あと3日…

〈ユメノ視点〉










「はい、ありがとうございます

 はい、はい…では4月1日から…はい…3月…」

 






3日前に派遣会社の担当者と一緒に

面接へと行った紹介予定派遣の採用が決まった様で

勤務開始の少し前に制服の配布と一緒に

簡単な打ち合わせに来てほしいと言われたけど…







( ・・・3月…27日… )






指定された日にちは

おじさんの誕生日だった…






派「日曜日なんですけどね…

  年度末だし向こうの担当者の

  時間が取れる日がここだけらしいんですよ…」


  




「・・・そう…なんですね…

  分かりました、大丈夫です」







日時と準備しておく必要書類をメモに書きとり

「失礼します」と電話を切って

黒のボールペンで書かれた日付に

「就任式だ…」と呟いた…






( ・・・・・・ )






参加する訳でもないし

お寺から逃げ出した事になっている私が

顔を出していい場所じゃない…

だから予定を入れたって問題はないけれど…





何となく心のどこかで

この日は空けておかなくちゃいけないと

無意識に思っていたのか

予定が入った事に後ろめたさの様なものを感じていた





「・・・・今日…までだっけ…」





新生活用にと100均で買った

シンプルなスケジュール帳を手に取り

打ち合わせ日と勤務開始日などを

書き込もうと3月のページをめくり

3月24日である今日は

彼岸花ひがんえの最終日なんだよなと思った





( ・・・あと3日… )





あと3日であの袈裟を着て

沢山の人の前で就任式を行うおじさんを想像し

私が作りかけていた足袋はどうなったかなと考え

「お母さんが処分したかな…」と言いながら

ボールペンで予定を記入していく…





( ・・・・・・ )





目にはスケジュール帳にスラスラと

予定を書いている自分の手が映っているのに

頭の中ではお母さん達の事を考えていた…





怒ってるよね…きっと…

何の挨拶も謝罪もなく

勝手に消えた私を良くは思っていないだろうし…





お寺としても条件の良い

坊守候補であった麗子さんとの縁談はなくなり

私があのお寺にいた事によって

マイナスばかりだった筈だ…






部屋の角に置かれている段ボールへと顔を向け

早く新しい部屋を見つけて…

早く…あの段ボールを捨てなきゃと思った…






17日の早い時間にはホテルに荷物が届き

ガムテープを剥がして蓋を開けると

あの懐かしい香りが鼻をかすめ

胸の奥が苦しくなった…





あの時はまだ

たった数日しか経っていなかったのに

段ボールの中から香るお線香の匂いが

無性に懐かしくなり

中から一着の服を取り出し

しばらく顔を埋めていた…





おじさんが私に嘘をついて

荷造りをしていたバックの中にも…

届いた段ボールの中にも…

私の私物以外は何も入っていなく…

何か特別な物はないのかと

中身を全部取り出してみた




だけど…

おじさんからの特別な何かは入ってなくて…

本当にあの日、ドアから出て行った日に

私とおじさんの関係は全て終わったんだと

改めて理解した…






「頑張れよ位メモをくれたっていいじゃない…」






そう口にしながらも

二度会う事のない私に

そんなメモを入れる必要もないよねと

自分でもよく分かっていて…




目線を手元のスケジュール帳へと戻し

仕事も見つかったし明日には

部屋を探しに行こうと思いながら

25日の枠に不動産屋と書き込んだ






















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