前夜…

〈ユメノ視点〉








「・・・ピンクがいいけど…」






下着の入ったケースを眺めながら

唸り出してもう直ぐ1時間近くになる…






「・・・でも…

 おじさん大人な雰囲気の方が好きかな…」






コッチに来てから

可愛いランジェリーショップも無いし

特別…新しい下着を買う必要もなかったから

ケースの中はお古の下着しかない…






( ・・可愛くて新しい下着が良かった… )






どれにしようかと下着を

手に取っては置いてを繰り返しながら

明日のお泊まりで特別な事が起きるのを期待していて…




2週間後には

サヨナラをしなくちゃいけないと分かっていても

おじさんとそうなる事を望んでいた…






「・・・一度だけでも…いいもん…」






おじさんに抱きしめられて

ただ…あの腕の中で甘やかされたい…







レイコ「それとも酔った蒼君を…ッ…

   ホテルか何処かに連れて行ったのッ!?」






( ・・・・・・ )






ふと…麗子さんの言葉を思い出し

手にある下着をパサッとケースに置いて

あながち間違ってないなと思った…




泊まりたいが為に

バーに行きたいとおじさんにねだり

お酒と甘い雰囲気に酔ってと

期待しながら下着を選んでいる自分は

麗子さんが言った通りの女なのかもしれない…






「・・・思い出がほしい…」






おじさんとの

特別な思い出が欲しかった…





おじさんと麗子さんの糸は赤の様な気がしていた…

私がどんなに望んでもなれない

運命線の…赤い糸…





( ・・・また…お見合いするのかな… )






私が此処から居なくなれば

糸に引かれてお見合いをするのかなと思うと

気分も肩も下がっていく…






「・・・幼なじみだし…」






ドラマや少女漫画とか…

少年漫画の世界でも

男女の幼なじみって少し特別な感じがあり

あの二人もそうなのかなと思った…






「・・・・・・」






シンッとした部屋で

「はぁ…」と息を溢しながら

考えても落ち込んでも

私が此処を出て行く事は変わらないし

私達に運命の赤い糸はない…






「遊園地ならパンツかな…

 でも、バーではこのワンピースが着たいし…」






下着も気になるけど

洋服も中々決まらず

布団の上に並べていると

「夢乃」とおじさんの声が聞こえ

「へ?」と顔を襖に向けると

ガラッと開いた襖からおじさんの顔が見えた…






アオシ「・・・・・・・」






「ちッ…違うからッ…」






服と一緒に布団の上に並べられている

下着達を両手で集めて体で覆い隠した…





( ご丁寧に上下並べてたし… 最悪だよ… )






誰が見たって

明日のデートに浮かれきって

洋服と勝負下着を選んでいたのは

丸わかりの筈だ…






アオシ「・・・・・・」






何も言わないおじさんに

余計に恥ずかしさを感じ

目をギュッと瞑っていると

「夢乃」と声をかけながら

隣に腰を降ろして来たのが分かった





「・・・・・・」





ゆっくりと顔をおじさんに向けると

立てた膝に片肘をつき頬杖をついて

コッチを見ている…





「・・・・・・」





アオシ「・・・明日…楽しみか?」





「まぁ…それなりに…」






「うん」と可愛く頷けない自分に

「バカ!」と心の中でお説教をしていると

「スカートにしろ」とボソリと呟く声が聞こえた







「・・・えっ…」






アオシ「明日8時過ぎには出るぞ」







おじさんはスッと立ち上がると

部屋から出て行こうとし

おじさんが明日のデートに

パンツではなくスカートを履けと

行ったのが分かり

「おじさん」と呼び止めた






「・・・部屋…

  一緒でも大丈夫だから…」






アオシ「・・・・・・」






顔をコッチに向けている

おじさんの目は

怒った様子も呆れた感じもなく

ジッとコッチを見ていて

その視線に身体がキュッとなる感覚がした…







「・・・2部屋だと

  ほら…高くなっちゃうし…」






アオシ「・・・・・・」







天邪鬼で可愛くない

アタシにしてはだいぶ頑張った方だ…



この言葉の意味が分からないほど

おじさんは鈍感じゃないし…






( ・・・分かったはずだ… )






アオシ「・・・・早く寝ろ…」






そう言うとパタンと襖が閉まり

自分の体から緊張が解けていくのが分かった




「はぁ…」と長いタメ息を溢しながら

洋服と下着の山に顔を埋めて

「あと24時間か…」と

明日の夜を思いニヤニヤと頬を緩ませた…













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