第2話 遠征

 今日も私達『危険地域調査委員会』に調査の依頼が届いていた。


「さぁ、今日も頑張りましょう。今日は依頼が三件も来てるのよ。」


「さ、三件!?」


 耳を疑った。普段なら一週間に一件のペースなのだが、今回は一度に三件も来ているとのことだ。非常にめんどくさい。最悪である。


「美月先輩、今回はどこに行くんですか?」


「ふっふっふ。なんと一件目は長崎県よ!」


「…え?」


 *


 という訳で私如月キサラギは今長崎行きの電車に乗っている。もう軽く一時間は経っているだろう。果たして無事に帰って来ることが出来るのか?どれくらい歩かないと行けないのか?交通費は往復どれくらい掛かるのか?等のマイナスなことばかり考えていると隣に座っていたひなに話しかけられた。


「如月ちゃん、どうしたの?顔色悪いけど…」


「いや、無事に帰れるかなーって思って…」


「ダイジョーブだよ!この四人ならなんでも出来ちゃうんだから!」


 そうだ。美月先輩、蒼、陽、そして私の四人ならきっと大丈夫に違いない。この私が見込んだ最高の仲間たちに、出来ないことなんて何もない!


「あのー…」


 仲間たちの大切さと偉大さを改めて感じていると、いつも元気な蒼が細い声で何か言っていた。


「ちょっと、どうしたんだ?蒼らしくないな。」


「あのー…非常に言いにくいのですが、えーっと…」


 モジモジしている。何かやらかしたのか?でも大丈夫。私はそんな小さなことでは怒らない。なぜなら信頼しているメンバーのミスだからだ。ミスは誰にだってある。だから無闇に責めてはいけない。ここは優しく聞いてあげよう。


「大丈夫。ちょっとの事じゃ怒らないから。」


「博多駅のホームに財布と切符を忘れちゃいました!!」


「アホーーー!!!」


 ごめん、蒼。これは誰だってキレる。ようやく長崎に着きそうだったのに逆戻りだなんて…あまりのショックでつい私は無意識に叫んでしまった。


 *


 かれこれ数時間後、やっと長崎に到着した。博多駅も非常に大きいが、長崎駅も負けないくらい大きい。


「到着!さあ、行くわよ!」


 美月先輩について歩いて数分。長崎駅のすぐ近くに危険地域があった。『立ち入り禁止』と書かれた看板が至る所に置いてある。


「さあ、ここで探すのは『家族写真』と『ネックレス』よ!」


「ネックレス?どんなネックレスですか?」


「ごめんなさい…私もあまり聞いてなくて…」


 おいおい、何やってんだ。これじゃ探しようがない。まあ家族写真から探すか…と思って家に入った瞬間唖然とした。


「何も…ない…!」


 前回の部屋は散らかりすぎてびっくりしたが、今回は真逆である。何も無い。本当に何も無い。空き家か?と思うくらい何も無い。


「依頼された物どころか家具も何も無い…」


「まあ大丈夫でしょ!美月先輩、まずは何をしますか?」


「そうね。まずは二手に別れましょう。」


「あ、私写真探します。」


「如月ちゃんが写真を探すなら私も写真探すー!」


「よし、決まりね。じゃあ蒼ちゃん、私と2人でネックレスを探しましょっか。」


「やった!先輩と二人だ!」


 やれやれ。蒼はどれだけ美月先輩の事が好きなんだ?レズビアンか?まあ、百合なら悪くないだろう。しかし身内に百合カップルがいるのも考えものだな。


「さて、じゃあ捜索開始!」


 *


「なかなか見つからないな…陽、そっちは?」


「全然何も無いよ〜。ホントにあるのかな?」


 わからない。私達は写真のためにありとあらゆる場所を捜索してるのだが、本当に何も見つからない。


「ここにもないか…となると、唯一まだ行ってないのは…」


「「屋根裏ッ!」」


 ハシゴを使って屋根裏部屋に入った。暗くて何も見えないので携帯のライトをつけると、お目当ての写真が置いてあった。


「あ、あった!!それと…」


 なんと百合カップル(仮)が探していたネックレスも屋根裏部屋にあった。写真とネックレスの他にも、家具や布団などが置いてある。


「…なんでこんなに屋根裏だけ生活感が?」


「きっと屋根裏部屋が好きなんだよ〜。」


 そう言って笑っていると何やら物音がした。百合カップルだろうか?


