


隆は走って先に家に向かって行った。



「こんにちは〜」


「いらっしゃい、おっ新谷くん!ひさしぶり!」

「いやぁ、ありがとね、合コンうまくいったよ〜」


え?姉ちゃん何も言ってなかったけど、合コンやったんだ。


「今日は何?酒でも買いにきた?いいよ、黙っておくよ笑」


「いえいえ・・・隆、高木の家に遊びに行くから買い物です」


「あっそうなんだ、いっぱい買って行ってよ、サービスはしないけど笑」


俺が駄菓子を選んでいる時に


「なあ、なんか食いたい物ある?」


「なんでもいいよ」


「お前笑、そういうところだよ笑」


「いや、だって食ったことないもん、駄菓子とか」


「え?駄菓子食った事ないの?」


「・・・ないけど・・・」


「まじで?じゃあ、俺オススメ買うから今日食えよ」


「えー、体に悪そうじゃん、いいよ別に」


「いいから奢ってやるよ笑、勉強もいっぱい教えてもらったし」


そんな会話をしながら、駄菓子とジュースをレジに持っていくと。


「えーと・・・駄菓子はレジ打ちすんの面倒臭いんだよなぁ笑」

「まあでも、新谷くんには合コンの件でお世話になったから文句言うのやめるか」


すでに文句を言っているとツッコミたかったが


「なんか・・・二人ともちょっと変わったね笑」

「受験生ってこの時期大変なんじゃないの?なんか楽しそうだよね」

「まあ、青春の1ページだからね!大事にしてね笑」


高柳さんの店を出て隆の家に向かう間に孔明から、受験のアドバイスをもらった。

参考になりそうなサイトや、youtube、この街でも受けれる模試の情報。


隆の家に着いて、3人で駄菓子を食いながらダラダラ話を始めた。

初めは、孔明に駄菓子を色々食べさせることで盛り上がっていたが


「そういえば高木、新しいの観たよ」

「どうやって歌詞つくってんの?」


孔明が隆に話しかけた


「初めはノートに歌詞書いてみたんだけどさ、オレ頭悪いじゃん?笑」

「あんまり上手くいかなくてさ、とりあえずラップしてみてそれを録音して歌詞にしてってやってたんだけど、最近はほとんどその場のノリでラップしてる」


「すごいな・・・・」


「いやいやいや、お前のテストの成績に比べたら全然だろ笑」


「いや、すごいよ、才能だと思うよ、勉強なんてやればやるだけ結果は出るから」

「ねえ、新谷笑」


「なんだよ、俺が今まで努力してなかったみたいじゃんかよ笑」


「え?違うの?笑」


高柳さんが言ったように孔明は変わった気がする。

転校してきた時より明るくなったし、沢山喋るようになった気がする。


「光、東京の大学行けそうなの?」


「いやさ、B判定だったよ、厳しいかなぁ・・・・」


孔明がすかさず


「うーん、まあ、今までやってなかった分伸びしろありそうだし・・・行けると思うんだよなぁ」


東大のA判定をもらっている孔明にそう言われて嬉しかった。


「そうかー、じゃあ、オレも父ちゃんに相談してみようかな」

「まあ、1年くらいなら東京行っても許してくれるかもな、ラップで金を稼げるなんて思ってないけどさ笑1年くらいなら・・・・」

「なあ、もし3人で東京行ったら、たまに会おうぜ、オレ人見知りだから多分友達なんてできないだろうから笑」


「高木のどこが人見知りなんだよ、youtuberのくせに」


ここ2ヶ月くらい勉強ばかりしていたから、隆と孔明との会話は楽しかった。

途中で隆の親父さんが「ビール飲むか?」と部屋に入ってきたが、大人しく20時過ぎに家に帰って、孔明の教えてくれたサイトとかを見ながら勉強をした。




11月25日


孔明が模試を受けに東京に行った。


『がんばれよ』


とLINEを送ったら


『お前もがんばれ』


とメッセージと偉そうな顔をしている諸葛亮のスタンプが届いた。



11月26日


『どうだった?』


とLINEを送ったら


ドヤ顔の諸葛亮のスタンプが送られてきた。



11月27日


東京から帰って来てるはずの孔明が学校に来てなかった。


『どうした?』


とLINEを送ったら


返事が来なかった。



11月28日


担任が朝のホームルームで神妙な顔をして話をした。







孔明が死んだ。

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