第10話 9月18日

放課後暇になったので、ベースを練習する時間が増えた。

毎日弾いていると少しづつだけど、上手くなっていくのが自分でもわかった。

サッカーを始めた頃、リフティングの回数がどんどん増えていった時の嬉しさを思い出した。

ふと、夏休み最後の日に隆が送ってくれたバンドの動画のことを思い出して、その曲を練習することにした。

耳コピは無理なんで、ネットでスコアを探して練習してみることにした。

下手くそな俺には難しかったけど、このバンドには超絶ギターがいたので、始めた楽器がベースで良かったと先輩に感謝した。




9月25日

文化祭2日前

久々に放課後に集まって明日の準備を始めた。

教えていないのに、何処で嗅ぎつけたか隆もいた。

孔明はあいかわらず、耳栓をつけて勉強をしていた。


明日、手伝をしてくれるクラスメイトのために教室の飾り付け用のバルーンアートの見本を作っていた。


「文化祭終わると、もう完全受験モードだよなぁ」


隆が話始めた


「折原ちゃん、この街出るって言っていたけど、なにするの?進学?」


アンドロイドのことは触れずに、ちゃん付けで折原に話しかけた笑


「勉強あんまり好きじゃないし、美容師さんになりたいから専門学校に行こうと思ってる」


美容師か・・・接客はあんまり向いていないと思うが、折原目当てで客がつきそうだから良いかもしれないな。


「高木くんはお家の仕事継ぐんだっけ?」


「うん、継ぐっていうか、今までも手伝ってはいたけど、あんまり船には乗ってなかったんだよね、危ないからって。でも、卒業したら父ちゃんと一緒に毎日船に乗ろうと思ってるよ」


