第4話 井澤孔明

僕のお母さんはこの街出身だ。

高校の時は、今の折原みたいに学校で一番かわいいと言われていたらしい。

高校まではちやほやされていたお母さんだけど、東京の大学ではお母さんよりかわいくて、ちやほらされている女の子が沢山いたらしい。

お母さんは、もっと可愛く、綺麗になりたくて、洋服や化粧品を買いまくった。

仕送りや、普通のバイトではお金が回らなくなって、キャバクラでバイトをするようになった。

金のために沢山シフトを入れたせいか?お母さんに素質があったかはわからないが、お母さんはどんどん人気になり、店のナンバーワンになった。

キャバクラで働く時間と反比例して、大学にいく時間はどんどん減り、とうとう学校に行かなくなった。

銀座のクラブから声をかけられ、お母さんはキャバ嬢から、銀座のホステスに転身をした。

学校に行かなくなって、親と喧嘩したらしいが『入学金や授業料を返せ!』と言われて、現金で一括で返したらしい。


お父さんとは銀座のクラブで知り合ったらしい、お父さんは、大手銀行の銀行員だったが、決してエリートと言うわけではなかった、大学は一流と言われる大学卒だったが、銀行の上を目指す人間にはもっともっと優秀な人間がいたらしい。

お父さんは接待でお母さんのクラブに何度か通っていくうちに仲良くなって、

それがきっかけで、結婚してお母さんは専業主婦になった。


僕は小さい頃から習い事を沢山やっていた。

ピアノ、スイミング、英会話、公文、サッカー、そろばん・・・

覚えているのはこれくらいだ

ピアノやスイミング、サッカーは、正直得意ではなかったが、英会話や公文は得意だった。

勉強は小さい頃から嫌いじゃなかったし、なにより100点のテストを持って帰ると、お父さんもお母さんも褒めてくれるのがうれしかった。

小学校では、いつも勉強の成績は学年上位だった。

他の友達の夢は「サッカー選手」がダントツで多かったけど、僕の夢は「学者」だった。

勉強はがんばれば結果が出て、お母さんやお父さんが褒めてくれる。

僕は勉強を一生懸命がんばった。

成績はどんどん良くなっていったけど、それと反比例で運動は苦手になった。

4年生の運動会からお父さんは仕事が忙しいと言って、応援に来なくなった。


中学受験をすることにした。

第一志望は公立の中高一貫。

ここから、沢山の一流大学に生徒を排出している。

第二志望は私立。

偏差値は同じくらいだけど、公立の中学のほうが実績は良い。

公立と私立は問題の傾向が違うから、勉強は大変だったけど、精一杯頑張った。


第一志望は落ちて、第二志望の私立には合格した。

お母さんは喜んでくれたけど、お父さんは「まあ、この中学でも良い高校に行けば良い大学には入れるから、がんばれよ」と励ましてくれた。


中学に入っても勉強は頑張った、初めは小学校のように中々上位に食い込めなかった、1年生は学年30位だったのが、2年で20位以内、3年の頃には10位以内に入るようになっていた。

お父さんは、中学に入った頃からさらに仕事が忙しくなり、帰りが遅くなっていた。

それでも、テストの結果や、成績表を見せると「まだまだ、上にいけるな、がんばれよ」と励ましてくれた。


高校は、超進学校に狙いを定めた。

必死に勉強して、模試の結果はA判定だった。

中学では第一志望の学校に入れなくて、お父さんとお母さんに悲しい想いをさせてしまったから必死に頑張った。


結果は・・・・

見事合格した!

お母さんはすごく喜んでくれた、お父さんは仕事が忙しくてなかなか会えなかったけど、合格を報告したら「ここからだな!がんばれよ」と励ましてくれた。


高校のレベルは高かった、特進クラスで下から数えた方が早い順位だった。

それでも、必死に頑張って、少しずつだけど順位は上がっていった。

この頃から、お父さんが帰ってくるとお母さんと喧嘩をしているようだった。

お父さんは、昇進して仕事が前よりもさらに忙しくなって帰ってくるのは深夜だった。

きっとストレスが溜まっているんだろう。

喧嘩をしている声は聞きたくなかったので、イヤフォンをつけて勉強をすることにした、でも、音楽を聴いていると集中できないし、お父さんとお母さんが喧嘩しているかどうかもわからなかったから、イヤフォンをつけて音楽を消して少しだけ周りの音を遮断して勉強をするようになった、お父さんとお母さんが喧嘩をしていても何を話しているかはわからないが、喧嘩をしてしているかどうかはわかった。

僕の成績があんまり良くないことも、喧嘩の一因なんだろうと思った、もっと頑張って成績が良くなれば、喧嘩の回数も減ると思っていた。


高校3年1学期の期末テストで学年20番に入ることができた。

学年10番に入ることは難しいかもしれないけど、このまま行けば、お父さんの大学、それ以上のランクの大学に入れるかもしれない。


ある日曜日、ほとんど接待ゴルフに行っていたお父さんが珍しく家にいたが、特に気にせずに、部屋で勉強をしていた。

昼食頃、お母さんに呼ばれてリビングに行った。



空気が重かった、何かいつもと違うことが起きているのが空気でわかった。

お母さんは泣いているのか?

