才能ガチャ

冬気

才能ガチャ

 ようこそ、清浜高等学校へ。え? お前は誰だって? おいおい、初対面の人に『お前』はないだろう。まあ、そんなことはいい。晴れてこの高校に入学した君たちに、ここでの生活を送る前に一つ、いいことを教えてあげよう。……怪しくなどない。そんな不審者を見るような目で俺を見るな。ああ、そうさ。俺はこの学校の人間じゃあない。これだから勘が鋭いヤツは嫌なんだ。人を疑うところから始める。何? 「早く教室に行きたい」だあ? おいおい、まだ話は始まったばかりだぞ。……分かった、分かったから大声で「先生」と叫ぼうとするのをやめなさい……。ほら、ね? いい子だから。はあ……。最近の子どもは警戒心ばかり強くなって……。別に悪い事じゃないが……。では、本題に入ろう。

 この学校の敷地が広いのは君も知っているだろう。なんせ、俺も最初はびっくり……、おっと口が滑った。おほん。この学校には多くの自販機がある。少し歩けば色々なところにあるのはすぐに分かるだろう。その中でも、購買の自販機。飲み物を売っているほうだ。ヨーグルトとかを売っているほうじゃない。その、飲み物を売っている自販機の列の左から二つ目。夕方四時二十分四十秒、そこの前に行くと、その自販機がよく見るガチャガチャに変わっている。一日一人だけが見つけることができる。そのガチャガチャを回すかどうかは君次第さ。俺は「回せ」とも「回すな」とも言っていない。そのガチャガチャが現れる場所と時間を教えただけさ。ただこれだけは言おう。

『欲に飲み込まれるな、取り返しがつかなくなるぞ』

「はっ」

 視界が引き延ばされるようにして戻り、僕の耳には周りの新入生達が騒ぐ音が聞こえるようになる。なんだ、さっきの怪しい男。それにしても変な感じだった。あの男以外はモノクロに見えて、しかも時間が止まったように動きが無かった。それに、僕は一言も話していないのに、あの男は僕の頭の中を読んで会話してきた。なんか、変なガチャガチャの話をされたな。

 その日、僕はあのガチャガチャの話が気になって、新入生オリエンテーションが終わったら、四時十六分まで購買近くの四階のトイレに潜んで、四時二十分には例の自販機の前に立った。時間まで残り十秒、九、八、七、六、五、四、三、二、一……。

「ほんとに現れた……」

 僕の前にはよく見るあのガチャガチャがあった。先程までそこにあったはずの自販機は、いつの間にか消えていた。ガチャガチャの表示を見ると、『才能ガチャ』と書かれていた。『勉強の才能』、『会話の才能』、『絵の才能』、『運動の才能』などなど、十種ほどの才能が書かれていた。価格は一回千円。

 正直『勉強の才能』には心惹かれたが、一回千円は高すぎる。しかもガチャガチャだから、どれが出てくるか分からない。

「帰るか……」

 そう呟いて、先生に見つからないように気を付けて帰った。まあ、結局見つかって、誤魔化すのに大変だったけど。

 それから僕は高校生活の忙しさで、そのガチャガチャのことはすっかり忘れていた。

 ある日の帰りのホームルームで、担任の先生が険しい顔をして言った。

「最近、この学校で生徒が突然消える、という現象が起きています。警察の方々にも以前からご協力していただいていたのですが、手掛かりは掴めず、生徒の消失も続いています。これ以上隠しても良くないと判断し皆さんに話しています。皆さん、十分に気を付けて過ごしてください」

 そういえば最近、帰宅前に購買に行く人を度々見る。終業時間から考えて、四時二十分ごろに。思えば、いなくなった生徒は大概何かしらの才能に長けていた。

「まさか……ね……」

 僕はあのガチャガチャのことを思い出さないようにして帰った。


 注)この作品に登場するすべてのものはフィクションです。

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才能ガチャ 冬気 @yukimahumizura

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