「あ、美月先輩、依頼されてた物見つけましたよ!」


「あ?誰じゃ、貴様らは」


「…え?誰?」


 目の前にいたのは蒼でも美月先輩でもなかった。刺激的なピンク色の髪の毛に、左右で色が違う目。そして変な喋り方。まるでアニメのキャラクターのような女が屋根裏部屋に入ってきた。


「いや、こっちのセリフなんですけど!?」


「あぁん!?人様の部屋に勝手に入ってきて何様じゃ!名を名乗れ!クズ共が。」


「…わ、私は如月。で、こっちの子は陽。あんたは?」


「フン。不法侵入者に名乗る名などないわ。外道が。」


 ああもう。さっきからこのピンク女は一言余計だ。流石にイライラする。


「おいお前。さっきから一言多いだろ。いい加減にしろ!」


 抑えようと思っていたが我慢できなかった。私が殴りかかった瞬間、彼女は私の拳を受け流し、体制が崩れた私を地面に強く押さえつけた。


「ったく、無礼者じゃの。まあ、貴様がやる気なら全力で相手してやるぞ〜?ワシは戦うのが大好きじゃからなぁ!」


 こいつ、できる。自分で言うのも何だが私は運動、というより格闘技が結構得意で、体力測定では常に学年一位を取っていた。そんな私をまるで赤子と遊んでるかのように圧倒するとは、この女只者じゃない。


「もうやめてください!」


 陽が泣きながらピンク女にしがみつく。


「フン。そこまで言われては仕方がない。貴様、いい友を持ったな。こいつに免じて今回は許してやろう。だからとっととここから出ていけ!」


「は、はい!」


 私達はピンク女に従って家を後にした。


「いやぁ、陽のおかげで何とか一命をとりとめた。ありがとう。」


「私は別に何もしてないよぉ〜!」


「それにしてもあのピンク女、何者だ?危険地域にある家に住んでいるなんて…」


「まあ今は気にしなくていいわ。それより、今日はホテルに泊まって、明日福岡に帰りましょ!」


「「「ほ、ホテル!?」」」


 *


「あのー、美月さん。質問があるんですけど…」


「えぇ、何かしら?」


「あのー…なんでここにピンク女がいるんですか!?」


 そう。私達の部屋で何故か先程のピンク女がくつろいでいる。


「うるさいのぅ、下衆。ワシがどこで何しようとワシの勝手じゃろう。」


「勝手じゃねぇわ!!ここは私達『危険地域調査委員会』が泊まってる部屋だよ!!」


「あ、如月ちゃん。この子新しく危険地域調査委員会に入る予定の子よ。」


「…はい?」


自分の耳を疑った。


「ほら、自己紹介して!」


「ワシの名前は神々廻ししば 紅月べる。バベル様と呼ぶのじゃ!」


「黙れピンク。それにしても美月先輩、なんで私達にこの事を事前に教えてくれなかったんですか?」


「ふふ。ちょっとしたサプライズ的なものよ。」


 世界で一番最悪なサプライズだ。どうしてコイツが私達の仲間に…!?


「おい如月。ピンクとはなんじゃ。やるか?あ?」


「やれやれ。これだからアホは疲れる。」


「アホとはなんじゃーーー!!!」


「まぁまぁ二人共。これから仲間なんだから、しっかり仲良くならないと!」


 ダメだ。どう考えてもこのピンクと仲良くなれる気がしない。なんかこう、本能的に無理だ。


「さ、夜ご飯にしましょうか!」


 夕飯は皿うどんだ。実は皿うどんは食べたことがなかったので非常に楽しみである。


「それじゃあ、いただきま…え?」


「なんじゃ?ジロジロ見るな。やるか?」


 ふとピンク女を見ると彼女の前には生の豚肉が置かれてあった。これから焼いて食うのか?と思い見ていると、なんとそのまま食べ始めた…!