とにかく良くないことを聞かされるのはその場の空気で感じた。

しばらく沈黙が続いたが、お父さんが


「お父さんとお母さんは離婚することにした」

「離婚の理由はお父さんにあるから、お前はお母さんと一緒に暮らすことになると思うが、一応お前の意見も聞いておきたい」

業務的に、淡々と、お父さんは僕に離婚することを告げた。

いや・・・お父さんは、前からこういう喋り方だったかもしれない。

いつも、冷静で淡々と感情をあまり出さずに・・・


僕は、頭が真っ白になってしまって「ちょっと考えさせてください」としか言えなかった。


部屋に戻って机に向かったら、いろんなことが頭の中を駆け巡った。


『お父さんと住んだらご飯とかはどうなるんだ?』

『そもそも何処に住むんだ』

『僕の成績が悪くて、お父さんが嫌になったのかな?』

『お父さんが悪いってどういうことなんだ?』

『僕はお父さんに捨てられたのか?』


気を紛らわせるために、イヤフォンをつけて音楽を聴いたけど、音楽は頭の中に入ってこなかった、僕はいつものように音楽を消してイヤフォンを耳栓にして勉強を始めた。


少しだけ気持ちが落ち着いた。


次の日からお母さんの様子がおかしくなった。

朝起きれなくなって、弁当のかわりに机にお金が置いてあるようになった。

今までたまにしか飲んでいなかったお酒を毎日飲むようになった。

お父さんは相変わらず、仕事が忙しいといって帰ってくるのは深夜だった。


お母さんは通院することになって、おじいちゃんとおばあちゃんが、田舎から来てくれて色々家のことを手伝ってくれるようになった。


夏休み、僕はお母さんと一緒に引っ越すことになった。


お母さんの実家は東京から2時間くらいで着く小さな街だった。

夏季講習の時だけ東京に帰って来たが、それ以外はこの街で過ごしていた。

東京の家に4日間泊まったがお父さんは1回も帰ってこなかった。


お母さんは、実家に戻ってきてから少し元気になっていたみたいだ。

毎日お酒を飲むのもやめたし、高校の頃の同級生とご飯を食べに行ったりして、少し笑顔が戻ってきた。

おじいちゃんとおばあちゃんは小さな部屋を僕に用意してくれた。

ふすまで仕切られた部屋はTVの音がほんのに聞こえるくらい物音は聞こえる。

リビングで大きな声で話をしていたら、静かな夜だと筒抜けまでとは言わないが耳をすませば、会話の内容がわかるくらいだった。


ある日の夜、僕はいつものように耳栓がわりにイヤフォンをつけて勉強をしていた。

すると、おじいちゃんが酔っ払っているのか、少し大きな声で話をはじめた。

イヤフォンをつけていても声が聞こえるのは、結構大きな声で話さなければならない。

おじいちゃんも、おばあちゃんも、夜は僕が勉強しているので、TVの音量も小さめで観てくれている、そんなおじいちゃんが大きな声で話をしている内容が気になって、僕はイヤフォンをはずして聞く耳を立ててみた。


「あいつ。。。ほんとにふざけてる!」

「あなた声が大きいです、孔明に聞こえちゃいますよ」

「あいつは勉強中音楽を聴きながらやってるみたいだし、これくらいは大丈夫だ」


おじいちゃんの口調から察するに、なにやら怒ってるようだった。


「自分の浮気が原因だと素直に認めたのは許す、ただ、相手に子供を作らせて、その子供の父親になりたいとなんて、いくら生活費と慰謝料を払ったとしても、あの子たちがあまりにも可哀想すぎる」

