就任式…

〈ユメノ視点〉








透輝さんの車もおじさんの車によく似た軽自動車で

スーツとのギャップがあるなと驚きながら

どうしてこの車を選んだのか問いかけると

いずれアッチに戻るし

出来るだけ貯えておきたいからと言われ

おじさんもそうだったのかなと考えながら

高速を降りた辺りから道案内をしだしたけれど…






トウキ「・・・君のナビには本当に感謝するよ…」





「・・・似てる道が多くて…」






全然知らない山奥に迷い込み

透輝さんが車のナビを起動させだし

到着予定時間は就任式ギリギリだった…






トウキ「出来る限り急ぐけど…

  式が始まったら行かない方がいいんじゃないかな」






「・・・・式に…参加しなきゃいけないんです…」






おじさんの就任式の日に

私が初めて皆んなの…檀家さん達の前に出て

次期坊守だと挨拶をする日になるから

私にとっても…大事な日だと…

着物を見せてくれた日に

お母さんからそう言われていたから…






トウキ「・・・下手をすれば式を壊しかねないよ?」






「・・・・・・」






何も答えない私に透輝さんは

タメ息を溢しアクセルを踏み込んで

お寺へと急いでくれた…





トウキ「まぁ…そうだよね…うわぁ…」





お寺のだいぶ前から車が連なって停まっていて

細い道だし上まで車で上がるのは難しそうだった






「・・・透輝さん…私ここから走ります」






そう言ってシートベルトを外して

ドアを開けようとすると腕をギュッと掴まれ

「覚悟は出来てるの?」と問いかけられた






トウキ「町の皆んなも…多分蓬莱の両親も

  勝手に出て行ったと思っているし

  急に現れても歓迎なんてきっとされないよ…」





「・・・・分かってます…

  それでも行かなくちゃ…おじさんの所へ」






トウキ「・・・・・・」







掴んでいた手をそっと離し

「なら行っておいで」と言う透輝さんに

「ありがとうございます」とお礼を伝えて

車から降りると長く続く坂道を必死に駆け上がった






( ・・・会いたい… )






アオシ「お前の子供時代はどうだった?」





「んー…普通??」





アオシ「兄貴と喧嘩しなかったのか?」





「喧嘩にならないもん!

 アタシが何かあって泣けば

 大抵お兄ちゃんが叱られてたし!笑」





アオシ「そうやって我が儘になっていったってわけか…」





「お兄ちゃんの物はアタシの物!

 家族の物も…大半はアタシの物かな?

 お父さんのサンダルを履いて怒られた事なんてないよ」





遊園地の中を歩きながら

そう笑って話していると

「お前ん家はいいな…」と

小さく呟いたおじさんの笑顔に言いたい

そんな家庭をアナタと作りたいと…





( ・・・だから…会いたい… )






会って…今度こそ

面と向かって…

おじさんに聞こえる声で

「好き」だと伝えたいから…





( ・・・アナタはきっと… )





「・・・ッ…わたしの……運命の人だからッ…」






えにし線なんてそんなの関係ない…

自分の運命の相手は自分で決めるものだ…






アオシ「結婚考えてた相手を

   今日初めてあった占いババアに

   ちげぇって言われればアッサリと

   別れようとしたり…バカかお前は?」






おじさんから言われた言葉を思い出し

「ふっ…」と笑みを溢してから

石階段を息を切らせながら一歩一歩登って行った






( 本当にバカだ… )






でも…きっとあの占い師の言葉は当たっている…

あの日、バーでおじさんに出逢った日から

私の目には蓬莱蒼紫しか映っていないから…





( 誰よりも…アナタに惹かれているから… )






石階段を登りきると沢山の人が参列していて

静香おばちゃんがコッチを見ると

驚いた顔で隣りのおばさん達に「見て」と騒いでいて

相変わらずだなと思いながら

お寺の真ん中辺りに立っているお父さんに目を向けた





「・・・ハァ……ハァ……」






喉も口も乾き切ってカラカラなのに

私の頬は冷たく濡れていて

自分が今みっともない顔で

ココに立っている事は分かっていた





水戸「きっ…君はッ!」





離れた場所から聞こえてきた声に

顔を向けると麗子さんの家で

おじさんに「残念だよ」と怒っていた

おじさんがあの時よりも怖い顔をして近付いて来た





水戸「いったい何しに来たんだッ

   そんな格好で……

  此処は君の来るべき場所じゃないッ」






「・・・・・・」






坊守ぼうもりに私が向いていない事は分かっている…

今の格好がこの場にふさわしくない事も…



こんな風によく知らない人から

怒鳴られた事もないし…

皆んなの視線にだって耐えられないけれど…





水戸「帰りなさいッ!」






( ・・・逃げたくない… )





この場から…

この恋からは絶対に逃げたくない…






「・・・嫌です…」





水戸「・・・なんだと?」





「帰れません…

 私はこのお寺の坊守見習いです」






足が震えているのが自分でもよく分かったけれど…

不思議と口から出た言葉に

迷いも震えもなかった…





水戸「何を勝手な事を…」





おじさんが私の手を掴んで

階段に連れて行こうとした時に

「水戸さん」とお父さんの声が響き

中央にいるお父さんがコッチを…

私の方を真っ直ぐと見ていた…





「・・・・・・」



 



何も言わずに出て行った事を

謝らなくちゃいけないけれど…

誰よりも先に私が謝らなくちゃいけないのは…

おじさんだ…





「・・・蒼紫さんは?」





お父さんから目を逸らさずに

そう問いかけると

掴まれている腕をグッと引っ張られ

「君には関係のない事だよ」と

麗子さんのお父さんに言われたけれど

お父さんに目を向けたまま

「会わせてください」とお願いした





お父さんは何も答えないまま

ただコッチを見ていて

近づいて来たのは

お父さんの側に立っていたお母さんだった






母「・・・水戸さん…」






そう言って私の腕を掴んでいる

おじさんの手に自分の手を添わせ

腕を離す様に言い

腕にあった鈍い痛みが無くなると

「蒼紫なら奥の間にいますよ」と

私に教えてくれた






母「蒼紫の…次期住職の

  坊守が務まるのはこの子だけでしょう…」






「坊守ッ」と怒る声を遮り

「ありがとうございます」と伝えてから

走っておじさんのいる部屋へと向かった…


 



透輝さんの言った通り…

私はこの式を台無しにしてしまうのかもしれない…




きっと水戸のおじさんは

今もお母さんに何かを言っていて

今までの様にいい檀家さんでは

もういてくれないかもしれないから…





おじさんのいる部屋の扉を開けると

あの日…お母さんが大切に取り出していた

綺麗な袈裟を見に纏ったおじさんが立っていて

私を見て驚いていた…






( ・・・私が必ず守ります… )





坊守として私が…

この人を…支えて最後まで守ります…





それが…

私の事を次期坊守だと言って通してくれた

に出来る最大の恩返しだ…






アオシ「・・・・・・」






目を見開いているおじさんに

「好きなの」といつもの様に袖を掴んで言った…






「おじさんが…大好きなのッ…」





















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