「新谷くんは?」


「俺?とりあえず隣町の大学を受験するよ、一応滑り止めも受けるけど、まあ多分大丈夫じゃないかなぁ」


「その先は?新谷くんどんなお仕事したいの?」


「え?まだ決めてないよ、別になんでもいいよ、大学行ってゆっくり決めようかなぁって、まあ、普通に会社員とかだろうね笑、俺特にやりたいこととかないしなぁ」


「そっか・・・普通・・・か、いいね」


「孔明は?」


聞こえているのは知っているので無茶振りをしてみた。

孔明は無視するかと思ったが、イヤフォン、いや耳栓を外して。


「一応、国立を受けようと思ってる」


「国立?」


「ああ、東大」


「え?お前東大受けんの?」


「うん、だから勉強したいからほっといてくんない?」


そう言ってまた耳栓をつけて勉強を始めた。



「すげーな、あいつ東大受けんだ」

「つーかさ、お前、井澤のこと孔明って呼んでんだ笑」

「仲良いな笑」


隆のツッコミに、はずかしくなってとりあえず肩パンをしておいた。


「痛っ笑、なんだよ、お前ら付き合ってんのかよ笑」


「そんなわけねーだろ笑」

無駄話をしながら、なんだかんだで下校時間いっぱいまで教室にいた。





9月26日

文化祭前日。

放課後、いつもの4人と高柳さん、あとは5人ほどクラスメイトが準備に参加した。


「お前、自分のクラスの手伝いしろよ笑」


「嫌だよ、なんか佐藤がさライブの準備が上手くいってなくてピリピリしててクラスの雰囲気わりぃんだよ」


「アイドルもどき?笑」


「今更引くに引けないだろうなぁ笑」




「新谷くん、お姉さんに伝えてくれた?」


高柳さんは、挨拶のように顔を合わせると聞いてくるので、少し面倒臭くなってきたので


「あっ一応伝えておきました」


と嘘をついた。


「まじ?なんて言ってた?」


「えーと、まあ、考えてみる」って


「ほんと?じゃあ今度信金行ったら話してみよ」


藪蛇だった。。。しょうがない今日姉ちゃんに素直に伝えよう・・・・


10人もいると準備は順調に進んでいた、あっ、正確には9人か

孔明は相変わらず一人教室の隅で勉強をしていた。



「あの子はなんであそこで勉強してるの?」

高柳さんが孔明をみて聞いてきた。


「ああ、あいつが、この間いなかった会計係です」


「手伝わないの?」


「あいつ、内申が少しでも良くなるようにって参加してるだけなんで、あと、あいつ東大目指してるみたいだから、まあ、別に邪魔してるわけでもないし」


「東大?そんなに頭良い子なの?もし受かったらこの高校初なんじゃないかなぁ」

「そんな頭良い子いたんだ」


「あいつも二学期に転校して来たんですよ、折原と同じ時期に。東京の進学校から来たみたいです」


「この時期にねぇ・・・・」


「まあ、良くある理由だと思いますけどね、この街では」


「新谷くんはなんか、、、、落ち着いているというか、、、なんというか。。。」

「若いのにもったいないなぁ笑」

「若い時はもっとなんか、無茶したりさ笑」


「なんか苦手なんですよね笑そういうの」

「遺伝なのかな笑お父さんもお母さんも、姉ちゃんもみんなおとなしい性格というか、地味というか」


「ふーん・・・」

「まあ、先輩のアドバイス。おれは東京行って良かったと思ってるよ、いろんな人間に出会えたしね、この街の良いところも、悪いところも外から見てわかることもあったしね、新谷くんみたいな子は、一回この街を離れたほうが視野が広がりそうだけどね」

「まあ、結局帰ってきたおれに言われたくないだろうけどさ笑」


「・・・・・」


返す言葉は思い浮かばなかった。

この街を出ても何も変わらないと思っていた俺に高柳さんの言葉は少し響いた。

こんな話をしてくれた大人は初めてだったし、実際に体験した人の言葉は真実味があった、実際隆の親父さんが、高柳さんは東京に行って変わったという話も聞いていたし。

でも、次の瞬間俺の頭に浮かんだのは


『でもこの街を出ても、特にやりたいことがない』


だった。



準備は順調に終わった。

明日の文化祭が終わると、隆が言うように、みんな受験モードに入るんだろう。




夕食の後、リビングにいた姉ちゃんを捕まえて高柳さんの話をした。


「あのさ、酒屋の高柳さんって知ってる?」


「え?なんで?知ってるけど?」


「今、文化祭の手伝いをしてもらってるんだけどさ」

「なんか・・・・信金の人と合コンしたいって」


「笑なにそれ」


「いや、伝えてくれと言われたから伝えただけだよ」

「多分今度信金来た時に聞かれると思うからさ」


「ふーん笑まあ、適当に断っておく」


「別にいいじゃん笑、あの人良い人だし合コンくらい笑、どうせ姉ちゃん彼氏いないんだし」


「良い人ねぇ・・・・まあ、良い人なんだろうね・・・」

「大学生の時、お父さんが倒れて、後遺症が残っちゃって、大学辞めて帰ってきて、今介護しながらお店がんばってるみたいなんだよね、今時酒屋なんて大変だろうと思うけど・・・」


