第2話 高木隆
オレはじいちゃんに会ったことがない、2人とも。
父ちゃんの方のじいちゃんは、オレが産まれる前に死んだ。
ブラジル人だった。
出稼ぎというか、金を稼ぎにこの街にきて、ばあちゃんと知り合って結婚した。
じいちゃんは他にも来ていた他のブラジル人より真面目でよく働いていたみたいで街の漁師たちに良くしてもらっていたみたいだ。
ばあちゃんと結婚する時も、外国人にしては珍しく漁師のみんなに祝福してもらったみたいだった。
じいちゃんを乗せた船が帰ってこなかった時、みんなが寝ずに探してくれたって話を父ちゃんから良く聞かされていた。
じいちゃんがすげー良い人だったから、オレたちはここで生きていけるって。
悪く言う、差別をする人間はまだまだたくさんこの街にもいるけど、漁師の人たちはオレたち家族にやさしかった、だからオレは漁師を継ごうと思っている。
兄ちゃんたちは、この街を出て行った、オレもこの街が好きなわけじゃないけど、漁師の人たちが好きだから、この街で生きていっても良いと思っている。
母ちゃんのほうのじいちゃんは、会ったこともなければ誰かもわからない。
母ちゃんのばあちゃん、ちがうか、母ちゃんの母ちゃんは、父ちゃんのばあちゃんみたいに、ここにきた出稼ぎの外国人との子供だった。
なんていうんだ?
おれのひいじいちゃん?は、父ちゃんのほうのじいちゃんみたいな働き者じゃなかったから、街からも漁師からもあんまり良く見られてなかった。
母ちゃんの母ちゃん、ばあちゃんか笑
ばあちゃんは、そんな目線に嫌気がさしてこの街を出た。
そして、誰の子かわからない子供を妊娠してこの街に戻って来た。他に何処にもいく場所がなかったから、母ちゃんの見た目は、一目で日本人じゃないとわかる見た目だ。
目が青いし、顔つきもスタイルも日本人離れしている
母ちゃんのほうのじいちゃんは、日本人じゃないっていうのは誰が見てももわかる。
母ちゃんは街での評判は良いほうじゃなかった。
街にも漁師の人たちにもあんまり良い目で見られてなかった。
でも、父ちゃんは、そんな母ちゃんと結婚した。
街の人はともかく、漁師たちにも反対された。
「お前は親父に似て働き者だ、お前にはもっと良い女がいる」って。
でも、父ちゃんは母ちゃんと結婚した。
「この街でオレ以外こいつを幸せにしてやれる人間はいない」って言って漁師の人たちを説得したらしい。
オレには兄ちゃんが2人と妹がいる。
上の兄ちゃんは父ちゃん似だ・・・
めんどくさくなってきた、要は黒人っぽい見た目だ。
小さい頃からそれが理由でいっぱいいじめや差別にあってきたみたいだった。
でも、上の兄ちゃんは腕っぽしでそれを乗り越えてきた、喧嘩がめちゃくちゃ強くて、中学生の頃には街でも有名な不良だった。
それでも漁師の人達は兄ちゃんにやさしかった。
「若い時はそんなもんだ、お前はいい漁師になりそうだな笑」って
高校にはいかないで、父ちゃんの仕事を手伝っていたけど、ある日「格闘家になってみたい」といってこの街を出て行った。
東京でプロの格闘家を目指しながらトレーナーの仕事をしてるみたいだ。
それでも、お盆や正月には帰ってくる。
頑張っている話をいっぱい聞かせてくれる、父ちゃんも母ちゃんも楽しそうに話をきいている、上の兄ちゃんは幸せそうだけど、もうこの街の人間じゃないってことを会うたびに感じる。
下の兄ちゃんは、母ちゃん似だ。
見た目がハーフ系のイケメンだ笑
上の兄ちゃんがいたから、下の兄ちゃんはあまりいじめられなかった、いじめると上の兄ちゃんが出てくると思われていたから笑
下の兄ちゃんは正直あんまり好きじゃない。
上の兄ちゃんのおかげなのに、自分は何もしてないのに、見た目がイケメンだから周りにちやほやされていた、高校を卒業して「オレにはこんな街は似合わない」と吐き捨てて、この街を出て行った。
噂だと、歌舞伎町でホストをやっているらしい。
上の兄ちゃんと違って全然家に帰っ来ないから本当かどうか知らないし、もし本当だとしても、別にどうでもいい話だ。
ただ、あいつはいつかこの街に帰ってきそうな気がする、この街はああいう人間が帰ってくる街だから。
兄ちゃんたちのせいにするつもりはないけれど、オレはこの街に残ろうと思っている。
じいちゃんや、父ちゃんが、こんなオレにも居場所を作ってくれてる。
オレは上の兄ちゃんみたいにやりたいことがないし、友達がいるからここでも楽しくやっていけると思う。
漁師の人達だけじゃなくって、オレの見た目や生い立ちを気にしないで付き合ってくれる人がいる場所をこの世界で探すのは、大変なことだと思ってる。