「・・・・・」

「あの男は、若い女と新しい子供と生活するために、あの二人を捨てたんだよ!」

「・・・あなた、声が・・・・」


『浮気?若い女?新しい子供?』


一瞬混乱はしたが、すぐに理解できた。

お父さんは、若い女ができ、その女を妊娠させて、僕らとのコンティニューを選ばずに、その新しい女とのニューゲームを選んだんだ。

夜遅かったのは仕事が忙しいからだけじゃなかった、毎週休日にゴルフに行っていたわけではなかった。

出来の悪い僕は捨てられたんだ。


その瞬間、父に対して憎悪が生まれた。

『見返してやる!』

僕は、父より良い大学に入って、良い会社に入ってやる。

そう思うと、より勉強する気が出てきた。

そうだ、少しづつだけど結果は出始めていたんだ、2学期の期末は学年10位内も見えてたじゃないか、勉強は嘘をつかない、やった分応えてくれる・・・・・


僕はイヤフォンをつけて勉強を続けた。









「何かいい案思い浮かんだ?」

教室に入ってきた折原に聞くと


「バルーンアート」

「バルーンアートで教室を飾り付けて、当日はバルーンアートを配る」

「変な帽子つくったり、犬とか動物のおもちゃ」


「変な帽子って笑、ってでも、準備にそんなに時間かからなそうだし良いかもな、でも俺たちバルーンアートなんてやったことないけど」


「お母さんの知り合いでやってる人がいるから、もし決まったら教えてくれると思う」



『折原のお母さんの知り合い?ヤクザ?テキヤ?いや、バルーンアートを売ってる屋台なんて見たことないな』



「そっか、じゃあ、まあ・・・出し物の案は、喫茶店、お化け屋敷、バルーンアートってことで」

「井澤もそれでいい?」


とイヤフォンがただの軽い耳栓だということを知った俺は、意地悪のつもりで孔明に振ってみた。

すると孔明は何事もなかったように、イヤフォンをはずして


「なんでも良いって言ったじゃん、いいよ、それで」

「そんなことよりさ、折原はさ、なんで昨日みたいな嘘つくの?」

「あんな嘘ついてまでみんなに注目されたいの?」


矢継ぎ早に孔明が喋りだした。


「嘘・・・・」

「信じなくてもらえなくても私は全然かまわないけど。。。それより昨日の話聞いていたんだ、てっきり音楽聴きながら勉強しているのかと思ってた。」


「そんなことはどうでも良いんだよ、あっちにもお前・・・折原みたいに変なことを言って注目を集めたいって女子は見てきたけど、結局嘘だってバレて、本人が損するだけだ。折原はそんなことしなくても男なんて寄ってくるだろ?そんなに綺麗なんだから」


他人に興味がなさそうな、というよりこいつがこんなに話しているのをこの時にはじめて聞いた。しかも若干イラついているように、感情をだしているのも。

なんでだろう、こいつも折原に惚れたクチなのか?



ガタっ


教室のドアが開き、隆が入ってきた。


「ごめんごめん、遅くなって、もう決まっちゃった?出し物」

「え?なにこの空気?どうしたの?」


「決まったよ、っていうか、お前隣のクラスだし関係ねーだろ」


「そんなこと言うなよ、昨日も一緒に考えたじゃねーか」


隆の天然とも言える、絶妙のタイミングで話を遮ってくれた。と思った瞬間


「井澤くんが信じてもらえないのはしょうがないと思うけど、本当のことだし、実際おばあちゃんはお母さん、お母さんは私を産んだ後、どんなにセックスをしても子供は産まれなかったの、それがなんでかもわからないし、それが納得する証拠にならないのはわかるけどね」


隆が、俺の顔を見て「なに?」みたいな表情を浮かべた。


「100歩譲って・・・いや、譲れないな、やっぱ・・・・

折原たちがアンドロイドだと信じこんでいるのはわかったよ、でも、折原はどうなんだよ、そんなこと納得しているのかよ?」


「納得・・・・うん」

「納得というかどうかはわからないけど、受け入れてはいるよ、私は小さい頃から周りのみんなに『かわいいかわいい』って言われて育てられて、それがうれしかったし、幸せだった。

今もかわいいと言われるのはうれしいし、・・・ちょっと困ることもあるけど、それ以上に私を可愛く産んでくれたお母さんに感謝してる、だから、私の“娘”にも同じようにかわいいと言われ続ける人生を歩んでほしいと思ってる、おばあちゃんもお母さんも大好きだし」


一瞬孔明が言葉に詰まったが・・・


「かわいいだけじゃ生きていけないだろ・・・女は歳をとると・・・いや・・・

アイドルにでもなるのか?かわいいだけじゃ、金は稼げない、生活していけないだろ」


何が孔明をそうさせていたのか、全く理解できなかったのだが、孔明はその後も


「綺麗事じゃなくて、金はやっぱり必要なんだよ、金があればなんとかなる、金で解決できる事なんて・・・」


「お金?お金ね・・・井澤くんはお金のためにそんなに一生懸命勉強がんばってるの?」


不穏な空気になってきたのを察した隆が



「まあまあ、なんかよくわかんないけどさ、金は大事だし、折原はかわいいってことでいいんじゃない?まあ、この街でだったら、そんなに金がなくても生きていけると思うけどな笑

