第4話 休日

今日は休日なので、神々廻と一緒に買い物に来ている。明後日がバレンタインなのもあってチョコレートが沢山並べられている。


「おい如月。チョコを食ったことがあるか?」


「そりゃ、あるけど…」


「チョコはいいものじゃぞ。甘いものから苦いものまで様々じゃ。まあワシは甘いものしか食わんがな。」


「フッ。まだまだガキだな。確かに甘いのも美味しいけれど、チョコはやっぱりビターだ。あの苦味がたまらない。」


「フン如月よ。大人ぶっても良い事はないぞ?貴様も大人しく自分の好きなチョコを食うが良い。」


「大人ぶってねぇ!!このクソガキが〜!」


またいつもの様にくだらない言い合いをしていると、目線の先に見慣れた後ろ姿があった。


「蒼ー。」


「あ、如月と紅月ベルちゃん。今日は何か買いに来たの?」


「ああ。夕飯を買いに来たんだよ。神々廻が来てから肉の消費量が5倍ぐらいになってるからな…」


「んあ、ワシになにか文句か?」


「あぁ。そうだ。お前肉以外も何か食え!」


「チョコか?」


「そういうことじゃねぇ!!」


「あ!そうだ!2人ともこれから何か予定ある?」


「いや、特にはないけど…」


「じゃあきまり!カラオケに行きましょう!」


「カラオケ…?」



個室のドアを開けると唖然とした。なぜなら部屋の中には蒼だけでなく陽も美月先輩もいたのだから。


「ふふ。如月ちゃんと紅月ちゃん。いらっしゃい」


「これで全員集合だね〜。如月ちゃん、こっち座りなよ〜」


そう言われて私は陽の隣に座った。神々廻は美月先輩の隣に座っている。


「…それにしても久々だ。カラオケ」


「ワシは初めてじゃ。歌なんて家の中で歌うだけで充分じゃからな」


「おかげでこっちは寝不足だよ」


「フン。ワシの歌を聴きながら寝れるなんて最高じゃろ?もっと歌ってやろうか?」


「余計なお世話だ!」


こうなったら家で歌う気力が無くなるまで神々廻を歌わせよう。そう決心しタッチパネルを神々廻に回した。


「なぁ神々廻。私だけ神々廻の曲が聞けるなんて贅沢じゃないか?折角危険地域調査委員会のみんなで集まってるんだ。聞かせてやれよ!」


「ふむ。それもそうじゃな。よし、お前ら!聞くが良い!!ワシの鎮魂歌レクイエムを!」


神々廻は調子に乗って三曲一気に予約した。そしてその三曲は全てアニソンだ。一曲目の前奏が始まり、神々廻がマイクを持って立ち上がる。コイツ、完全に浮かれてやがる。


「ねぇ如月。紅月ちゃんってそんなに歌が上手いの?」


「よく聞いたな蒼。あいつの歌はすごいぞ?よーく聴いて耳に保存しておくんだな!」


前奏が終わり、神々廻が歌い出す。その瞬間私以外の皆は一斉に耳を塞ぎ始めた!そう、何を隠そう神々廻はその気になれば町一つ崩壊できそうなレベルで歌が下手い。私はいつも聴いてるので慣れて…ない。いつ聞いても神々廻の歌声は殺戮兵器レベルだ。


「わ、私ジュース注いでくるよ〜」


「ひ、陽!私もついて行く!!」


「後輩二人にジュースを任せるのは申し訳ないわ。ここは先輩として私が!」


皆が神々廻の歌声を回避するためにジュースを注ぎに行こうとしている。しかしここでジュースを注ぐ権利を他の三人に渡す訳には行かないので、私も必死になってジュースを注ぎに行こうとした。


「いいや!私だ!」


「如月はダメ!紅月ちゃんにタッチパネルを渡した張本人なんだから!」


「そ、そんな…」


なんということだ。確かに他の三人にいつも聴いてる苦しみを味合わせてやろうとしたのは私だ。しかし正直マイク付きで歌うとここまで変わるなんて思ってもなかった。これは私への罰だ。しかしこのまま聴いていると三曲歌い終わる前に私の命が危ない。ここは何としても部屋から脱出しないといけない。


「そ、そうだ!みんなで一個ずつ注ぎに行こうよ〜。そしたらいいでしょ?ね?」


「「「よし!!」」」


ナイス陽。そうだ。皆で注ぎに行けばいいんだ。だって私たちは今までどんな困難も乗り越えてきた仲間なのだから。今この瞬間も蹴落とし合うのではなく、手を取り合うべきなのだ!!


