第13話 折原璃子
かわいいは作れる」と言うけれど、私の場合は「造られたかわいい」だ。
おばあちゃんから『自分より可愛い子供を産んで育てる』という使命も持って造られたアンドロイドだって教えられた。
何処の誰が?なんの目的に?私たちにもそれは知らない。
おばあちゃんには子供の頃の記憶がない。
15歳でこの街に来た時に覚えていたことは
『自分より可愛い子供を産んで育てる』
『そのためにセックスをする』の2つだけだったらしい。
私たちはその使命以外は、他の人間とほとんど違いがない。
おばあちゃんは、記憶を消されて人体改造をされたのかも?
遺伝子操作で造られた人間なのかも?
それとも、かわいい15歳のアンドロイドとして造られた?
色々考えた時期があった。
でも、考えたって答えはわからないから、考えるのはやめることにした。
ただ、事実として、お母さんも、私もまわりに「かわいい、かわいい」と言われて生きてきている。
自分が他の子とちょっと違うと思い始めたのは小学校4年生の頃だった。
教育実習にきていた若い先生に放課後呼び出されて、誰もいない教室で下半身を触られた。
「ぼくのも触って」といって、先生の丸出しになった下半身の性器を私に触らさせた。
「りこちゃんだけの特別授業だから、誰にもいっちゃいけないよ」
と先生は言ったけど、私は家に帰ってお母さんに話した。
「お母さんも同じようなことがあったよ、これからも璃子はこういうことが沢山あるかもしれない、嫌かもしれないけど、少しだけしょうがないの。何故なら璃子は他の女の子よりものすごく可愛いから」
わたし『だけ』の特別授業、他の女の子『より』も
私は少し特別だという自覚し出した。
何日か後から先生は学校に来なくなった、お母さんに聞いたら「先生を諦めて、漁師になるために遠い海に漁をしに行くことになった」らしい
中学生になって私はその『特別』がどういうことか理解をした。
簡単に言うとすごく男の子にモテた。
でも、同じ学校の男の子は私に告白してくる事はなかった。
お父さんの仕事をみんな知っていたからだ。
中学の制服は都内でもかわいいと有名だった。
お父さんの仕事のせいか、女の子の友達も少なかったけど、何人かの友達と放課後遊びに行った、街を歩いていると良くナンパをされた。
カラオケに連れて行ってもらったり、ご飯を食べさせてもらったり。
ある日、一番仲の良かった美羽と2人で歩いている時に大学生2人組にナンパをされた。
大学生が「ひとり1でどう?」と聞いてきた。
美羽は「は?何言っての私たちJCなんだけど、そんなんでヤレると思ってるの?」
大学生は「じゃ・・・ひとり1.5」
美羽は「2なら考える」
そう言って私に「2ならいいよね?そんなブサイクじゃないし」と耳打ちしてきた。
私は何のことか意味がわからなかったけど、大学生が「2はたけーよ」と言って去っていった。
私は美羽に
「今のどういうこと?」
「え?援助だよ?」
「璃子やったときないの?」
「うん、援助ってなに?」
「ヤって、お金もらうことだよ」
「ヤる?」
「え?璃子ひょっとして処女?」
「うん」
「まじか・・・璃子だったらめっちゃ稼げるのに・・・つうか処女高く売れそう・・・」
「多分二人で5万・・・いやもっといけるかも・・」
「璃子、今度一緒にやんない?多分余裕で叙々苑食べにいけるくらい稼げるよ笑」
別にお金が欲しかったわけじゃないけど、美羽が楽しそうなので、私は『援助』を受けてみることにした。
美羽はネットを使って、二人で10万円払ってくれる人を見つけてきた。
さすがに制服はまずいってことで、二人とも私服で歌舞伎町のドンキの前で待ち合わせをすることにした。
待ち合わせにやってきたのは30代?の真面目そうなサラリーマンだった。
私は美羽とサラリーマンの3人でホテルに行って、初めて行為をした。
そんなに痛くなかったけど、気持ち良くもなかった。
「10マンはやばかったね笑、相手もやばくなさそうだったしさ、璃子のおかげだし、璃子7マンで、わたし3マンでいい?」
何が私のおかげかわからなかったけど、私だけ沢山お金を貰うことに気が引けたから
「じゃあ・・叙々苑・・・・」
「え?いっちゃう?笑」
美羽と二人で叙々苑にいって、約2万円分焼肉を食べた。
「璃子の処女5マンになっちゃったじゃん笑」
「よくわかんないけど・・・お肉おいしかったね笑」
美羽と2人で、それからも何回か『援助』をしてもらった。
しばらくして『援助』がバレて、美羽が退学になった。
私は退学どころか、何のお咎めもなかった。
お父さんの仕事のおかげ?せい?なのだろうと思った。
それ以来学校では色んな噂が流れて私は孤立していった。
噂というか、事実なので私は別に気にしてなかった。
学校帰りに新宿を一人で歩いていると『援助』を持ちかけてくる男の人が沢山いた。
私は一人で『援助』をするようになった。
別にお金に困っていたり、お金が欲しかったわけじゃないけど、セックスに興味があったからだ。
何度かセックスをしていくうちに、おばあちゃんやお母さんの言っていたことを段々理解できるようになってきた。
どんな男の人とセックスをするべきか?
