第5話 9月14日

ホームルームで文化祭の出し物を決めた。

結果から言うと折原が提案してくれたバルーンアートに決まった。

理由は準備の期間と、手伝う人数が少なくて済むという理由だった。


途中で一部の男子から


「メイド喫茶にしたら、折原目当てで一杯人あつまるんじゃね?」


と予想の範囲内のゲスい意見が出たが、女子からの冷たい視線とB組と被っているという理由で却下された。


放課後、また3人で集まり、これからの進行について話し合うことになった。

孔明は、あいかわらずイヤフォン、いや、耳栓をつけて勉強をしている。


「進行って言ってもな、とりあえずその折原の知り合いにお願いして、いつ教えてもらうか、どこで教えてもらうか決めて・・・あと、予算か・・・・」

「おい、井澤さ、会計の書類作るのやってくれよ」

「計算得意そうだし、少しは協力した証拠っていうかさ」


孔明は、耳栓をはずして


「まあ、しょうがないっていうか、それくらいなら・・・エクセルでいい?」

「・・・・・・・」

「あと、折原・・・・・昨日はごめん、すこし言いすぎたっていうか、ムキになった。」

「折原の話は信じていないけど、僕が折原の人生を否定する筋はないから」


そう言って、また耳栓をつけて勉強をはじめた。

折原は少し笑っていたようにも見えた。


「ということで・・・今日はもう特にやることないな・・・」


「高柳さん・・・バルーンアートの人のところに行ってみる?とりあえず話をしに」


「ああ、まだ時間早いからいいかもな、でも、その高柳さんの都合は?」


「酒屋さんの店主さんだから、大体この時間はお店にいるはず」


「そっか、じゃあ行ってみるか」

「井澤も一緒にいく?」


「じゃあ、僕は帰るよ、家で勉強する」


なんとなく予想はしてた答えだったが、折原に謝罪をしたからひょっとしてと思ったが・・・と同時に折原と二人きりになれることにドキドキしていた。


「じゃあ井澤、また明日」


「あっ、僕明日ちょっと東京に行ってくるから学校休む」

「金額とかわかったら、LINEしておいてよ」


と言ってLINEの交換をした

あんまり人と関わりたくなさそうなのに、LINEは良いのか・・・



孔明とは校門で別れて折原と二人で商店街へ向かった。


「そう言えば、今日高木くんこなかったね」


「ああ、あいつ今日バイト」


「バイト?この学校バイト禁止じゃないの?」


「ああ、禁止じゃないんだけど、校則で全員部活に入らなきゃいけないから、3年の夏くらいに引退するまでほとんどやつはバイトできないんだよ、隆、あっ高木は家庭の事情っていうか、いろいろあって1年の時からバイトしてるけどね」

