第9話 桜井彩
小さい頃から、私にだけ見える数字があった。
その数字は、常にカウントダウンされていた。
みんなこの数字が見えるんだと思っていたから別に不思議な感じはしなかった。
小学校の時にこの数字の話を友達にしたら、誰も理解してくれなかった。
この話をしてから周りから、変な目で見られるようになった。
家に帰ってお母さんに話したら。
「その数字は彩が幸せになるまでの時間なんだよ」
「彩は他の子と違って、幸せを手に入れるまでの時間がわかるんだよ」
と、教えてくれた。
「お母さんも昔は見えたけど、今はもう見えない。」
「どうして?」
「お母さんは彩を産んで、幸せになったからだよ」
そう言われて、私は無邪気に喜んだ。
私はそれ以降『ちょっと変わった子』というレッテルを貼られたが、あんまり気にならなかた。なぜならこの頃から私は、自分のことが『かわいい』ということを理解したからだ。
小さい頃からみんなに「かわいい」と言われて育ってきたけれど、自分で「かわいい」ということを自覚出来るようになってきたからだ。
みんながかっこいいといっていた高橋くんが私に告白してきたり、担任の先生が放課後に呼び出して私の下半身を触ってきたり、男子や男の人が他の女の子より私のことかわいいと思っているのを自覚するようになった。
中学生になると私はいろんな男の子から告白された。
何人かと付き合ってみたけど、大体は3ヶ月も持たずに別れた。
中2の時初めてセックスをした、相手は1つ上の先輩だった。
初めは何が良いのかわからなかったけど、数回していくうちに、快感を覚えるようになってきた。付き合った人とは大体セックスをした。自分が愛してもらえてる実感をもてたからセックスは好きだった。
高校生になって、数字がどんどん減っていく事に少し焦りを覚えてきた。
でも、よく考えてみたら、この数字が0になった時に私は幸せになれるんだと思ってドキドキしていた。
高校の時に付き合っていた彼氏が
「高校を卒業したら、一緒に東京に行こう」
そう言ってくれたから、私は特に目的もなく彼と東京に行った。
彼は大学に通っていたが、そのうちパチンコや競馬ばかりするようになった。
数字がドンドン減ってきているが、彼とこのままずっと一緒にいて私は幸せになれるのだろうか?私はすこし不安になってきた。
ある日、新宿でスカウトを受けた。
キャバクラのスカウトだった。
彼がギャンブルでお金を浪費して、私たちの生活は苦しかったので、キャバクラの時給は魅力的だった。
彼も別に反対はしなかったので、私はキャバクラで働くことにした。
ある日キャバクラにヤクザがやってきた。
いわゆるケツ持ちというやつだったようだ、店長にヤクザのグループに付くように言われて、私は折原というヤクザの接客をした。
折原はヤクザとは思えない物腰のやわらかさで、話をしていても怖くなかった。
私と同じように漁港のある田舎から東京に出てきたということで話がはずんだ。
この日から、折原はちょくちょく店にきて私を指名してくれた。
私は折原の女になった。
一緒に住んでいた彼氏はしつこく別れるのを拒否したが、ヤクザと付き合ってると伝えると大人しくなった。
折原の用意してくれた部屋でひとり暮らしを始めた。
店も新宿で一番高い時給をもらえる店に移籍した。
新しい店で、私は指名を沢山貰えててNo1になった。
他のキャバ嬢から「ヤクザの女だから・・・」と言われているのは知っていたけど、別に気にならなかった。なぜなら私のほうが可愛かったからだ。
折原とはセックスをまだしていなかった。
キスはしてくれるけれど、セックスまだはしてくれなかった。
ある日、折原が家に来た時に私のほうから誘った。
折原とセックスをしたいと思ったから。
折原とセックスをした、今までのセックスと何か違う感じがした。
次の日目が覚めると、数字が見えなくなっていた。
私は妊娠した。
1度しかセックスをしていないのに、折原はなんの疑いも持たずに受け入れてくれた。
私は折原と結婚して、璃子を産んだ。
璃子を産んでから、しばらくしてまたキャバクラで働くようになった。
折原は、璃子のことを溺愛していた。
普通の人がみたら、歪にみえるかもしれないけれど、私は幸せだった。
璃子は大きくなるにつれどんどん可愛くなっていった。
親バカじゃなくて、客観的にみても同級生の中でずば抜けて可愛かった。
小学生のころからよく芸能関係のスカウトを受けるくらい、新宿の街を歩いていても目立つ少女に育った。
璃子は私に数字の話はしてこなかった。
ひょっとしたら、璃子には数字は見えてないんじゃないかと私は思っていた。
璃子が小学校に入る頃には、私はキャバクラをとっくに辞めていた。
折原と璃子との生活は幸せだった。
璃子がどんどん可愛くなっていくにつれて、折原は心配(溺愛)をしていた。
「彼氏ができたら必ず俺に会わせろ」と言っていたが、ヤクザの娘に手を出すような男の子はいなかった。
折原との生活には満足していたが、璃子にはカタギの人間と結婚してもらいたいと思っていた、折原にも話したことがあるが、折原も「璃子には真っ当な幸せを手に入れてほしい」と言ってくれた。
真っ当な幸せ。
そう、私たちが欲しかったのは、普通の平穏な幸せだった。
折原が殺された。
中国人マフィアとの抗争で、食事をしているところを襲われたという話だった。
見ない方が良いと言われて、折原の死んだ姿は確認することはできなかった。
中国人は家族まで殺しかねないと、東京から出ていくことを勧められて、私たちはこの街に帰ってきた。世話をしてくれるといってくれたこの街のヤクザは私の同級生だった。
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