「し、神々廻。お前の分もジュース注いで来てやるよ…」


神々廻が頷く。よし、これでミッションコンプリートだ!



如月がワシの歌を聴きたいと言うから歌ったのは良いが、皆ジュースを注ぎに行ったので誰もいなくなった。まぁ、一人で歌っておけばすぐにくるじゃろ。そう思って二曲目を歌い出した。


前奏が始まり、呼吸を整える。そして歌い出す!


「血の雨〜が〜降り注ぐ〜♪」


よし、スタートはバッチリ…ってちょっと待て。この黄色いバーが正しい音程なのか?だとするとワシ、下手すぎないか?さっきの場面は赤しか無かったぞ?ま、まぁ何かの間違いじゃろう。そろそろ皆ワシの歌を聴きたくなって帰ってくる頃じゃ。そう思い、歌い続けた。



あいつら遅すぎじゃろ。もう二曲目も歌い終わったぞ。そんなに遠くにドリンクバーがあるのか?それともあいつらまさかドリンクバーを知らずに店に飲み物を買いに行ったのか?まぁさすがにないよなぁ…あ、点数が出る。


「ピロピロピロピロ…十点!チーン!」


「ハァ!?おかしいじゃろ!なんでこんなに低いんじゃ!?」


ま、まぁ何かの間違いじゃ。三曲目で挽回しよう。



「ピロピロピロピロ…二点!ガビーン!」


「嘘じゃーーーーー!!」


ワシがこんなに点数を取れないなんて。そして三曲目が終わっても誰も帰ってこない。よし、今のうちに画面を切り替えよう。こんな画面見せたら笑いものじゃ。そう思った瞬間ドアが開いた…


「ただいま〜って、ハハハハ!にっ、二点!?お前下手くそすぎるだろ!!ってやばい!………ふぅ。こぼしそうだった。」


「如月ちゃん笑いすぎよ。でも確かに二点は酷…ぷふっ」


「ぐぬぬぬ…うぅ…うわーん!悪いか!歌が下手くて悪いかー!!」


「わぁ!?来るな!悪かったから!謝るから許してくれぇぇぇぇえ!!」


ワシはワシのことをバカにした如月を気が済むまで追いかけた…



色々あったがもう終盤だ。それぞれ十八番を歌い終わり、最後に皆で歌おうとしている。


「何歌う?みんなが知ってそうなのは…」


そう言って悩んでいると神々廻がポツンを呟いた。


「君が代じゃろ。」


「「「「それだ!!」」」」


そうして私たちは君が代を歌い始めた。マイクは四個しかないので、変わりながら歌う。


「きーみーがーよーはー」


この曲、思ってたより難しいぞ。元の音程低すぎて女性の私達ではどうにも合わない。


「ちーよーにーやーちーよーにー」


私はもう無理だと悟り、マイクを隣にいた陽に渡した。これはもうダメだ、五十点行けば褒めて欲しい。そして私以外の四人が次の場面を歌い出す。


「さーざーれーいーしーのー」


急に音程が合い始める。まさか私そんなに下手かったか!?少しショックだ…っていや。陽以外の三人も驚いた様で空いた口が塞がってない。まさか陽が音程を合わせているのか?


「いーわーおーとーなーりーてー」


ついに陽しか歌わなくなってしまった。そして音程はパーフェクト。こいつ、デキるのか…!?