「そういえば折原は部活入れって言われなかった?」


「もうこんな時期だから入らなくて良いって言われた」

「新谷くんは部活なにやってたの?」


「サッカー部」


「へー、なんか意外」


「そう?」


「うん、なんかサッカー部の男の子って、もっとチャラいっていうか・・ガツガツしているっていうか・・・・」

「新谷くんは、おとなしいというか・・落ち着いていうというか・・・他人にあんまり興味がないっていうか・・・」


「まあ、大体あってるけど笑」

「高柳さんだっけ?どういう知り合いなの?」


「お母さんの同級生」


「そっか」


「新谷くんのご両親は、この街の人?」


「うん、ああ、お母さんは隣町か」


「そうなんだ、私東京で産まれたけど、お母さんが高校まで住んでたから知り合いが沢山いるんだよね、そんなに大きな街じゃないし、お母さんのこと知ってるかもね」


「どうかな、親父とそういう話あんまりしないし・・・俺もあんまり興味がないというか・・・」


「ふふ」


「なに?」


「やっぱりあんまり他人に興味ないんだね」


思いの他折原の方から話かけられて少し動揺した。

ひょっとして、俺がセックスするに値する人間かどうか探っているんじゃないかと。


「新谷くんは・・・たぶん、違うかな笑」


少し笑いながら折原が言った。


「何が?」


「新谷くん、昨日私がセックスとか言った時、勃起してたでしょ笑」

「新谷くんとセックスしても多分、妊娠しないと思うよ」


見透かされていた。

恥ずかしくて言葉が出なくなってしまった。


「あっ、もう着くよ」


折原に連れて来られた酒屋は、小さい頃からある知っている酒屋だった。

何度か来た事はあるけど、特になにかの思い出もなければ、店主の高柳さんの顔も思い浮かばない。


「こんにちは、折原です。」

「お母さんから連絡があったと思うんですけど、バルーンアートのことで伺いました」


折原がそう声をかけると店の奥から店主らしき人が出てきて


「ああ、桜井の娘さんかぁ、あっ折原さんね、似てるなぁ・・・いやぁ、お母さんの高校の時を思い出したよ」

「バルーンアートね、やることになったのね、オッケー」


店主と言うから、もう少し歳とっていると思っていたんだが、見た目30代半ば?後半?の見た目だ、折原はお母さんの同級生というのなら、折原は何歳の時に産まれた時の子供なんだ?


「一緒に委員をやってる新谷くんです」


「あっはじめまして、新谷です、よろしくお願いします」


「はい、よろしくね、新谷くんに折原さんね」

「道具とかは、全部貸してあげるよ、えーと、風船はおれのほうで発注するね、あとは〜、やりかた教えにいくよ、店どうせ暇だし、久々に学校行くのも面白そうだしね」

「なんなら、前日も手伝いにいくよ笑」


「なんでバルーンアートできるんですか?」

折原が、俺も疑問に思っていたことを聞いてくれた。


「大学の時にさ、君たちみたいに学校のイベントでやることになってやり方を覚えてさ、こっち帰ってきてからも、この商店街の祭りで親父がなんかやれっていうから、ちょくちょくやっててね」


『あっ・・・思い出した・・・確かに祭りの時、この店でかき氷を買ったら、バルーンアートをもらえた。あの時かき氷を作ってくれていたお兄さんか・・・』



「じゃあ・・・・早速、明日とかって大丈夫ですか?」


「オッケーいいよ、暇だから笑」

「あっ・・・・新谷くん?」


「はい?」


「違ったら申し訳ないんだけどさ、君ちょっと年上のお姉さんいる?」


「え・・はい、いますけど」


「信金に勤めてる?」


「ええ、はい」


「あっやっぱり、新谷って新しい谷だよね?」

「いやぁ、商店街に君のお姉さんのファン多いよ笑」

「この街で、新谷って苗字珍しいからさ、そうかなぁって思ってさ」

「おれ、がんばちゃうからさ、今度、商店街の若い衆と合コンでもって言っておいてよ笑」


この街に住んでいると良くあることだ、良い噂も悪い噂もあっという間に町中に広がる、漁師の高木といえば、隆の家だってみんな知ってる。

おそらく折原のお母さん、おばあちゃんが、街で一番美人だったとみんなが言っていたというのは、まんざら嘘じゃないだろう。

それが嫌で街を出ていく人間は大勢いるが、俺は別にそんなに嫌じゃない。

SNSで悪口や、あることないことを書かれるくらいなら、こうやって面と向かって言われる方が信用できる。

が、姉ちゃんにこのことは伝えないけど笑


「明日15半〜16時の間に学校に行けば良いのね、オッケーオッケー」

「桜井じゃないか、折原さんのお母さんと、新谷くん!お姉さんによろしくね〜」


高柳さんは、すごく軽い、チャラい感じだったが、あの人も話を聞く限りは、一度この街を出て、戻ってきた人なんだろう、店のために修行に行ったのかもしれないし、夢か目標を果たせずに帰ってきたのかはわからないけど、この街には高柳さんみたいな人は沢山いる。

俺は、どうせ戻ってくるなら初めから出なきゃいいんじゃないかと思うが、みんなここじゃないどこかで新しい何かを手に入れたいんだろうか。





「お姉さんいるんだ、美人なんだね」


「いや、姉ちゃんをそういう風にみたことないよ」


帰り道、折原とまた二人きりになって、さっきの話を思い出して急に恥ずかしくなってしまった。


「じゃあ、私の家こっちだから」


「ああ、じゃあまた明日」


そう言った後、別れ際に折原は


「新谷くん、きっとダメだと思うけど試してみる?」


俺は、聞こえなかったふりをして家に帰った。

その日の夜、また折原に少し似た女優でオナニーをした。

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