第11話 高木隆2

ある日、暇つぶしに兄ちゃんが残していったCDを漁っていたら、1枚のCDジャケットに目を惹かれた。

インド?タイ?よくわからないけど、お坊さんが座ったまま燃えている写真のCDジャケットだった。

ものすごくインパクトがある写真でどんな音楽か聴いてみたくなった。CDを聴いてみると

・・・・


物凄い衝撃を受けた。


バンドのサウンドももちろんだが、ヴォーカルの声・歌い方がとにかくかっこよかった。

英語で何を言っているかわからなかったが、何か心に響く強いメッセージを感じた。

CDには対訳の歌詞がついていたので、歌詞を読んでみた。

過激な歌詞だった。

政治的なメッセージが多かったが、怒りにあふれた強いメッセージばかりだった。


アルバム1枚聴き終わった頃にはそのバンドに完全に心を奪われていた。

このバンドの他のCDはないかと探してみたら、まだ数枚あったので歌詞を読みながら家にあったCDを全部聴いた。

バンドのメンバーのことが気になって、スマホで色々調べてみた。

メンバーのほとんどが、オレと同じように、何かしらの混血の人達だった。

オレが何故このバンドにこんなに惹かれたのかわかったような気がした。


それから毎日このバンドを聴くようになった。

いつの間にか英語の歌詞は全部歌えるようになっていた。

少しだけ英語の単語も覚えた、汚い言葉ばかりだけど笑


だんだん自分でも歌ってみたいという衝動にかられたきた。

youtubeで『歌ってみた』をやってみることにした。

どうせ誰も観ないだろうが、顔出しするのに抵抗があったからニット帽で目を隠して動画をアップした。


予想通り、再生回数は10程度だった。

いいねもコメントもつかないクソ動画だ笑


3本目くらいから、変化が起きてきた。

再生回数も100近くまで増えて、チャンネル登録をしてくれる人も出てきた。

調子に乗って何本か動画をあげていったら、再生数も登録者数も少しづつ増えてきた。


それと同時にコメントがつくようになってきた。

8割、9割は


『下手くそ』

『英語の発音クソ!』

『外人ぶってるけど、日本人丸出し笑』

『本家に失礼』


などなど、ネガティブなものが殆どだったが、小さい頃から言われてることに比べたら、別に大したことなかった。


ただ、たまに褒めてくれるコメントがつくのが嬉しかった。


更に動画をアップしていくと、褒めてくれるコメントの数も増えてきた。

割合は圧倒的にネガティブなものが多かったけど。


『かっこいいです!!』

『バンドとかやってないんですか?』

『エミネムとか聴いてみたいです!』

『オリジナルはやらないんですか?』


バンド?オリジナル?

思いもつかない言葉にハッとした。

バンドはともかく、オリジナルか・・・・・


次の日から歌詞を書いてみることにしたが、あんまり上手く書けなかった。

昔から作文苦手だったし笑

ビートに乗せて、適当にラップして録音をしてみることにした。

このやり方のほうが向いているみたいだった。

録音して、歌詞にして、録音して、歌詞にして

その作業を繰り返して、オリジナルの歌詞ができた。


何度か練習して動画をアップした。

今まで一番の再生数だった。

ポジティブなコメントもいつもより沢山ついた。

英語のコメントもついた。


バンドか・・・・

毎年文化祭でバンドの発表会がある。

光がベースをやってるから誘ってみようかと思った。

まあ、あいつのことだからどうせ「やらない」って言うと思うけど笑


オリジナルの歌詞はオレの今まで感じたことを素直にぶつけたものだった。

差別を受けていたのは小さい頃から気づいていたけど、当たり前だと思っていた。

オレたちは差別を受けて当たり前だけど、じいちゃんのおかげで人並みに暮らせていけている。そう思っていたが、やっぱりどこかで不満はあったみたいだった。

ラップにして、歌詞にしたら、自分で思っていた以上に不満が溢れ出てきた。


そんな中でもオレが気に入っているのは光に言われた言葉をつかって。


『示談をするか?しないか?オレはかますぜ、ジダンの頭突き!!』


くだらないけど気にいってる笑

光に聴かせてやりたいくらいだ笑


結局バンドはやらなかった。

まあ、やったらみんなドン引きだっただろうし、たぶん言っちゃいけない言葉を歌詞にしていたから、後で先生に怒られただろうし笑



折原の話している事は面白かった。

アンドロイド・・・・・

本当かどうかはわかんなけど、折原は信じてるみたいだったし、あんな綺麗な人間、オレは見た事なかったから、ひょっとしたらと思ってしまった。


『オレのじいちゃんもこの街を守るアンドロイド』


そんな訳はないとは思うが、じいちゃんの遺伝子をオレが一番継いでいるのはなんとなく感じる、兄ちゃんたちよりオレの方がはっきりブラジル人の見た目をしてるし。

兄ちゃんたちはこの街を出ていったけど、オレはこの街で生きていくために産まれたんじゃないかって思った。

この街も、漁師の仕事も別にそんなに嫌じゃないし。

ラップはyoutubeでもできるし。

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