第1章 Syndrome- シンドローム⑥
『ゴメンネ。昨日はもう寝ちゃいました。お友達と一緒だったんじゃしょうがないよね。サッカー部なんだね。男の子同士のそういうのって、なんか憧れちゃうな。ミカはこれから学校に行ってきます。』
朝起きると、いつの間にか来ていたメッセージにそう書かれていた。今度は鳴らなかったみたいだ。受信時間は午前七時ちょうどだった。つうか、夜中に「不安で眠れない」ってメッセージしときながら、今度は「寝ちゃいました」って・・・。本気でむかつく、こいつ。
頭がガンガン痛い。俺は再び布団にもぐりこむ。
「優悟ー、いつまで寝てるの。朝の回診だよ。トイレも行くでしょ?」
五分もしないうちに、美香に起こされた。むかつく。
「なぁ・・・、美香。」
「なに?」
美香が笑顔を向けてきた。美香は看護師だから、これが仕事だからと分かっているけど、それでもいちいちドキリとする俺。
「女の子って、男からメッセージが帰ってこないとそんなに嫌なもの?」
「そうねえ・・・。んー・・・。嫌っていうか、好きな人とかだったら不安にはなるかもね。」
美香からの答えはそうだった。よくわからなかった。
「なんでそんなこと聞くの?」
美香が不思議そうに聞いてくるので、俺は慌てた。
「別に。」
わざとぶっきらぼうに答えた。
ミカは学校に行っているということになっているらしく、昼間はまったく反応がなかった。黒いスマートフォンはいたって静かだった。俺は暇で暇でしょうがなくて、ごろごろ寝たり、じいさんを観察したりしていた。
夕方5時ちょうど。チラッとスマホが光った。ちょうどそれに気づいていた俺は、画面をスワイプする。来たか。
『遅くなっちゃってゴメンネ。今学校から帰るところです。今ね、文化祭の準備でちょっと忙しいんだ。ユウゴくんは文化祭あるの?』
可愛らしい文だった。そのときは、なんとなくそう思った。
『文化祭?そうなんだ、大変だね。うちの学校もあるよ。』
また嘘つきメッセージを返信する。俺は文化祭ってのがどういうものか実は知らない。本などで聞いたことはあるけど、いまひとつ想像がつかないんだ。五時十五分ちょうどにまたメッセージが来た。
『そうなんだ!何やるの?』
短い。ちょっとがっかりした。なんでかは、よく分からない。「何やるの?」か・・・。俺はちょっと考えた。普通に学校に行っていたとしたら、文化祭で何をやりたいか。
・・・思いつかなかった。
『ミカは?なにやんの?』
結局返信はそうなった。次に返ってくるのは五時半か・・・。俺はそう思って、頭の上の掛時計を眺めた。五時二十八分だった。機械でしかないミカも、暇つぶしにはちょうどいい。
ところが、五時半になっても携帯に変化はなかった。五時四十五分。六時になっても、返信は返ってこなかった。ちょっと、むかついた。なんだってんだよ。昨日はあんなにしつこかったくせに。俺はスマホをポンと放り投げてから、すぐに拾って枕の下に隠した。
なんだよ、つまんねー。
所詮、機械だろ?くだらないゲームだろ?それなのに、一瞬そう思ってしまった自分にぞっとした。相手は機械で、人間じゃないってわかっているのに、なんでだ?
ものすごくイライラする。
俺はベッドの上でスマホを開き、アプリの画面をスクロールして、ミカから来たメッセージと自分が送ったメッセージをを読み返すという行動を繰り返していた。
待って、待って、もう諦めかけたそのとき。俺の手の中で、メッセージの受信を知らせる通知が表示された。時計は、夜九時ちょうどだった。
俺は思わず上半身を起こし、慌ててアプリを開いた。
『ごめんなさい。』
え・・・?
いきなりそう書かれていた。
『ミカね、実は女子高で、今まで男の人と話すの怖かったんだ・・・。メッセージアプリなら平気かもって思ったんだけど、でも、やっぱりダメみたい。ユウゴくんと何話したらいいのか、もう分からなくて、会話が続かなくなっちゃった。ごめん。自分勝手だってわかってるけど、もうやめよう。ありがとう、ばいばい。』
・・・はぁ?
意味が分からない。
そのメッセージを読み終えるとすぐに、画面が変わった。真っ黒な画面に、一言こう記されていた・・・。
『GAME OVER』
・・・。「ばいばい」って、そういうこか?俺はミカに返信を送ろうとしたが、「送信できません」というメッセージが出るだけだった。
俺は怒った。なんて自分勝手なんだ!
なんなんだ、このゲームは。知らねーよ、こんな意味不明のアプリ。
でも、不思議と寂しくなった。意味不明。
なんとなく、輝が死んだときのことを思い出した。
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