「・・・・・・」



『若い時・・・』か・・・・・


昼間の高柳さんの言葉を思い出した。




9月27日


文化祭が始まった。

ウチのクラスのバルーンアートは、成功とでも・・・失敗とでも・・・

今時の高校生がバルーンアートをもらって喜ぶはずはないが、折原目当てで他の学年の男子や、他の学校の奴らがそこそこ訪れてきた。


実行委員の俺と折原と孔明は、教室で待機をしていた。

孔明は相変わらず教室の隅で勉強をしていた。


折原と二人きりの時間が何度かあった。

正確には孔明がいたけど笑


「なんで美容師なの?」


沈黙が嫌だったから、折原に話かけてみた。

本当はアンドロイドうんぬんの話を聞いてみたかったが、あれ以来その話題に触れていなかったから、切り出しにくかった。


「うーん」

「転校してきて山田さんたちに髪の毛切られたでしょ?」

「セミロング結構気に入っていたんだけど、美容師さんがショートもかわいいって上手にカットしてくれて」

「嫌な気分と一緒に髪の毛を切り落としてくれたみたいで。」

「私もそんな風になりたいなって」


「え?」

「そんな最近に決めたの?」


「うん、なんで?」


「いや・・・進路ってそんな簡単に決めるもんかなってさ」


「簡単かなぁ・・・」

「なにかを始める時ってそんなに特別な理由なんていらないんじゃないの?」

「それに、美容師さんって、可愛い女の子を産むために、いろんな人と出会うのにも良いと思ってるよ」



「・・・・・・・」

「アンドロイド・・・・なの?やっぱり」


「ふふ、まあ信じてもらえなくてもいいよ」

「メンヘラの妄想だって笑」


「いや、そんな風には思ってないよ」


こっちの気持ちを見透かしているような、折原の大きな瞳に吸い込まれそうになる。


「新谷くんは自分の事、普通って言ってるけど、普通ってなんだろうね?」

「私はお父さんが普通の人じゃなかったから、普通を手に入れるのは難しかった」

「・・・・高木くんも多分、普通に憧れていると思うよ」

「普通って、別に簡単なことじゃないと思うよ」


「・・・・・・」


「私は自分が可愛いっていう自覚はあるよ。でもそれは普通じゃないの」

「私が望んだ訳でもないけど、自覚して生きて行くつもり」

「だって、私が可愛い理由ははっきりしてるから」

「普通か・・・」

「ちょっと羨ましいかも」


「・・・・・・・・」



折原の言葉にいちいち心が揺さぶられた・・・・

俺は、折原や隆、先輩みたいに才能がある人間に憧れる。

俺には持っていないものを持っているから。


そんな折原に「普通が羨ましい」と言われて動揺した。

なにが羨ましいんだろう・・・・

こんなつまらない人生の何が・・・


言葉が出ないで沈黙が続きそうになった時・・・

教室に人が入ってきた


隆・・・ではなく、高柳さんだった。


「あれ?ガラガラじゃん笑」

「あっ璃子ちゃんお母さんこないの?」

「あれ?あの子また勉強してる笑」


隆や高柳さんのこのノリはいつも感心してしまう、俺には絶対できないことだから。


「お母さん多分来ますよ」


「まじで?なんか桜井にここで会うなんて高校以来だ、感慨深いなぁ」

「璃子ちゃんも新谷くんも、この瞬間が青春の1ページになるからさ、楽しんでね笑」

「じゃあ、おれ他も見て回るから」


高柳さんは、嵐のように去っていった。

しばらくして次の嵐がやってきた。


「光、ライブ観にいこうぜ」


今度は隆だった。


「いいよ別に、見てるこっちが恥ずかしくなりそうじゃん」


「なんでだよ笑、佐藤たちの黒歴史を見届けてやろうぜ笑」


「なんだよそれ笑」


「いいじゃん、お前らも暇そうだし」



「行ってきていいよ、どうせあんまり人こないし、井澤くんも一応いるし笑」


折原に言われたからでも、会話に気まずくなったわけではないが、隆と体育館に行ってライブを観ることにした。


体育館に着くと2年生の女子3人組のバンドがちょうど終わって、佐藤たちの『アイドルもどき』が始まるところだった。

ご丁寧にペンライトを持っている奴らまでいる。盛り上げないと後が怖いんだろうな・・・・

ライブの内容は、流行りのKPOPアイドルのカバーだった

なんというか、歌もダンスも・・・・まあまあ、頑張っていた方なのかもしれない。

商店街の祭に来るご当地アイドルくらいのクオリティはあったかもしれないな。

3曲ほどで終わったが、佐藤たちは抱き合って泣いていたようだった。

これが高柳さんが言う「青春の1ページ」なのだろうか?

