本当の…

〈ミツタロウ視点〉








父「おい!ボサっとすんなよ?」






店の窓に顔を向けていると

米袋を抱えた父ちゃんが

「誰を探してんだ」と眉を片方釣り上げていた






ミツタロウ「いや…別に誰ってわけじゃ…」






そう言いながら

配達用の米の伝票を取り出そうとすると

「蒼紫の新妻じゃねぇか」と

さっきまでの声色とは違った

父ちゃんの声が聞こえ

パッと顔を上げるとスマホを見ながら

歩いている夢乃ちゃんの姿があった






ミツタロウ「あっ…」






俺は夢乃ちゃんを見て

手にしていた伝票を放り投げて

「夢乃ちゃんッ」と声をかけると

足を止めて振り返った表情はいつもと変わらず

「あっ!満太朗さん」と笑っている…






( ・・・・・・ )






眉を下げたり…

会いたくなかったと言う様な

表情をされるんじゃないかと思っていたから

夢乃ちゃんの笑顔を見てホッとしながら

近づいて行き昨日の事を謝った






「・・・・カクテルを…

  紫色の…綺麗なカクテルをご馳走してくれて」






( ・・・正直…嘘だと思った… )






あの場にいた全員が嘘だと…

夢乃ちゃんが麗子に対してはった見栄だと…

皆んなも俺も…そう思った…






麗子が言った通り

蒼紫はそんな事をしない…

そんな事をする様な奴じゃない…





ガキの頃から

ずっと一緒だった俺らだからこそ…

そう思った…






ミツタロウ「・・・ホント…ごめんな…」






麗子が夢乃ちゃんに発した言葉を謝ると

夢乃ちゃんは「あー…」と

困った様な笑みを浮かべて

顔を足元へと下げて行った






( ・・・傷ついたよな… )






レイコ「それとも酔った蒼君を…ッ…

   ホテルか何処かに連れて行ったのッ!?」






夢乃ちゃんの手が

膝の上でギュッと握られていたのに

俺は何も言えず…




その前も…

話し合いの間中

気まずい中ずっと笑って座っていた事に

気付いていても「ジュース飲む?」

なんて事しか言ってやれなかった…





( ・・蒼紫が現れなかったら… )






「・・・しょうがないですよ…

   急に現れて…婚約者なんて言っても…」






自分の髪に手を当てて

くるくると指に絡めながら

「ねぇ…」と眉を下げて笑う表情に

7つも年下の夢乃ちゃんになんて思いをさせてんだと

自分を含めた昨日の7人に呆れた…






ミツタロウ「・・・蒼紫が夢乃ちゃんに

   プレゼントしたカクテルの意味知ってる?」






夢乃ちゃんは「えっ?」と

顔を上げて俺に一度目を合わせると

何かを思い出す様な表情をし

「確か…」とあのカクテルの意味を口にした…






( ・・・やっぱりな… )






俺は蒼紫が夢乃ちゃんを連れて帰った後に

「ごめんね」と夢乃ちゃんと蒼紫に謝ろうと

二人の後を追って行き

駐車場のある角を曲がって

直ぐに足を止めた…





消えかかる灯の下で

顔を寄せ合っている二人を見て

変な感じだった…





餅付きの時といい…

蒼紫が夢乃ちゃんに対して

特別な感情を持っている様にはずっと見えなかったし

バレンタインは初めてだと

言っていた夢乃ちゃんの言葉とは反対に

蒼紫は2年前の秋過ぎには

もう付き合っていたと話していて…

本当に婚約しているのかと疑問を感じていた…





だからこそ…

夢乃ちゃんのバーの話は嘘だと思ったし

蒼紫の性格上そんな事はしないと思ったんだ…







( ・・・だけど… )






駐車場で

夢乃ちゃんを抱き上げたまま

キスをしている蒼紫を見て

〝誰だ〟…と思った…





いくら商店街端にある空き地だからって

こんな時間に…

まだ人も通るかもしれない

こんな場所で…




そんな事をする様な蒼紫を

俺は知らなかったからだ…





唇を離して蒼紫が助手席のドアを開けて

夢乃ちゃんを降ろそうとすると

夢乃ちゃんは蒼紫の首にある

自分の腕を離そうとせず…




そんな夢乃ちゃんに

蒼紫はまた顔を寄せてキスをしていた…


 




ミツタロウ「・・・本当に…付き合っているのか…」






バレンタインの件は

勘違いなのかと思いながら

二人には声をかけずに麗子の家へと歩き出し

ズボンのポケットからスマホを取り出して

蒼紫が言っていたカクテルを検索してみた




カクテルは二人が話していた通り

紫色の花の風味があるカクテルの様で…






「完全なる…愛?…でしたっけ?」






蒼紫がそのカクテルを送り…

その言葉を口にしたなんて今だに信じられないが…







ミツタロウ「・・・あいつ…

   俺らの知らない所ではカッコつけてんだなぁ…笑」






そう言って笑うと

夢乃ちゃんは「ふふ…」と口緩ませ

「最初はキザでした」と

頬を薄っすらと赤く染めて笑っていた…










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