〈ユメノ視点〉










アオシ「もう一杯飲むか?」





「んー…大丈夫…」






バーに入って2時間近く経っていて

22時を過ぎた今…

いつもなら寝始める時間だ…






( 明日は朝5時位には帰る筈だし… )






いつまでもおじさんに

アルコールは飲ませられないし…

そろそろホテルに行って二人っきりになりたかった…




 


アオシ「・・・じゃあ…帰るか…」






そう言ってマスターにお会計を頼む

おじさんの声や仕草にもドキドキしてしまい

繋いでいる手が汗でベタベタとしていないか

不安になってきた…





「ご馳走様でした」とマスターに

頭を下げるとニコニコと笑って

「また二人でおいで」と言われ

私もおじさんも何も答えずに

笑ってお店から出て行った…





〝また〟も〝二人〟も…

私たちには無いから…




おじさんとこんな風にデートをするのは

今日が最後だし

一緒に居られるのも後10日位だ…






「・・・・お母さん達…もう寝たかな?」





アオシ「明日もはぇから寝たかもな」





「ピーコも泣いてないかな?」





アオシ「アイツは前の奴よりも逞しいからな…笑」







お母さん達の事を考えると

今回のお泊まりで沢山迷惑をかけてしまったなと

少し申し訳なくなる…





ゆっくりとした速度で歩いていると

10分もしない場所で足を止め

直ぐ目の前にある建物は

コッチに住んでいる時に

何度も目にした事のあるビジネスホテルだった






( 昔の私だったら… )





「初めてのお泊まりが

 ビジネスホテルなんてイヤ!

 ってゆーか、初めてじゃなくても無理!!」






なんて事を言っていんだろうなと思い

そんな我が儘な自分に小さく笑っていると

「このホテルは気に入ったか?」と

おじさんも笑いながら聞いてきた






不思議とこのホテルに連れて来られた事に

驚いてはいなかった





この辺りはオフィスビルも多く

線路向こうには大手企業の工場も数件あり

オシャレなホテルではなく

ビジネスホテル風の建物しか見たことが無かったから





「明日寝坊しない様にしなきゃね?笑」





そう言って繋いでる手を小さく振って

早く入ろうと促すと

おじさんは顔を上げて

大して星も見えない夜空を見上げている






「・・・おあっちの方が良く見えるでしょ?」






街明かりも工場などの排気ガスも無い

あの田舎町で見る星空の方が綺麗なのにと

不思議に思い問いかけると

「そうだな」と言って

顔をホテルへと戻し私の手を引いて

入り口へと足を進め出した





( ・・・迷ってるのかな… )





おじさんは最初部屋を別にすると言っていたし

私と…そうなる事を迷っているなかと思い

何も話さないまま

エレベーターのボタンを押すおじさんに不安を感じ

「此処ならいいんでしょ?」と

繋いだ手にぎゅッと力を入れた






「・・・お寺でもないし…」





アオシ「・・・・・・」





「観覧車でも……我慢…したよ?」





アオシ「・・・そうだったな…笑」






おじさんは顔をエレベーターのドアに向けたまま

そう小さく笑っていて…




目的の階に到着したエレベーターは

ガコンと小さく揺れて目の前のドアはゆっくりと開き

おじさんは「行くぞ」と言うと

私の手を引いたまま通路を歩いて行き

鍵をコートから取り出すとガチャっと部屋の扉を開けた






アオシ「禁煙室にしといたから安心しろ」





「一本位なら許してあげるのに…笑」






タバコの臭いは嫌いだけど

おじさんとの初めてのキスは

苦いタバコの味がしていて…




( ・・ちょっとだけ甘い記憶だから… )





お寺では吸えない分

一本位なら臭いを我慢してもいいと思い

笑いながら部屋の中に入って行くと

私とおじさんの大きめな荷物があり…





「・・・・シングル?」





狭い通路を真っ直ぐと進むと

白いベッドシーツのかかったベッドが見え

二人部屋にしてはサイズが小さい事に気がした…






「・・・・部屋…2つとったの?」






最初言っていた通り

別々に部屋を取ったのかと思い

後ろにいるおじさんにそう問いかけると

「部屋は1つだけだ」と

ドアの前に立ったままコッチを見ていて





おじさんの言葉にホッとしながら

シングル一部屋しか空きがなかったのかなと思い

「いつもの布団よりかは広いしね」と言って

お泊まりグッズを沢山詰め込んだバックを手に取り

「どっちからシャワー浴びる?」と問いかけたけど

おじさんは何も答えないし

コッチに来ようともせず…

不思議に思って「おじさん?」と顔を向けると…






「・・・・・・」





アオシ「・・・・・・」





「・・・明日…何時に出発するの?」






何となくおじさんの雰囲気がおかしい事に気付き

不安になってそう問いかけると

おじさんは私の目を見たまま

「此処に泊まるのはお前だけだ」と言い…

「おじさんは何処に泊まるの?」と

少し震えた声で再度問いかけた…






アオシ「・・・・・・」






おじさんはゆっくりとコッチに歩いて来て

荷物のチャックを開けると

よく銀行とかで見る小さな封筒を取り出して

「約束の物だ」と私に差し出してきた






「・・・・へっ…」






アオシ「俺はこのまま寺に帰る」





「・・・・・・」





アオシ「帰るのは俺だけだ…」














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る