俺には隆が言う「黒歴史」なんじゃないかと思ってしまったが・・・・


大トリのバンドはカーストの上位にいる『そこそこイケメン』のグループだ。

良く見るとドラムの大杉だけ、いつもはグループにはいない。

ドラムをやっている奴がいなくて狩り出されたんだろう。


『そこそこバンド』は演奏もそこそこだった。

3曲は、有名バンドのカバー

別に専門家ぶるわけではないが、大杉がたぶんこのバンドの中で一番上手い。

最後にオリジナルをやりますと言って、スローテンポの曲が始まった。

『ミスチルと尾崎豊を合わせたような』といえば伝わるだろうか。

若者の心の叫び&学校を卒業する寂しさ、仲間のこと


正直、この手の曲は好きじゃないので聴いていて気持ちが悪くて鳥肌が立ってしまった。

演奏が終わると、会場は『そこそこ』盛り上がっていたが、俺にはやっぱり「黒歴史」を作っただけなんじゃないかと思っていた。


隆が


「やっぱバンドやればよかったなぁ」


「なんでだよ、完全に黒歴史製造大会だったじゃねえか」


「いやいや、大人になったらきっと笑いながら、酒飲みながら、楽しく話せるって」


「俺はいやだなぁ笑」


バンドが終わると、最後に体育館で閉会式、教室に戻ってホームルームをやって後片付けだ。

後片付けはクラスのみんなでやってくれたのであっという間に終わった。

あとは、高柳さんに借りた道具と余った風船を持っていけば終了だ。


「高柳さんのところ今から行っても平気かな?」

折原に聞いてみた。


「まだ遅い時間じゃないし、大丈夫じゃないかなぁ」


「じゃあ、俺返しに行ってくるわ」


「私も行くよ」


久々に折原と二人きりになって、すこしドキドキした。

二人で校門を出たころ、後ろから


「二人でどこ行くの?」


隆だ・・・


「高柳さんのところに借りた道具を返しにいくんだよ」


「オレも付いていってやるよ、っていうかさ、これから打ち上げやんね?」

「なんだかんだ一緒に頑張ったわけだしさ」


「お前クラス違うじゃねーかよ笑」

「俺は良いけど、折原は?」


「私もいいよ、帰っても暇だし」


「おっ!!!じゃあ決定、オレんちでいいよな?」

「あっ、孔明ちゃんも声かけようぜ、一応さ」

「光、LINE送ってみろよ、まだ下校の途中だろ」


「こねーと思うけどなぁ・・・・・」



『これから、高木んちで文化祭の打ち上げやるんだけど来る?』


すぐに既読になった


『他に誰か来るの?』


『折原がいるよ』


『わかった、高木んちのMAP送って』



「なんだって?」


「来るっぽい・・・」


「え?意外だな笑、つうかお前ら本当に仲良しなんじゃねえの?」


酒屋について、高柳さんを訪ねたが、文化祭に行ってくると言ってまだ帰ってきてないらしい。

高柳さんのお母さんらしき人に説明をして道具を返してもらうことにした。

ついでにジュースやお菓子を買って、隆の家に向かった。


隆の家の前に孔明がいた。


「呼び出しておいて遅いんじゃない?」


「ごめんごめん、高柳さんのところ寄ってきたんだよ」


「伝えてくれればいいじゃん」


「ごめん、孔明ちゃん、まあまあ、入ってよ、綺麗じゃないけどさ笑」


隆はふざけて呼んでいるだけなんだろうが、孔明にとってはちゃん付けでも苗字で呼ばれないことを喜んでいるかもしれない。


「ただいま〜、友達連れてきた、文化祭の打ち上げやるから〜」


隆はそう言って2階の部屋に上がっていった。


「おじゃまします」×3


居間にいた隆の親父さんと目があった。

「あれ、お前、光だろ、久しぶりだなぁ、まだサッカーやってんのか?」


「いえ、もう大会負けちゃったから引退しました」


「そうかぁ、お前は大学に進学か」


「はい、受かればですけど笑」


「あはは、お前は隆と違って勉強も結構できたからなぁ、大丈夫だろ」


「光!!早くこいよ!!」


「ああ、ちょっと待てよ、おじさんとちょっと話してんだよ」


「ビール持っていくか?笑」


「おじさん笑、捕まるのは飲んだ俺たちじゃなくって飲ませたおじさんですよ笑」


「なに?そうなのか?パクられたくねえからなぁ、やめとくか笑」


「光!!」


久しぶりに隆の部屋に入った、いつ振りだろうか隆の部屋、正確に言うと元々は隆の一番上の兄ちゃんの部屋、上の兄ちゃんがいなくなってからは、2番目の兄ちゃんの部屋、そして今は隆が使っている部屋。

高木ブラザースの歴史が詰まった部屋だ。

一番上の兄ちゃんが修学旅行で買ったであろう木刀、どこで買ったんだろうかプロレスラーのポスター、あとは大量の洋楽CD。

2番目の兄ちゃんが集めたのか、アメリカのビールの瓶が並んでいる、ビジュアル系バンドのポスターやCD、あと、なんというか俺には到底着こなせいようなセンスの紫色のジャケットなどがハンガー掛かっていた。