あいつと友達になったのは、ゲンガーのポケモンカードをくれたのがきっかけだった。
オレのデッキがイマイチで、なかなか勝てない時に、あいつが「ダブってるから、エネカと交換でいいよ」とゲンガーのカードをくれた。
「黒っぽいし強いし、お前に似てんじゃん」
その言葉は、捉えようによっては差別にしか聞こえないけど、あいつからは差別を感じなかった。
ただ単純に、ただ素直に、見た目と印象を伝えてるように感じたからだ。
おそらくあいつ本人は何も考えないで言ったんだと思う。
もらったゲンガーはゴースとゴーストがないと進化できないから、オレのデッキに入るのもうちょっと先の話だったけど。
それからもあいつは何かと一緒にいた。
小・中は一緒にサッカーをやっていた、オレはストライカー、あいつはセンターバック
オレは”血”のおかげで、小さい頃から身体も大きくて、足も早くて、力も強かった。
正直同じ学年のやつらに負ける気がしなかったし、実際点を取りまくっていた。
あいつは特別運動神経が良いわけでも、身体が大きいわけでもなかったけど、良く周りが見える選手だった、そして、オレと違っていつも冷静だった。
冷静と言う言葉は正しくないのかもしれない、いつでも冷めた目で周りをみてるいつものあいつの性格が、サッカーの時、センターバックとして活かされていた。
その頃からオレにはもちろん差別はあった、この街のチーム同士の試合ではあんまりなかったけど、隣街のチームや県大会予選の時には
「あのクロンボ反則じゃん」
「どうせあの街だから漁師の子だろ」
「黒人つかうなよ」
「あれ?アレのお母さんかな?黒くないじゃん」
そんなことを言われていたのは気づいていたけど、小学生のオレはそんなに気にしてなかった、そんな時あいつは「あんなこと言ってるから、日本はサッカー弱いんだよ、フランスなんてほとんど移民の選手ばっかじゃん」と小学生のオレにイマイチ意味がわからなかったけど、いつも声をかけてくれていた。
中学にはいって少し状況が変わってきた、1年生でレギュラーになったオレに対して先輩の嫌がらせが始まった。
キャプテンやレギュラーの先輩は良くしてくれたけど、オレのせいでレギュラーを外された先輩とその仲間に、シゴキににも似た練習をやらされたし、いつも陰口を言われていた。
そんな時もあいつは「別にお前の色が黒いから嫌がらせくらってるわけじゃねーぞ、単純にお前の才能に嫉妬してるだけだ」と言ってくれた。
それでも2年の時、オレは事件を起こしてしまった、県の強豪チームとの練習試合の時だ。
試合が始まってから、いつもよりひどく削られてイライラしていた時に相手選手が
「黒人の貧乏漁師の息子がサッカーなんてやってんじゃねーよ」と言われて頭突きをかましてしまった。
試合は中止になり、オレは停学になった、停学中にあいつは家に来てくれた、会った瞬間に「ジダンかよ笑」と笑いながら言われたのをはっきり覚えている。
その後、あいつとどうでもいい話をしながら
「オレ部活辞めるわサッカー。なんか昔みたいに楽しくねえや」
「俺も辞めようかな、俺はそもそもそんなに楽しくてやってたわけじゃないし」
「オレとお前が辞めたらチームボロボロになっちゃうからさ、お前は辞めんなよ。辞めてもどうせやることないんだろ?笑」
「まあ、そりゃそうなんだけどさ」
「オレはさ、家の手伝いあるし、下の兄ちゃんもいなくなったしさ、父ちゃん大変そうだし」
「そっか、まあ3年なったら戻ってきたら?」
「いいよ、もうサッカーは」
高校も同じ高校に入った、うちの高校はありがちな校則で全員が何かしらの部活に入らなくてはいけなかったが、オレは家の手伝いがあるからといって、部活に入らずに家の手伝いとバイトをすることにした、先生もオレの家庭のことは知ってるし、特に多くは語らずに黙認してくれた。
あいつはしょうがなくまたサッカー部に入ったらしいが、うちの高校はそんなに強くなかったから、練習もそんなに厳しくないし、練習時間もそんなに長くなかった。
部活が終わるとたまにあいつはオレのバイト先のコンビニに来て、時間が合えばその後だらだらとくだらない話をしながら、暇をつぶしていた。
親友?ってわけじゃないけど、一番仲が良いのは付き合いが長い分あいつなんだろう。
あいつはなんかやる気がないから、高校卒業しても隣町の大学似通ってこの街にいるっていうし、この後もずっとこんな関係性で生きていくんじゃないかと思っていた。
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