〈アオシ視点〉








いつからか…

自分でもハッキリとは分からないが

俺は夢乃に惹かれていた…





出会ったあの日の様に

夢乃は直ぐに不貞腐れて眉を釣り上げて怒り

馬鹿みたいな所でモジモジと照れ…

辛い事があるとガキみてぇに人前でも涙を流し…






「美味しい?ネッ!美味しい??

 まずね小豆を水につけてね…笑」






ワザワザおはぎの作り方を

隣りで一から説明しだす夢乃に

「知ってる」とは言えず

煎れ直したお茶を飲みながら

「それでね」と笑って話す夢乃の顔を眺めていた…






( 俺は…夢乃の笑った顔が好きなんだろう… ) 







コイツの泣き顔は…

鶏が死んだあの日以来苦手で

もう二度とあんな顔は

見たくねぇと思っていたが…






「・・・帰るって……アタシは?」






俺の腕を掴んでいる夢乃の手は小さく震えていて

下がった眉の下にある目からは

ジワリと涙が滲み出していた…





アオシ「・・・・・・」





「ねぇ…おじさん…」






アオシ「・・・お前があそこに戻る事はもう二度と無い」






腕を掴む手の力が強くなり

「なんでッ」と俺の腕を揺すりながら

問いかけてくる夢乃の目からは

涙が溢れだしていて

ヤッパリ夢乃こいつの泣き顔は苦手だなと思った






「まだッ……まだあと…10日あるじゃなッ…」






アオシ「・・・・・・」






「・・・ッ…」







何も答えない俺が

本気なんだと分かった夢乃は

俺の腕をパッと離し

「一緒に帰る」と言って

荷物の詰まったバッグを手に取りだした






アオシ「お前は連れて帰れない」






「・・・ッ…なんでッ…

  勝手に全部決めるのよ!」







床に尻つけて俺の持って来たバックを

手で手繰り寄せると胸に抱きしめながら

「一緒に連れて帰ってよ」と泣いている夢乃に

小さく息を零し「お前の荷物だ」と伝えた






「・・・・私の…荷物?」





アオシ「・・・・・・」






夢乃は戸惑いながらバックの中を覗き

俯いている肩はまた小さく揺れだした…






アオシ「残りの分は明日段ボールに入れて

   ここのホテルに送る手配をする」






「・・・ウソつきッ!」






アオシ「・・・・・・」






俺が言った袈裟や草履は入ってなく

夢乃の部屋に広げてあった美容品と

数日分の服を入れてあるバックを

手でバシバシと叩き

「ウソつき…」と涙を流しながら

俺に怒っていた…






「全部…ッ…

 最初からそのつもりだったのッ!?

 最初から……だから…さそッ…たの?」






アオシ「・・・あぁ…そうだ」






俺を見上げている夢乃の唇は小さく震えていて

「ヤダ…」と言いながら首を横に振り

俺に手を伸ばしてきた






「・・・もう…しないカラ…」





アオシ「・・・・・・」





「カッテに…ッ…キスしないからッ…」





アオシ「・・・・・・」





「ヨルも……ひ…とりで寝る…カラッ…」







膝を曲げて夢乃と同じ目線の高さに合わせると

「まだヤダ」と言って俺の首に腕を回して

縋るように抱きついてきた






「まだ…一緒にいるのッ…

 マダッ……おじさんとイッショにッ…いたぃ」






夢乃の背に腕を回し

一緒にはいれない」と呟いた…






俺の胸で首を横に振りながら

「もうしないから」と何度も言う夢乃に

目を閉じた…





自分が夢乃に抱いている想いは分かっているし

夢乃が俺をどう見ているのも気付いている…




夢乃も俺の気持ちに気付いてるからこそ

何度もキスをしようとしてきたり

夜も俺の部屋で眠りだしたんだろう…






「ちゃんと…はなれるから…」





アオシ「・・・夢乃…」





「おじさんのッ…就任式の日には…

  チャントッ…はなれ……からッ…」






ヒクヒクと肩を揺らして泣く

夢乃の背中を撫でながら

急に夢乃が寺から居なくなったら

オヤジやお袋が驚くと説明をした…




普段ニコニコと笑って

鶏と庭で遊んでるコイツが

就任式の前夜に急に姿を消す方が不自然だ…






アオシ「だから…この旅行中に喧嘩して

   寺から出たがっているお前を

   置いてきた事にした方がいい…」






「・・ツッ…酷いよ…

  アタシ…出たがって……ないよ…」







夢乃から見れば酷い理由だろうが…

コレが1番しっくりときて

誰もが納得するだろう…






( ・・・そもそも最初はその予定だった… )






寺にも町にも馴染まない夢乃が

あの家から急に消えても

皆んな…大して驚かないだろうと思っていた






「アタシ…皆んなにッ…

  チャント…お別れも言ってないのに…」






アオシ「・・・・・・」






「ピーコにも…ニーコにもッ…

 おかあ…さんにもユキチャンにも…

 お土産……カッテ…クルッてヤクソッ…したのに」





( ・・・・・・ )





俺の予想とはだいぶ違い…

オヤジやお袋は夢乃を〝嫁〟として扱い

夢乃も…泣き言ばかり

言っていたのは最初だけで…

寺にいるのが当たり前になっていた…






アオシ「一晩寝れば涙は止まるし

   数日経てば寂しさも消えて行く…

   数ヶ月経てば…

   アソコでの生活もただの思い出になる」






「・・・・ヤダよッ…」






アオシ「うちのせんべい布団よりも 

   寝心地はいいと思うぞ?笑」






抱きつく腕を強め

離れようとしない夢乃に

「悪かった」と言うと

夢乃は息を乱しながら「酷いよッ」と言って

首元にある手で俺の背中を叩いている…






「こん…なッ…

 こんなサプライズッ…ひど…いよッ…」






アオシ「あぁ…全部俺が悪かった…」







こんな風に泣かせる位ならあの日…

キスを受け入れるべきじゃなかったと後悔していた…







アオシ「あんな所に騙して連れて行った俺が悪い…

   だから、お前はお前の日常せかいに戻れ」







( あそこにお前の幸せは無い… )




   














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る