お泊まり…

〈ユメノ視点〉









「・・・・んっ!?」





居間のテーブルで

ミシンをカタカタと動かしていると

ピーコの鳴き声が聞こえ

ハッとして窓を開けたままの縁側に駆け寄ると

バサバサと羽を広げて

ピーコの頭上を飛んでいる蝶々に反応していた






「なんだ蝶か…笑」






お父さんが敷地周りに

ネットを張ってくれたけど…






( ・・・もうあんな思いはヤダ… )






ニーコが眠る場所には

いつの間にか草が生え出していて

あの日、おじさんがお経を読んでくれた頃とは

変わって見える…







「春にはお花も咲くかもね?笑」






時計に目を向けて

もうすぐピーコのオヤツの時間になるなと思い

台所の方と行きトウモロコシを手に掴んで

庭先に出て行くとピーコが駆け寄ってきた





「ふふ…いい子に遊んでた?」






私の言葉にはちっとも反応せず

トウモロコシをつつくピーコに

「ニーコがいたらきっとお説教されてたわよ」と

笑いながら言い

「大きくなったよね」とピーコの体を眺めた





もう直ぐ5ヶ月になるピーコは

おじさんが籠に入れて

連れ帰ったあの頃よりも大きくなり

ニーコと変わらない大きさになってきた






「よく食べるから成長も早いわね」






私が居なくなっても

食事を摂らなくなるなんて事は

なさそうだなと思い

「おじさんはずっと此処にいるから」と

ピーコの背中を軽く撫でながら呟いた





トンビの鳴き声が小さく聞こえ

顔を空に向けると

一匹のトンビがゆっくりと

円を描く様に飛んでいて

こんな風景を眺めるのも

あと2週間で終わりなんだなと思った…






「・・・あっという間の5ヶ月だったな… 」







最初はこの古い家にも…

お父さんやお母さんとも馴染めなくて

朝も布団から起きるのが嫌だった…





( ・・・おじさんは意地悪だったし… )






全然優しくないし

甘やかしてくれないおじさんに

怒ったりもしたけど

最近は…






「・・・お泊まり…笑」






だらしなくニヤけているであろう顔を

ピーコに向けて

「ねっ!お泊まりだって!」と話しかけた






3月に入ってから

夜は目覚まし時計と枕を持って

おじさんの部屋に行く様になり

「自分の部屋で寝ろ」と

目を細めて睨むおじさんを無視して

お経を読んでいる

おじさんの後ろで眠りについていた





残り少ない時間は

出来る限りおじさんの側にいたくて…






アオシ「14日、出掛けるぞ」






いつもの様に

先に目覚めて袈裟に着替え終えた

おじさんに起こされて

「あと5分」と布団から出ないでいると

上から降ってきた言葉に

「えっ?」と驚いた







「・・・・一緒に?」






アオシ「泊まりになるかもしれねぇから

    着替えとか一応準備しておけ」







おじさんの言葉にバッと体を起こして

コッチを見下ろしてる顔を見上げながら

「とっ…泊まり?」と聞くと

「部屋は別々だから安心しろ」と言われ

本当に出掛けるんだと思い

布団から出て「何処に行くの?」と

おじさんの腕を揺すりながら聞いた






アオシ「・・・何処に行きてぇんだ?」





「・・・・・・」






おじさんの言う14日はホワイトデーで…

この前のバレンタインの…

おはぎのお返しなんだと分かった






「あのね!ずは遊園地に行って

  一緒に歩いて、ご飯食べて…

  あっ!またバーで並んでお酒が飲みたいッ!」






アオシ「・・・1日ガッツリだな…」







バーでお酒を飲んだら

おじさんは運転出来ないし

自動的に泊まる事になる…







( ・・・出来れば長く一緒にいたい… )






おじさんはいつも通りのタメ息を吐いて

部屋から出て行ったけど

ダメだとは言わなかったから

きっと、私の希望は叶えてくれる筈だ…






「ふふ…お土産買ってくるねぇ」






ピーコを両手で抱き上げて

鼻歌を歌いながら

数日後のおじさんとのデートに浮かれていた








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