26日…

〈ユメノ視点〉








担「では鍵のお渡しは

  29日の営業開始時間となりますので」





「はい、色々とありがとうございました」







部屋の契約を終えて

不動産屋から出て行こうとすると

担当についたスタッフのお姉さんが

店頭まで見送りに出て来てくれ

「八重桜様…」と小声で話してきた






担「今お付き合いされている方いませんでしたよね?」






何となく…

このお姉さんが言おうとしている事が分かり

「いませんけど…」と答えながら

自分の眉が困ったと言わんばかりに垂れていく様子が

お姉さんのメガネに反射して見えていた…






担「あの…もしよければウチの田端たばた

  一度お食事とか…どうかなと思いまして…笑」






ヤッパリと思いながら

胸に抱き締めている契約書の封筒を強く握った…




私の担当者は目の前の30代前半のお姉さんで…

来店前に電話をして事前にそうお願いしていた…





「出来れば…女性の方がいいんです」





田端さんは20代半ば過ぎの男性スタッフで

部屋の資料を探して持って来ていたり…

お姉さんの補佐的な業務をしていて

感じのいい人だった…





( ・・・・でも… )





「好きな人がいるんです」と

ハッキリとお断りした…

もう後藤君みたいになるのは嫌だし…



前の様に気もない相手と二人っきりで

食事をするのは自分にも相手にとっても

よくないんじゃないかなと思ったからだ…





誘いに乗って食事に行けば

相手も脈ありだと勘違いしてしまう…






お姉さんに頭を下げて

ホテルへと戻って行きながら

夕飯をどうしようかと悩み

少し先にある安いスーパーまで歩く事にした






( ・・・お湯は部屋で沸かせるし… )





よくわからないメーカーのカップ麺が

88円の特価で段ボールに積まれていたから

それを1個手に取ってレジへと持っていった





レジのお兄さんが袋にカップ麺だけを入れて

差し出して来たから「割り箸もいいですか?」と

お願いするとエッという表情をした後に

「すみません」とボソボソと言いながら

割り箸を入れてくれ…





半年前の自分じゃ考えられないなと

自分でも少し可笑しくなり

「いえ、すみません」と笑って受け取った





割り箸やスプーンをくださいなんて

初めて言ったなと思いながら

ホテルへと帰って行き

買ってきたカップ麺にお湯を注いで

3分待つ間にスケジュール帳へと

引っ越しの件を書き込み

明日の打ち合わせ後に家電品を見に行こうと

ネットで1番安いお店を検索した





「新生活応援フェアか…」






入学、入社のこのシーズン

何処の家電量販店も特価セールをしている様で

思ったよりも安くで揃えられそうだなと思い

時間の経ったカップ麺をズルズルとすすると

味がしっかりとついていて

胃袋もいい感じに膨れる気がする





「結構美味しいのね」





食べた事もないのに

安いラーメンは不味いと勝手に決めつけて

200円を超えるカップラーメンにしか

手をつけていなかった自分に少し後悔をした…






( ・・・食費…30,000円で抑えられるかな… )






家賃はそこそこ安い物件を見つけれたから

日用品や食費を切り詰めれば

なんとか貯金も出来るかなと

春からの事を考えながら「ご馳走様」と言い

ゴミを袋に詰めていると

つけていたテレビからあるファーストフード店の

CMが流れ出し「今だけ500円」と言う

キャッチフレーズに安いかもと思ったけれど…




月曜日から金曜日までの5日間のランチ代を

500円で計算した時に1ヶ月のランチ代が

役11000円位になるなと考え安くない気がした…






( ・・・ピーコのおやつが4袋も買える… )






アオシ「おい…3時だけじゃねぇのか?」





夜、古屋にピーコを入れる時にも

トウモロコシを少し掴んであげていたら

腕を組んだおじさんが目を細めながら問いかけてきて

朝4時過ぎまで閉じ籠めるのが可愛いそうだと言うと

おじさんは「はぁ…」とタメ息を吐いた後に

「ガキも寝る前にオヤツは食わねぇぞ」と

言われた事を思い出しクスリと笑って

ピーコは元気かなと思った





「たまに食べるのはいいけど

 平日は出来るだけ抑えたいなぁ…」





ランチ代が土日も合わせて10000円位ならいいけど

週末や休みの日には麻梨子とかとも遊びたいし

飲みに行ったりすればガッと高くなるだろうしなと考え…





( ・・・・飲みに… )





顔をテレビに戻し

画面右下に映る4桁の数字に目を止めた






「あと4時間ちょっとで31歳か…」






そう口にしてから

バスルームの浴槽にお湯を溜め出し

熱いお湯に体を沈めた…












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