〈ユメノ視点〉









トウキ「・・・蒼紫…って…」





「・・・・・・」





やっぱり、おじさんの元同僚の…

お坊さんなんだと分かり

顔をグラスに向けて

スミレの味がするカクテルに口をつけた…





トウキ「・・・えっ?……彼氏の誕生日だよね?」





「・・・・・・」





おじさんは私の彼氏なんかじゃない…

もし、このスーツ男がおじさんに連絡をして

このカクテルでおじさんの誕生日を

一人で勝手にお祝いしていたなんて知られれば

だいぶ恥ずかしいし…

おじさんから見たら気持ち悪い気がした…





トウキ「・・・・あぁ…フラれた?」




「・・・・・・」





スーツ男は私をジロジロと見た後に

何かを考え気まずそうに

そう問いかけてきて…




この五月蝿いスーツ男の言う通り…

アレは…「もう一緒にはいられない」と言われた

あの言葉は…間違いなくフラれたんだと思い

顔を俯けて怖い位に綺麗な紫色のカクテルを眺めた





占「基本…婚姻を結ぶのは赤い糸の方とです」





結婚をしないまま側にはきっといられない…

おじさんの側にいるには

あのお寺の坊守にならなきゃいけないから…




私とおじさんの系は

このカクテルと同じ紫で…

結婚は無い…

つまり…私は…坊守にはなれないから…





占「えにし線は…ある意味呪われた運命線ですから」





( ・・・本当に呪いみたい… )





トウキ「・・・あのさ…

  慰めとか蓬莱アイツのフォローをする訳じゃないけど…」





占い師の言葉を思い出していると

隣りのスーツ男がギムレットと言うカクテルを

一口飲んで「仕方がないんだよ」と言ってきた





「・・・・分かってます…」





おじさんを支える坊守に私はなれない…

いつかお父さんが言っていた様に

私にはその技量はなく

きっと務まらないから…





トウキ「・・・好きだからこそ…連れて行けない」





「・・・・・・」





顔をスーツ男に向けると

「俺もそうだろうからね」と言い…

ニコッと笑っているけど眉は少し下がっていて

その笑顔は寂しそうに見える





トウキ「蓬莱にこんな可愛い彼女がいたなんて

   知らなかったけど…

   別れたのは夏から秋前くらいかな?」





「・・・・はい…」





夏から秋前は…

別れたんじゃなく出会った頃だったけれど

それを言えば話がややこしくなるのが分かり

スーツ男に話を合わせていた





トウキ「いずれは向こうに帰るのは決まっていたけど

   予定よりもだいぶ早まっただろうからな…」





「・・・お父さんの…腰ですよね?」





トウキ「確かそうだった気がするよ…

   だから蓬莱にとっても君との別れは

   予想外に早まっただろうし…

   辛かったと思うよ?」





「・・・・・・」





この人の言う〝別れ〟と

私が思っている〝別れ〟は全く違うけれど

少し前に涙を流して「まだ離れたくない」と

すがった時のおじさんの顔は…

悲しそうに見えた気がした…





( ・・・・・・ )





トウキ「うちの寺もだいぶ田舎にあってね…

   蓬莱の実家と似てる所もあって

   よく…酒飲みながら夢の無い未来の話したよ…」





「・・・え??」





トウキ「蓬莱アイツの実家がどんな所か知ってる?」





知ってるも何も…

私は5ヶ月近くそこに住んでいた…





「・・・田舎の…

  山の上にある小さくて古いお寺ですよね?」





そう答えるとスーツ男は少し驚いた表情をして

「そこまで詳しく話してるの?」と

意外だなと笑いだした





トウキ「君が思っている所よりもっと凄いと思うよ?笑」





何となく

あのお寺を馬鹿にされた気がして

ムッとしながらカクテルをクイッと流し込んだ…





トウキ「それに……多分長くはたないからね…」





「・・・もたない?」





トウキ「お寺って言っても永遠にあるわけじゃないよ

  このバーみたいにお客さんがいて初めてなりたつ」





スーツ男の言うお客さんが

檀家さんと呼ばれる人達の事だと何となく分かり

「檀家さんがいなくなるんですか?」と

問いかけると目をパチパチとさせた後にフッと笑い出した






トウキ「蓬莱は君に色々話してたんだね?

   見た感じ二十歳そこそこに見えるけど…

   アイツ意外とコッチ系なわけか…笑」





「・・・・その意外なコッチ系を

  ナンパしてきたのはお互い様じゃないです?

  それと私は今年25です…」






おじさんの事をロリコン好きと

言っているのが分かりムッとしながら

言い返すと「25歳?」と驚いていた…





お風呂から上がり

明日の準備を済ませてから

早めにベッドへと体を潜り込ませたけれど

おじさんの誕生日をお祝いしたくて

軽くメイクをしてから出てきた今の顔が

いつもよりも幼く見えているのは分かる…





「・・・お坊さんは…

 クラブやラウンジがお好きでしたね…」






コッチにいる時に何度か会ったおじさんは

飲み屋に行く途中だと言っていたり…

飲み屋から出て来た姿だったりで…

お父さんもご接待とやらで泊まってくると

お母さんに聞いていたから

そう言う綺麗なお姉さん達が好きなんだろうと思い

皮肉混じりに口にすると

「えっ!?」と慌てていた…





トウキ「いやいや!誤解があるよ!

  蓬莱も俺もそんな頻繁には行かないから!笑」





「・・・お付き合いですもんね…」





トウキ「・・・・フッ…ふふふ

   君、蓬莱と付き合っていたんだね?」






ちゃんとって何と思い顔を向けると

スーツ男は「あー意外だな」とまだ笑っていて

そんなに私とおじさんじゃ

釣り合わないのかなと思っていると

「だからこそ連れて行けなかったんだよ」と聞こえた








   







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