オレも折原と一緒で、父ちゃんと母ちゃん好きだし、父ちゃんと母ちゃんが幸せだとオレも幸せだしな、人それぞれでしょ」


「・・・・・・・」


少し沈黙が続いた後に


「なあ、光?」


こいつ、無茶振りしてきやがった・・・・・



「ああ、まあ、俺は井澤みたいに頭良くないし、折原みたいに見た目が良いわけじゃないから、この後もまあ平凡?な暮らしをしていくんじゃない?金持ちにはなれないんじゃないかな笑」

「隆がいう通り人それぞれじゃない?、目標や、やりたいことが見つからない人間だっているでしょ?その点、井澤も折原も目標あるんだから良いんじゃない?」


「・・・・・・・・」


また少し沈黙が続いた・・・・・


「おい、オレも一応父ちゃんの仕事継ぐって目標あるよ笑」

「オレは折原の言ってる事、少しわかるかもな、オレもじいちゃんと父ちゃん大好きだし、じいちゃんと父ちゃんがいたから、漁師のみんながやさしくしてくれるし、それは全部じいちゃんと父ちゃんのおかげだからな、じいちゃんには会った事ないけどな」


「おじいちゃん死んじゃったの?」


「ああ、一人はオレが産まれる前に死んじゃったし、もう一人は、誰かもわかんないんだよ笑」


少し間を置いて


「・・・・・・あのさ・・・・・」


折原が何か言いたそうにしてるのを聞いて隆が


「なに?」


「もしもの話ね、高木くんのおじいちゃんも私のおばあちゃんと同じように、この街で漁師を守るために作られたアンドロイドだったとしたら高木くんは納得できる?

この街の漁師さんの多くの人が、そういう存在だったとしたらって言われたら信じられる?」


「え?・・・・もしもの話だよな・・・・・」


隆はうつむきながら少し考えて


「・・・うん、もし、漁師の人たちがそう言ったら、オレは信じるかもしれない」


「話がすり替わってるよ」


孔明が少し大きめな声で、話を遮った。


「僕は、なんで折原が嘘をつくのか?っていうことを聞いていたんだ、折原が頑なに嘘じゃないっていうなら、僕は証拠を知りたい、折原が言ってることの」


もはや意地になっているようにしか思えなかったが、それでも折原は


「井澤くんが100%納得できそうな証拠は多分みせれないと思うけど・・・

井澤くん、私とセックスしてみる?多分井澤くんは違う感じがするから、何回生で、何回中出ししても、私は妊娠しないと思う。

だんだんわかってきたの、どういう人が違って、どういう人がそうかもしれないかって事が」


「そ・・それは、折原の好みって話じゃ」


「だから、違うってわかるの、いいよ、何回でも、何十回でも、何百回でも中出ししても、それでも私は妊娠しないってわかる」


「そんなの・・・ただの不妊症かもしれないじゃないか・・・」


「ね?だから納得させられないって言ったでしょ?」

「私やお母さんやおばあちゃんにしかわからないことをあなたたちに説明するのはむずかしいみたい」


孔明は黙ってしまった、そんなことよりも、俺は折原が『セックスしてみる?』『生で中出し』『何百回でも中出し』という言葉を発した時に、興奮して少し勃起してしまった・・・・