「おいおいおいおい!なにやってんの!?」


「んあ?ワシはこれしか食わんぞ。如月も食いたいのか?ほれ、一枚やるぞ?」


「いらねぇよ!食えねぇだろ!?」


「えー、美味しいのに」


「美味しくないだろ!!」


 まぁ、偏食ピンク頭なんか構っていられない。とりあえず一口頂こう。パリパリとした麺を箸で砕き口に放り込んだ。


「お、美味しい…!」


 口の中で硬い麺とアツアツの餡が絡まり合う。麺と餡の相性は最高で、まるで口の中で二重奏デュエットを奏でているかのようだ。


「ふぅ。」


 10分もせずに平らげてしまった。


「よし、おかわりを頼もう。」


「なんじゃ?もう食ってしまったのか?仕方がない。ワシの豚肉をやろう。」


「いらねぇよ!!」


 この偏食ピンク野郎。どうしても生肉を私に食べさせたいらしい。


「ふふ。もう仲良くなったのね。」


「なってません!」

「なっとらん!」


 *


 朝が来た。小鳥のさえずり…ではなく、横で寝ている偏食ピンククソ野郎のイビキで起きた。最悪だ。


「ほら!みんな起きて!帰るわよ!」


「やっと帰れる!」

「美月先輩、帰りましょう!」

「早く家に帰りたいよ〜」

「ウム!早く行くぞ!」


 ちょっと待て。こいつも来るのか?…あぁ、思い出した。こいつは委員会の新しい仲間だった。福岡に帰っても私は生肉を食わされそうになるのか?考えるだけで鬱になりそうだ。


「おい如月。何をモタモタしておる?早く行くぞっ!」


「お前のせいでモタモタしてるんだよ!」


 ピンクと言い合いをしながら歩いているとあっという間に駅に着いた。


「さあ、帰りましょうか!」


 行きの電車で思ったとおり無事に帰ってくることが出来なかった。こんな神々廻おにもつが新しい仲間だと?考えるだけで憂鬱だ。あぁ、今後私の学校生活はどうなってしまうのだろう。そうやって不安を抱えていると隣に座っていた陽に話しかけられた。


「如月ちゃん、どうしたの?顔色悪いけど…」


「いや、無事に帰れなかったなーと思ってさ…」


「ダイジョーブだよ!私が委員会に入った時も上手くいったじゃん!」


 そうだ。陽が仲間になって新しいメンバーでどうなるか不安だったが、結局上手くいったじゃないか。あのピンクだって新しい危険地域調査委員会の仲間なんだから、きっと仲良くなりたいはずだ。よし、そうと決まればフレンドリーに優しく接してあげよう。


「あ、あのー…」


 神々廻を新しい仲間として受け入れようと決心していると、いつも元気な蒼が…っておい待て。デジャブか?行きも同じようなことがあったがまさかな。蒼に限ってそんなミスをする筈がない。


「どうしたんだ?蒼らしくないじゃないか。」


「あのー…非常に申し上げにくいのですが…」


「言ってみい。ワシはちょっとの事じゃ怒らんぞ。」


「神々廻もこういってるんだ。ミスは誰にでもあるんだから、言ってみなよ!」


「切符と財布をまた駅に忘れましたッ!」


「「アホーーーーーーー!!!!」」


 *


 やっとだ。やっと福岡に帰ってきた。本来なら12時に帰ってこれた予定だったが、時計を見ると針はもう3時を刺していた。全く、誰のせいだ?


「さあ、福岡に着いたからここで解散ね!明日もまた頑張りましょう!」


 よし。やっとゆっくり出来る。早く家に帰ろう。そう思いながら電車に乗り、端の席に座った。


「如月、ぐったりしてるね。大丈夫?」


「この2日間色々ありすぎたからね…で、なんで神々廻はついてきてるんだ?」


「バベル様と呼べと言っておるじゃろう。今日から如月の家に居候いそうろうすることにしたのじゃ!」


「えーーーーー!?」


「なんじゃ?そんなに声を大きくして。嬉しいのか?」


「嬉しくねぇよ!?」


 家でもゆっくり出来なくなった私は、これから一体どうすればいいのだろうか?まあそんな事考えても決まったことは決まったことだ。明日も頑張ろう。

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