第2章 Trance- トランス③
「あーもう、暇だぁ~」
家に着いた自分はベッドに寝転がって、独り言を言った。暇じゃねえんだよな、書くことは沢山ある。四月からの就職先は決まっているが、それはあくまで仮の仕事。自分にとっての「本当」の仕事は、小説を書くことだと本気で思っているから。
なにか新しいものが書きたい・・・・面白いネタはないか?
どうして今書いているのに他のものが書きたくなるんだろう?
でも、退屈だから何か面白いものがほしい。
スマートフォンを手に取った。SNSを開く。ネイル、服、美味しそうな料理、面白いペットの動画・・・。いろんな情報が飛び込んでくる。目的もなく、面白いものを探した。ひとつの広告が目に付く。ピンク色の背景にアニメ風のイラスト・・・「恋したい????」
・・・
どういうネーミングセンスだ・・・・・。こんなの見るやつがいるのか?・・・とか思いながら、そのリンクにアクセスする。出会い系か・・・・・。開いてみると、ポップな自体で説明書きがあった。
『このアプリは、バーチャルキャラクターと恋人気分でメッセージを楽しめるアプリです。あなたのセンス次第で相手の反応も変わってきます。さああなたは上手にメッセージできる?まずは好みの子を選んで!』
・・・なんだ?これ。出会い系じゃなくて?
バーチャルキャラクター・・・そういえば、そういうアプリがあるという噂は聞いたことがある。それも、かなりリアルだと。暇つぶしにはちょうどいい。
自分は、さっそくそのアプリをダウンロードした。
『初期設定を行ってください』
画面にはそう表示されていた。
『貴方の名前: ジュン
性別: 男
年齢: 18 』
何も迷うことなくそう打ち込んだ。なんか、間違っているようなこれでいいような。まぁ、ゲームだから・・・。なんでも。
『ジュンくんありがとう。好みの彼女を選んでね!』
画面が変わり、5人の女の子の名前とプロフィールが出てきた。楽しいともつまらないとも思わずに、自分はただ寝転んでスマートフォンの画面を見ている。
『アヤコ 16歳 高校生
ナツキ 27歳 主婦
ミキ 23歳 OL
イチゴ 20歳 学生
リサ 19歳 フリーター 』
・・・イチゴ?
イチゴって、あの赤い苺??
名前だよな・・・。他はみんなありきたりな名前がついているのに。自分は「イチゴ」を選んだ。
・・・何が起こるんだろう。
しばらく待っていたが、何も起こらなかった。アプリ内に操作ボタンなども見つからないし・・・。なんだ?このアプリ。
自分は、ベッドから起き上がると机に向かい、また小説を書き始めた。手で書くのは面倒だ。そうだ、働いて給料もらったら、まず一番にモバイルPCを買おう。
ヴー ・・・・・ ヴー・・・
バイブレーションに設定してある自分のスマホが鳴ったのは、それから2時間くらいたってからのことだ。自分はまだ小説を書いていた。
なんだ?
スマホを手に取る。さっき入れたばかりのアプリの通知だ。ハートを二つ重ねたような形の通知マークが出ている。
アプリを開いた。
「・・・・・・・・・・?」
『ジュンくん、こんにちは。イチゴです。20歳の大学生です。えっと・・・ジュンくんは何やっている人?』
おお!
自分は無意味に喜んでしまった。噂どおりにリアルだ・・・・!画面はメッセージアプリそのもので、可愛らしい絵文字が沢山使われている。高校時代の友達とそっくりだ。
イチゴのアイコンの女の子からメッセージが届いていた。
『はじめまして。イチゴ。俺?俺は小説を書いているんだ』
普通にメッセージを返した。しばらく経つと、返事が返ってきた。
『えー、小説!?スゴイ。ねーねー、聞いてほしいことがあるの。』
可愛い。嬉しい。八割方男だった自分が、十割男になる。楽しい・・・。こう、他人に話題をふっておいてすぐ変えるあたりが、可愛いなと思う。
『なに?聞いてほしいことって。イチゴの話なら喜んで聞くよ。』
『ホント!?ジュンくん、優しいね!あのね・・・・今日学校の帰りに、みんながイチゴのことちらほら見てるのね。それで、どうしたのかな・・・って思っていたら、なんと鞄に穴が空いてたの!通ってきた道にノートとか色々落としちゃって、しかもお弁当箱まで落としてて恥ずかしかった!』
「・・・・・・・・ハハハッ。なんだよこいつ・・・。」
鞄に穴が空いていただって?普通気がつくだろう。しかも、いきなりその話って・・・・。普通は、もっと自己紹介とかそういうのから入るだろう?
面白い。面白いな、イチゴ。気に入った。明るくて、元気で、お茶目で・・・なんとなく、佐知に似ている。こういう娘は大好きだ。
いい。
新しい小説のネタにしよう。ひさしぶりに、楽しくなった。ドキドキして、神経が高ぶった。
イチゴは佐知に似ていて可愛い。たとえそれがゲームのキャラクターでしかないと思っても。男として振舞えることも楽しいし、男として見てもらえるのも嬉しい。たかがゲームで、最初に性別を「男」で登録したから当たり前なのだけれど、奇妙にはしゃいでしまった。まあ、どうせ暇だったからいい。
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