「こーけーのーむーすーまーでー」


歌が終わった。そして皆、自然と拍手をしていた。『黄龍 陽』。私は彼女を甘く見ていたようだ。彼女が君が代マスターだったなんて思ってもみなかった。これからは師匠と呼ばせてください、陽さん。


「ピロピロピロピロピロピロピロピロ…八十点!これはすごい!」


おいマジか。五十点行けばいいと思っていたが師匠のお陰で高得点を取ってしまった。誇張表現とかじゃないが陽は本気で凄いと思う。


「いやー陽すごいね!この後どうする?」


歌い終わり、腹が減った。ここは夜飯を提案してみよう。


「時間があるなら夜飯を食べに行かないか?」


「いいね!賛成!」


「そうしましょう。どこに行く?」


「焼肉じゃ。焼肉に行くぞ。」


「そういえば行ってる途中に焼肉見かけたよ〜」


「ヨシ!決まりじゃな!行くぞ!!」



「…え?」


焼肉屋に着いてメニュー表を見てると目を疑うものがあった。


「生で食べれる豚肉…?」


怪しすぎる。生で食べれる豚肉なんて聞いたことがない。刺身か?刺身なら有り得るのか…?


「なんじゃこの店。わかっとるじゃないか。よし頼んでみろ!」


〜三分後〜


「お待たせしました。豚の刺身でございます」


運ばれてきたのは綺麗に盛り付けられた豚の刺身。豚刺とでも呼ぼう。豚刺の真っ赤な赤身と白身の対比が意外と美味しそうで、あろう事か食欲が湧いてきてしまった…!恐る恐る一口食べてみる。


「お、美味しい…!」


なんだこれは。白身がバターのように口の中で溶ける。味はこってりしているがしつこくなく、もう一口、二口と箸が進んだ。


「なんじゃ?貴様、あんなにワシのことを偏食偏食って言ってきた癖にすごいペースで食べておるじゃないか。」


「神々廻…すまない。私は豚刺を食べている神々廻に偏食と言ってバカにした…本当に愚かだ…こんなに素晴らしい食べ物があっただなんて…もっと早く気づいていれば…あ、おかわりお願いしまーす!」


焼肉なのに、私と神々廻は肉を焼くことなく終わった。神々廻の場合は焼く前提の肉を食べていたが…気にしちゃダメだ。


「ふぅ。食べすぎちゃったよ〜。」


「またまた。そんなこと言ってあまり食べてないんじゃない?もっと食べないと損だよっ!」


「おい陽。豚刺食べてみろ。本当に美味いぞ。」


「ワシは牛派じゃ!陽、豚より牛を食え!」


「も、もう無理だよ〜!」


「ふふ。もうそろそろ時間よ。明日からまた依頼の続きをしないといけないから、頑張りましょうね。」


「や、やっと三つ目が終わる…!これでしばらく休みだ…!!やったー!!」


「如月はよっぽど休みが好きなんじゃな。あ、ワシ危調がない日は学校行かんからな。よろしく頼むぞ。」


「神々廻、本気か?ちゃんと行かないと単位が取れないぞ。」


「なんじゃ?知らんのか?ウイルス適性がある者はよっぽどの事がない限り退学にはならんぞ?」


「え?マジ?」


「本当よ。凶高校まがつこうこうはウイルス適性がある人は特別待遇されてるから、依頼を休まない限りよっぽどの事がないと留年や退学にはならないわ。」


「マジか…」


初耳だ。これでボッチライフともおさらば…出来るのか!?


「でも如月は無理じゃな。お前は確かクラス委員じゃなかったか?」


「あっ…」


そうだ。クラスの皆が誰もやりたいと言わないからボッチの私がクラス委員に推薦されたのだ。あのクソ共のせいで私は学校を休めなくなった。畜生、絶対に復讐してやる…!


「き、如月ちゃん。怖い顔してるよ〜。」


「復讐してやる…復讐してやる…って、ああ。ごめんごめん!考え事してたんだ。よし、行こうか!」


学校の事はともかく今日は本当に楽しかった。またこのメンバーで一日中何処かへ遊びに行きたいものだ。



皆と別れ、神々廻と二人で家に向かっていた。


「全く。浮かれすぎじゃぞ如月。」


「うるせぇ!お前だって浮かれてるんじゃないか?」


「あぁ、今日は楽しかったからな。如月は楽しかったか?」


「あぁ。すごく楽しかった。また行こうな!」


明後日の依頼はは三つの依頼の内最後の一つだ。蒼、陽、美月先輩、そして神々廻。最高の仲間達と共に頑張ろう。

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