「なんか色々あるだろ?笑、上の兄ちゃんのは捨てると怒られそうだけど、下の兄ちゃんの物は捨ててもいいかと思ってんだけど、面倒臭くてさ」

「まあ、とりあえず乾杯しようぜ」


みんなでジュースを注いで・・・・


「じゃあ、乾杯の挨拶を光に笑」


「俺?なんで?」


「オレが言うのもおかしいし、折原ちゃんも孔明ちゃんもそういうタイプじゃないでしょ?」


「まあ。。。じゃあ、お疲れさま、乾杯」


「うわぁ・・・ノリわりいなぁ・・あいかわらず笑」

「まあ、いいか、じゃあ、かんぱーーい」


「結局お前が言ってんじゃねえかよ」


「いやぁ、しかし文化祭終わったら、もうイベントもないし、あとは卒業するだけだなぁ」


「いや、それ高木だけでしょ」

「僕たちは、こっから受験があるから」


孔明が珍しくツッコミを入れた。


「あっ私も専門学校だから受験ないよ」


「そうなんだ、専門学校って受験ないんだ」


「うん、多分面接だけで大丈夫だと思う」


「へー、この辺の学校?」


「ううん、多分東京か・・東京はないか・・まだ決めてない、探してる」


「そっか〜折原ちゃんいなくなっちゃうのかぁ・・・さみしいなぁ・・・」

「孔明ちゃんは東大受けるんでしょ?受かりそうなの?」


自分の家のせいか、いつにもまして隆の図々しさと脳天気が炸裂していた。


「今のままだと、ちょっと厳しいかな・・・もっとがんばらなきゃだめかな・・・・」


「そっかぁ、がんばってほしいわ、同級生に東大とか自慢できるからなぁ」

「勉強しなきゃいけないのに、呼び出してごめんな、光が孔明ちゃんも呼んだ方がいいっていうからさ」


しれーと嘘をついているが、まあ孔明と隆が会話をしていることのほうに興味が沸いたのでとくにツッコミは入れなかった。


「いや別に、僕、結局ほとんど何もしてないし、申し訳ないかなって思って、付き合ってやろうかなぁって思ったのと、高木や・・・・折原と少し話もしてみたかったから」


「え?折原ちゃんはわかるけど、オレ?なになに?何でも聞いてよ」



・・・・・


少しの沈黙の後


「悪気はないから、気分を悪くしないでほしいんだけど・・・・」

「あっちにもさ、高木みたいな・・・ミックスの子はいたんだけどさ・・・」

「なんていうか・・・やっぱ差別とか、いじめは見てきて、高木みたいになんて言うんだろう・・・なんで、そんなに周りの目や、世間の目や、自分の生い立ちっていうか・・・そう言うことを気にしないでいられるんだろうって・・・気になってて・・・」


少しだけ沈黙ができたが、すぐに隆が


「そりゃ、あれじゃね?まずオレがそんなに頭が良くないからだな、東京の奴らは頭良いから、色々考えちゃうんじゃねーの?

深く考えてないってことじゃないかなぁ、オレさ、小学校の時にサッカーやってて周りに色々言われたのは知ってたんだけどさ、光に『フランスはほとんど移民の選手ばっかだから』とか言われたんだけど、中学になるくらいまでその意味良くわかんなかったしな笑」

「あとは・・・この街にはオレ以外にもそういう奴らはいるし、それを受け入れてくれる人達がいるからさ、多分孔明ちゃんが思っているほど、オレ不幸じゃないよ笑」



「強いな・・高木は・・・」


「まあな、いろんな人種のハイブリッドだからな、オレ笑」


珍しく孔明が饒舌だった、俺と折原はポテチを食いながら話を聞いていた。


東京に行くと学校を休んでから、孔明の様子は少し変わったように思えた。

何があったかはわからないが、少しだけ俺たちとの距離が変わったような気がする。


この後も隆の勢いは止まらず、ただただ、くだらない話をして時間が過ぎた。

気がつくと21時を過ぎていたので、解散することになった。

折原は、すごく楽しそうにしていたわけではなかったが、たまに俺たち会話を聞いて笑っていた。やっぱり折原は笑ったほうが可愛い。また家で折原に少し似た女優でオナニーをしそになったが、どこか後ろめたい気持ちになって、その日は少しだけベースを弾いて寝た。



