〈ユメノ視点〉












おじさんに何が食べたいと聞かれ

夜はまだ肌寒いし

お鍋がいいと答えると

前回の様に個室のいいお店に連れて行ってくれた





「あぁー満腹、満腹!笑」





お腹を摩りながら

美味しかったとおじさんにお礼を伝えると

「ずっと質素な飯で我慢させてたからな」と言われ

「質素で悪かったわね」と繋いでる手を

バシッとおじさんに当てて文句を言った






「作ってるのは私なんだけど…」





アオシ「そうだったな…笑」







おじさんはバー近くのホテルを予約している様で

食事中はアルコールを飲まずに

今からホテルまで運転をしなくちゃいけない…






アオシ「荷物は先に預けるから

   持って歩く物だけ取れ」





「あッ!!」





アオシ「・・・なんだ?」






バーに行く様の少しオシャレで…

大人っぽいワンピースを別に

持って来ていた事を思い出し

「部屋で着替えちゃダメ?」と尋ねると

「わざわざ着替えんのか?」と

呆れた顔をされ…






「・・・お昼のは…遊園地用のスカートだったし…」






夜は夜で…

少し特別な格好でデートをしたかった…






アオシ「・・・そこのコンビニのトイレで着替えるか?」






顔を上げると目の前に

よく知るコンビニが見え

「5分で戻るから」と言って

荷物を持ってお店に入ると

真っ直ぐとトイレへと向かった





「昔だったらトイレで着替えなんて嫌だったけど…」






少し広めのトイレには

ストッキング履き替え用の板も

置かれていて「助かる」と言いながら

少しデニールの薄い黒のタイツへと履き替えた






「・・・下着は…シャワー浴びるよね?」






少し悩んだけれど…

今付けているフリルの下着でも

問題ないかなと思い

もしもの時はシャワー後に別のに着替えようと考え

用意してきていたワンピースに袖を通した






( ・・・大丈夫かな? )






コンビニのトイレの鏡は大きく

全身を映しながら細かくチェックしていき

メイクの手直しをして

「よしッ!」と鏡の中の自分に向かって言うと

荷物を持ってトイレから出て行き

おじさんの待つパーキングへと向かった






アオシ「お前の5分は15分だな…」





「・・・いちいち測ってたの…」






朝言われた言葉をそっくり返してあげると

「はっ…」と首を横に振って笑い出し

ホテルへと向かった





何処のホテルなんだろうと思いながら

走る道を眺めていると

懐かしい脇道に入り

数ヶ月ぶりに見る看板が目に入った






アオシ「車預けて直ぐに来るから

   先に入って待ってろ」





「一緒に行く…」






おじさんは私の足元に目を向け

さっき履き替えた

高めのヒールを見ながら

「大人しく待っていろ」と言って

角に車を停めると

シートベルトを外しだし

どうするのかと見ていると

車を降りたおじさんは

お店のドアを開けて誰かと話した後に

コッチへと戻って来て「降りろ」と

助手席のドアを開けている…






「・・・・・・」






アオシ「・・・着いて来たら

   サプライズも何もねぇだろうが…」






おじさんの言葉に「へ?」と顔を上げて

「サプライズ?」と問いかけると

「お久しぶりですね」と

お店から出てきたマスターが近づいてきた






アオシ「10分もしないで戻る」





「・・・30分にならない?」





アオシ「・・・・とっとと降りろ」






マスターの前で子供みたいに

ダダをこねるわけにもいかないし…

仕方なくシートベルトを外して車から降りると

「適当に相手してやっててくれ」と

マスターに話すおじさんに

「適当って…」と唇が尖っていく…





おじさんは車に乗ると

直ぐに車を発進させて見えなくなり

「ハザードくらいつけなさいよ」と

あっさり居なくなった事にむくれていると

隣りからクスクスと笑うマスターの声が聞こえ

慌てて突き出た唇を元に戻した





マ「さっ!寒いから中で待ってましょ?笑」





マスターと一緒にお店に入ると

半年前と全く変わらない店内に

「懐かしいなぁ…」と呟いた






マ「何か飲んで待ってるかい?」





「・・・んー…戻って来るまで待ちます」





マ「了解!笑

  いやぁ…ビックリな組み合わせで驚いたよ」






マスターは私がおじさんの婚約者のフリをして

離れた山奥のお寺に住んでいるなんて知らない様で

「蒼紫さんとは遠距離なの?」と笑っている





マ「それにしてもねぇ…」





マスターは何かを思い出したのか

急にフッと吹き出し

「あのカクテル覚えてるかい?」と問いかけてきた






「カクテル??」





マ「パルフェタムールだよ

  蒼紫さんが君に送ったカクテル」





アレにはあまりいい思い出はなく

「あぁ…」と顔を俯かせると

「あの蒼紫さんがまさかだったからね」と

楽しそうに話すマスターに

「揶揄われただけですから…」と

揶揄ったおじさんとそれを手助けした

目の前にいるマスターを見ながら言うと

「あれはね…」と今度は苦笑いを浮かべ出した





マ「あの日は蒼紫さん早い時間から来てて

  一人で何かを考えながらずっと飲んでてね…

  僕もそっとしていたんだけど

  時折り小さく笑ってて

  何かと思ったら君の楽しい話を

  盗み聞きしてたみたいだね?笑」





「聞き流して欲しかったですよ…」





あの日聞かれていた話は

決していい話なんかじゃないし

ハッキリ言って忘れてて欲しかった…





アオシ「マスター…

  カクテルをあの五月蝿い席のガキに頼んでいいか?」





マ「えっ?カクテルですか?」





アオシ「・・・ふっ… パルフェタムールを一つ頼む」






マスターはチョコレートの乗ったお皿を

差し出しながらあの日の事を教えてくれて

「楽しませてくれたお礼だったんじゃないのかな」と

顔を少し傾けて笑っている…





きっとマスターの優しい解釈も入っているんだろうけど

あの日、おじさんがあのカクテルを送ってくれなければ

私とおじさんは話す事もなかった筈だと思い

お店のドアを開けて入って来たおじさんに

「遅い!」と文句を言いながら

隣りに座ったおじさんの手を

カウンターの下でギュッと握りしめた






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