〈ユメノ視点〉









「はい…すみません……はい…

  いえ…今回は…辞退でお願いします」





 

電話を切り終えると

「辞退…でいいの?」と運転している

透輝さんから問いかけられ

「はい」と答えた






「私は…今日からまたあのお寺に帰りますから」





トウキ「・・・はぁ…断られたらどうするの?」





「・・・・・・」






お寺に帰ると話たら

透輝さんは「はっ?」と言って驚いていて…

あの後…婚約者のフリをして

5ヶ月近くおじさんの実家に

住んでいた事などを全部話した…






トウキ「・・・・待ってだいぶ混乱してるよ…

   君は蓬莱の本当の恋人なんかじゃなくて

   偽物の婚約者で、アイツの実家に

   最近まで一緒に住んでたわけ?」





「・・・えぇ…まぁ…」






恋人なんかじゃなくの言葉がグサリとささり

ちょっと悲しくなったけど

間違ってはないし…






トウキ「・・・信じられない…

    あの蓬莱がそんなバカな真似…」






「・・・バカな真似って…」






中々信じない透輝さんに

スマホにあるニーコの動画を見せ

端々に映っているあの古い家や

縁側などを「ほら」と言うと

透輝さんは「凄い古民家だね…」と

スマホを食い入る様に眺めた後

顔をコッチに向け

「本当に住んでたの?」と問いかけてきた






「朝4時に起きてそこの台所で朝食作ってましたよ」





トウキ「・・・蓬莱からすっごい田舎だって聞いたけど」





「・・・・・・」





トウキ「うちと同じ五右衛門風呂だよね?」





「そうです…」





透輝さんは口を小さく開けたまま

しばらく呆けていると

別の動画を再生しだし

「ホントにボロい家だ」と

失礼な事を口にしていて

自分の家だって同じ位田舎だとか言ってた癖にと

ムッとしながらギムレットを飲んでいると…






アオシ「お前は毎日飽きもせず…」






とおじさんの声が聞こえてきて

「えっ?」と透輝さんの腕にあるスマホを覗き込むと

ピーコが来たばかりの時に撮った動画で

中々懐いてくれないピーコに

トウモロコシで餌付けをしているものだった…





「もう!おじさん来ると

  ピーコが私に懐かないんだからアッチに行ってて」






アオシ「俺がいなくても懐いてないだろうが?笑」






久しぶりに聞いたおじさんの声に

止まったばかりの涙がまた流れ出し

顔に手を当てていると





トウキ「・・・住んでたのは間違いないみたいだね」






と言ってスマホを私の前に置き

ほんの少しの沈黙の後

「帰ってどうするの?」と問いかけてきた






「・・・ただ一緒にいたい…それだけです…」





トウキ「・・・さっきの俺の話は…理解できてるよね」





「・・・・はい…」





トウキ「・・・・はぁ…どうやって戻る気なの?」






誕生日の今日…

おじさんの就任式があるから

その前にお寺に戻ると話すと

透輝さんは「就任式」と顎に手を当て呟き

手にあるカクテルを私に差し出してきて

「送ってあげるよ」と言われた…





「・・・飲みかけは…飲めません…」





そう言って

ご自分でどうぞと逃げる様に帰ろうとすると

「ホテルにじゃなくて寺にだよ」と言われ

「え?」と顔を見ると

「朝6時過ぎには出るからこれ以上は飲めない」と

マスターに会計を依頼し出し

「帰るよ」とスタスタとドアへと歩き出した






トウキ「朝の6時30だね…

   6時30にホテルの前に立っててよ」






「・・・・・・」






トウキ「同僚と何かある相手に手を出すつもりも

   連絡先を交換するつもりもないから

   6時半に立ってなかったら

   一人で蓬莱のお祝いに行くよ」






「・・・・・・」






トウキ「一晩よく考えたらいい…

   本当にあの場所に帰るのかどうか」







私の考えは朝になっても変わってなく…

6時20分には下の…

ホテルの前に立って待っていた…















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