「まあとりあえずさ、出し物の候補きまったから、先生に伝えて今日は解散しようぜ」


沈黙と、勃起している気まずさに耐えきれず、俺はみんなにそう伝えて職員室に向かった。

先生に伝えると、明日のホームルームで決めることにしようと伝えられ、俺たちは解散した。

孔明はいじけたのか、あの後一言も離さずにそさくさと帰って行った。







「ただいま」


璃子が家にかえると、上半身裸の男がリビングでビールを飲んでいた。

男の背中には大きな龍の刺青が彫られている。

璃子の母は何事もなかったかのように一緒にビールを飲んでいるが、事後であることは明確だった、今日だけの事ではないし、その行為があった匂いを璃子は感じた。


「ちょっと疲れたから寝る、晩御飯になったら起こして」


そう言って璃子は自分の部屋に入り、制服を脱いで下着姿のままベッドに横たわり、『電池が切れたかのように』一瞬で眠りについた。



「お前の娘、かわいいな、お前の高校の時よりかわいいんじゃないか?」


「そうね、私より璃子のほうがかわいいと思うわよ、親バカじゃなくて客観的にみてもね」


高校の時からの知り合いであろう刺青の男はビールを飲みながら話を続けた。


「なあ、どうだ?こんど親子丼」

「お前の娘も抱かせろよ笑」


男はイヤらしく笑いながら続けた


「でも流石にもしものことがあって、高校生を孕ませるっていうのは気がひけるなぁ笑」


男はそう言ってビールを飲み干した。



「あんたとなら、そんな心配はないけどね・・・」

璃子の母はボソリと聞こえない程度の声で独り言を言った。







結局、今日も隆と一緒に帰ることになった、夏休みが終わってからあいつがバイトが無い時は、ほとんど一緒に帰っているんじゃないかってくらいだ。

そのせいか、隆とは前よりたくさん話すようになった気がするし、気恥ずかしい表現だが、前よりも仲良くなっているような気がする。


いつも通りコンビニに寄って帰る道すがら、隆が話かけてきた。

なんの話題かは、話を振られる前からわかっていたけど。



「なあ、折原の話さぁ」


「なんだよ、信じるのかよ笑」


「いや、100%信じてるとか、そう言う事じゃないんだけどさ、逆に数%そうかもしれない、そんなこともあるんじゃないか?って思っちゃったよ」


「え?あんなとんでもない与太話を?」


「とんでもないとは思うよ、、、、でもな、オレも、父ちゃんも、じいちゃんのおかげでこの街で生きていけてるんだよ、じいちゃんはブラジルから来たって言ってるけど、死んじゃった今となっては確かめようがないし」


「いやいや、パスポートとかそういうの残ってるだろ」


「お前も知ってるだろ?毎年何人かが密入国で捕まって連れていかれてる外国人の漁師」

「じいちゃんのパスポートとか、オレはみたことないし、気にもしてなかったけど」


「・・・・・・・・」


「アンドロイドなんて、そんなもんいないとは思うけど・・・思うけどさ。なんか、折原が言ってる事が、全部が嘘だとは思えなくてさ、もちろん証拠はなんにもないんだけど、違うって言い切れる証拠もないような気がしてよ」


「いやいや・・・・」


思い切り否定をしたかったが、たしかに折原が言ってる事を俺たちも100%嘘だと言える証拠はもっていない、ただ、そんなはずはない、アンドロイドなんているわけがない。

いるはずがない・・・と言うことすらも正直言い切れない。

俺たちはこの街の外のことは何も知らない、世界で起きていることも知っている気になっているだけかもしれない・・・

いや、それでもやっぱり折原の話は信じることは難しい・・・

嘘だと言い切ることもできないけど・・・・



「オレのじいちゃんが、漁師を守るためのアンドロイドか・・・・」

「まあ、アンドロイドじゃないにしても、オレの遺伝子の中にはそういうのが組み込まれてるかもな・・・この街、好きでも嫌いでもないけどさ・・・」


隆の家庭環境のことは知っている、隆が差別を受けたきたのも見てきた。

折原の話が、隆の今までの人生で味わった辛さを少し和らげたのかもしれない、そう思うことで存在理由を保てるというか・・・・

そう考えると、折原も同じような感じなのかもしれない。

『かわいい』というだけで嫉妬やイジメを受けてしまう事を自分の中で消化するために。


「あっ!!折原バンドに誘うの忘れてた!!!」


「お前あの空気でそれやったら尊敬するわ笑」


「それにしても、井澤のやつ、なんかあれだったな、なんていうか・・・」

「イライラしてたな笑」


「あいつ、折原のこと好きなんじゃね?」


「いや、まてまて、折原のこと嫌いなやつなんていないだろ」

「お前だって好きだろ?」


「いや、そういうんじゃなくってさ、まじで好きっていうか、なんて言えばいいんだ?付き合いたいと思っているって言うかさ」


「お前付き合いたくないの?折原と」


「いや、付き合ったら大変そうじゃないか?あいつ」


「ふーん、付き合いたいっていうか、ヤリたいだけか?」

「お前、折原がセックスとか、中出しって言ったとき興奮してただろ笑」

「まあ、オレもなんだけどさ笑」


「エロかったよな笑、ちょっと勃っちゃったもん」


「まじでか?これだから童貞は笑」


「え?お前童貞じゃないの?」


「当たり前だよ、何言ってんだよ笑」


「初耳だけど、誰とだよ」


「おしえねーよ」


初めの話から一変して下衆な会話をしながら、家に帰った。

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