顔や体型だけじゃなく、目や、匂い、話し方・・・いろんな事で『自分より可愛い女の子を産めるか』がなんとなくわかってきた。
高校は制服が可愛い高校を選んだ。
近くの学校で一番可愛い制服の学校は女子校だった。
女子校には『援助』をしている子が何人かいたので、中学よりは友達が出来た。
高校でも『援助』をしてもらっていたが、私はあることに気づいた。
『援助』をしてくれる人達では『私より可愛い女の子を産む』のは難しいんじゃないかって、見た目が良かったり、お金を持っている人はいたけど、目や匂いで『違う』とわかるようになってきた。
そんな時、一度合コンみたいなカラオケに行った時の高校の竹内くんから告白された。
「友達からでいいから、とりあえず付き合ってくれませんか?」
人生で初めて告白された。
断る理由がなかったので竹内くんと付き合ってみることにした。
竹内くんとの初デートの待ち合わせは歌舞伎町ドンキ前だった。
『援助』と違ったのは、私服じゃなくて制服で待ち合わせた事と、ホテルに行かなかった事、セックスをしないでくだらないない話をダラダラしてただけって事。
竹内くんとマックで話をした
「なんで私に告白したの?」
「カラオケの時もほとんど話さなかったと思うけど・・・・」
「あー正直に言うね、ほぼ一目惚れ笑」
「璃子みたいな可愛い子はじめて見たから」
「これを言った後に何を言っても後付けに聞こえちゃうかしれないけど」
「中学の時に憧れてた先輩にちょっと似ててさ、男なんだけどね笑」
「え?笑、どういうこと?」
「おれさ、中学の時は学校の部活じゃなくってプロのチームのアカデミーでサッカーやってたんだけどね、そこにいた一つ上の先輩にすごい人がいてさ」
「うん」
「その人さ、めちゃくちゃ上手かったんだよ、2年生でエースでね」
「アカデミーとかクラブチームってさ、部活と違ってあんまり上下関係厳しくないっていうか・・・試合中だったら先輩だろうと呼び捨てする感じなんだ」
「その時に3年に日本代表候補の先輩がいたんだけど、先輩はその人も平気で呼び捨てにしてミスしたら平気で文句言ってさ笑」
「コーチの指示も間違ってると思ったら反論してさ、上手いから調子に乗ってるとかじゃなくってさ、なんて言うんだろう・・・・自分のやってることにすごい自信をもってる人でさ」
「うん、サッカー良くわかんないけど・・・どこが私に似てるの?笑」
「あん時のカラオケさ、璃子1曲も歌ってないじゃん?笑」
「うん、だってあんまり好きじゃないし」
「まあ、じゃあなんでここに来てるんだよって、ちょっと思ったりもしたんだけど笑」
「その後、あいつらに酒を勧められたりしても断ってたり、いろんな男が話かけても興味ない話は全然乗ってこないしさ笑」
「女子校だからなんか色々付き合いもあるんだろうし、でも、あんなに露骨につまんなそうにしてるのが面白くてさ、あとでハブられたりしないのかなぁとかさ、色々考えちゃったんだよね」
「別に・・・楽しそうかな?って思って行ってみたけど、楽しくなかったから・・・」
「それだよ笑」
「普通そんな時でも、なんとなく周りに合わせるじゃん」
「それを貫くっていうかさ・・・なんかその雰囲気と佇まいが先輩思い出しちゃってね」
「全然ちがうでしょ笑」
「おれさ、ジュニアユースからユースに上がれなくて、今の高校にはいったんだけどさ」
「?」
「ああ、おれ一応プロのサッカー選手目指してんだけどさ、プロになるためには高校の部活じゃなくって、そのクラブチームでプレーできる方が近道なんだよ」
「うん・・・なんとなくわかった」
「先輩はもちろんユースに上がったんだけど、おれは上がれなくてね・・・」
「なんていうか・・・クビになったみたいな感じ?」
「それでもさ、まだ可能性は残ってると思ってるから高校の部活で頑張ろうって思ってたんだけど、部活ってさ、すげーんだ、上下関係とか、クラブの時と全然違ってさ、いくら上手くもなかなか試合に出してもらえなかったり、1年だからってボール拾いさせられたりさ、それで、おれ少し腐ってたんだよね・・・・」
「おれが悪いんじゃなくって、この部活が悪い、環境が悪いって」
「そんな時に璃子に会って、堂々としてるっていうか、太々しいっていうか、そう言う感じをみてさ、先輩思い出して『あっ・・・おれに足りなかったのこれなんじゃねえか?』って思ってね」
「次の日から、ちょっと頑張ってみたんだよ、言いたいことは言うようにしたし、やることやって、文句も言ってみたいな、そうしたらさ、もちろん先輩と喧嘩にもなったんだけど、少しづつ認めてもらえるようになってさ」
「璃子と付き合ったらもっと頑張れるんじゃないかと思って告白した笑」
「私・・・全然そんなんじゃないけど・・・・」
「でも、ありがとう」
竹内くんは良い匂いがした、そして『援助』の人たちと違って目がキラキラしていた。
何回かデートをしたけど、だいたいいつもファーストフードの店で話をすることが多かった、竹内くんはいつも目をキラキラさせて将来の夢の話をしてくれた。
でも、竹内くんはセックスどころかキスもしてくれなかった。
私は竹内くんとセックスがしたいと思った。
竹内くんとセックスをしたら妊娠するかもしれないと感じていた。
次のデートの時にセックスを誘ってみようと思っていた。
お父さんが殺された。
色んな人が家に来て、何が何だかわからないうちに、お母さんの実家に引っ越すことになった。竹内くんにはお別れの言葉を伝えることもできないまま離れ離れになってしまった。
連絡先から居場所がバレると言って、携帯も解約させられて新しい携帯になって連絡も取れなくなってしまった。
お父さんが死んでしまった実感も、竹内くんと会えなくなる実感もないまま車でこの街に連れてこられた。
この街に着いて久々におばあちゃんに会った。
おばあちゃんは微笑みながら私の顔をまじまじと見て
「綺麗になったねぇ、璃子」
「大変だったねぇ」
と言って頭を撫でてくれた。
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