10月15日


中間テストまで時間が迫ってきた。

流石にテスト期間くらいは勉強しようと思って、家に帰ると机に向かうことにした。

いつもは一人でテスト勉強をしているのが普通だったが、今回は特別講師に教えてもらうことになった。

わからない問題があった時には、問題の写真を撮って孔明にLINEを送りつけて教えてもらっていた。

東大を目指すだけのことがあって、孔明の解説は正直学校の先生よりわかりやすかった。

たまに『テキスト打つのめんどくさい』といって通話で教えてもらった。


『なんか悪いな、お前の勉強の邪魔しちゃって』


『いや、僕も復習になってるから別に気にしないでいいよ』

『新谷がわからない部分は、きっと他の奴らにもわかりにくい問題だと思うし

きっとテストに出やすいんじゃないかと思うし、少しは役立ってるよ笑』


『なら良いんだけど』


そう返すと、また三国志のスタンプを送り返してきた。


テスト期間中に孔明とLINEでやりとりをしていくうちに、少しづつ色々な事を話してくれた。


『1学期に急に転校が決まって正直戸惑った』

『この街は、初めは嫌いだったけど、今はそんなに嫌いじゃない』

『塾や予備校に行けないのがデメリットかと思ったけど、今はネットに色々な物があることを知った』

『引っ越しの理由は離婚、父親の浮気』

『まだ父のことを許す気分にはなれない、だから父の苗字で呼ばれるのが嫌い』


まあ、転校の理由は想定内というか、予想通りだった。

あとは・・・もともと捻くれ気味な性格だったのは違いないだろうが、親の離婚、引っ越しで転校当初はまったく心を閉ざしていたんだろう。


そんなやりとりをしてたある日、孔明から一つのyoutubeの動画が送られてきた。


動画を見てみると・・・


投稿者は”TAKAShit”と書いていた、だせえ名前だなぁと思ったが、動画を見てすぐにそれが、タカシット、隆だと言うことがわかった。

ニット帽で目を隠して完全な顔出しはしていないが、どう見ても隆だった。


『これ高木だよな?youtubeで色々見ていたら偶然見つけたんだけど・・』

『部屋も・・後ろにあのセンスの悪い紫のジャケットもぶら下がってるし』


『隆だな・・・これ』

『あいつこんなことやってたのかよ笑』


もう一つ動画が送られてきた。


『1年くらい前からやってるみたいなんだけど、初めはほとんど俗に言う歌ってみた的な、バンドのコピーなんだけど、これはオリジナルって書いてあって・・・・』

『ちょっと見てみなよ』


その後に驚いた諸葛亮のスタンプが送られてきた。


一つ目の動画は、夏休み最後の日に隆が送ってくれたバンドのコピーだった。

全部英語の歌詞だったが、隆がこんな英語で歌えるのか?と少し驚いた。

あと、リズム感の良さが抜群だった。


もう一つの動画をみた。

オリジナルだと書いてあったその曲を聴いて、俺は言葉を失ってしまった。


オリジナルの歌詞は、日本語と英語が混ざった歌詞だった。


・・・・・・・・・・


小さい頃から虐められてきた事

自分のルーツの事

日本にも差別があると言う事

自分の内にある怒りをどこにぶつけてよいかわからない事


歌詞の中に、隆の本当の想いが込められていた。

リズムに乗って発せられる隆の想いが、言葉が、俺の胸に突き刺さってきた・・・

文化祭の『そこそこ』イケメンバンドのクソ寒い青春ソングを聴いた時とは違う鳥肌が立った・・・


それと同時に10年以上あいつの本心に気づいていなかったこと・・・

あいつがなんであんなにバンドをやりたがっていたのかに気づいた。


『観た?』

孔明からLINEが来たが


俺は返す言葉が思い浮かばなかったから

スタンプを返した。

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