惹かれ合う糸…

〈アオシ視点〉










アオシ「夢乃が帰って来ない?」






お参りを終えて家へと帰ると

お袋が出迎えに出てきて

夕方前に出かけたまま帰って来ないと言ってきた




夕食に誘われたからと

テーブルにメモを残していたようだが…






母「・・・・・・」






この町に夢乃を夕飯に誘う様な

親しい間柄の人間はいないはずだ…




お袋もそう感じているからこそ

俺に伝えているんだろう…





( Kショップのガキか? )





20歳そこそこの実家暮らしのあの由季ガキ

夕飯に誘うとは考えにくく

何処に行ったんだと考えながら

昼間、満太朗から連絡があった事を思い出した






アオシ「・・・連れて帰る」






お袋に先に風呂に入る様に言い

そのまま体の向きを変えて

駐車場へと歩き出した






( ・・・麗子か… )






メモに何処に行くのか

行き先を書かなかったわけじゃなく

麗子の家だと書けなかったんだと分かり

シートベルトを締めながら

「イチイチ面倒を起こすヤツだな」と呟き

まだ熱の冷めていない車のエンジンをかけた







ミツタロウ「桜祭りの事で集まるけど、来れそうか?」






( ・・・・・・ )






夢乃あいつが行った所で話し合いの意味はねぇ…

桜祭りの次期に夢乃はこの町にはいねぇし

俺が顔を出せば夢乃がいるからと

何かしら役を任されるだろうと思ったからこそ

参加できねぇと断った…







アオシ「餅つきといい、今日といい…

   アイツは何で勝手な事ばかりするんだ…」







お参り先で接待を受けるから行けないと断った俺が

19時前の今、集まりに顔を出せば

話もややこしくなる…






「誰かさんよりかは可愛いもんッ!」






( ・・・・・・ )






夢乃が…

麗子をあまりよく思ってない事は知っている…

麗子に張り合って集まりに参加したのかと思い

離れた空き地に車を停めて

麗子の家へと歩きながら

「はぁ…」と息をいた…





アオシ「よりによって水戸仏壇屋ここに来るとはな…」






店の明かりが消えた扉を開け

「こんばんは」と声をかけても

誰も出て来ず「はぁ…」と中に足を進めると

夢乃の靴が目に入り

やっぱり此処にいるのかと眉間に指を当て

「バカかアイツは…」と呟いてから

草履ぞうりを脱いで

麗子の部屋のある二階へと向かうと…






ショウ「夢乃ちゃんやるね」





( ・・・翔か? )





農家の跡継ぎである翔は

朝早くから畑に出て行き

夜も早く就寝する生活スタイルをしていて

中々商店街の中では顔を合わせる事もなく

アイツも来ていたのかと思い

襖に手を当てた瞬間…






「・・・いえ…あの…」





ミツタロウ「・・・もしかして…蒼紫から?」





「最初は…はい…」





ショウ「蒼紫が!?

  ぜんっぜん想像できねぇ」







部屋の中で自分の話をしている事が分かり

「あの夢乃ガキ…」と呟いて

入るタイミングを伺っていると

麗子の声が響いた…







レイコ「蒼君はナンパなんてしない」





( ・・・・・・ )






麗子の声は泣いていて

「はぁ…」と小さく息を零して

襖を少し開けると

満太朗の隣で顔を俯けている夢乃の姿が目に入った…






レイコ「・・ッ・蒼君の事…何にも知らない癖にッ…」






「・・・・・・」






レイコ「酔ったフリして蒼君に近づいた?」






ミツタロウ「麗子ッ!」






レイコ「それとも酔った蒼君を…ッ…

   ホテルか何処かに連れて行ったのッ!?」







麗子の言葉の後

俯いている夢乃の肩が小さく揺れたのが見え

車の中でガキみたいに涙を流して

「アタシが何したのよ…」と泣いていた

夢乃の姿が思い出された…






( ・・・・・・ )






俺は「パルフェタムールだ…」と

あの日、揶揄からかう意味を込めて

夢乃に送ったカクテルの名前を言いながら部屋へと入り

亜季達に囲まれて目を赤くしている麗子に

目を向けると麗子は気まずそうに直ぐに目を逸らせた…






アオシ「・・・・・・」






俺が来ないと分かった上で

夢乃を此処に呼んだのが何となく分かり

夢乃に顔を向けると

下唇を少し噛んで…

真っ直ぐと俺を見上げていた






( 直ぐ泣く癖に変な所では我慢するんだな… )






夢乃に近づいて行き

「帰るぞ」と言うと噛んでいた唇が小さく震えて

抱き上げ様としている俺の首に腕を巻き付けてきた






アオシ「・・・・・・」






俺は夢乃を抱き上げて先に帰る事を謝ると

「ご馳走様でした」と夢乃の声も聞こえ

バカなガキだなと思いながら階段を降りた





夢乃が座っていた席の

前に置かれた割り箸は袋からも出されてなく

グラスに注がれたオレンジジュースは

全く減っていなかった…




集まりは18時頃からあっていた筈だから

1時間近くただあの場に座っていただけの

夢乃が「ご馳走様」なんて言葉を言う必要はない…





俺が襖を開けるまでの1時間近くを

楽しんで過ごしていたわけじゃない事も分かっていた





階段を降り切ると「蒼紫君」と

水戸のオジさんに呼ばれ

内心でタメ息を吐きながら振り返ると

俺が予想していた通りの表情で

俺と…夢乃を見ていた…





気まずさを感じたのか

夢乃は降ろせと言うかの様に俺の肩を叩いているが

オジさんに「失礼します」と頭を下げて

靴を脱いだ場所へと行き

夢乃の靴を「自分で持て」と手渡してから

仏壇屋やを後にした






水戸「檀家の中には

   今後の事を考えると言っている者もいる…」







水戸仏壇屋は檀家の中でも大口の檀家で…

麗子との見合いの席に顔を出さなかった俺に

そう声をかけてきていた…





( ・・・・・・ )





「・・・・おじさん…」





考え事をしながら歩いていると

俺の右耳の直ぐ側で俺を呼ぶ夢乃の声が聞こえたが

返事をしないまま駐車場の方へと歩いていると

「紫…なんだって」と小さな声で呟きだした…






「・・・私とおじさんの糸は…

   えにし線っていう紫の糸なんだって…」






アオシ「・・・・・・」






「・・・どの糸よりも…

  誰よりも強く惹かれ合うんだって…」






アオシ「・・・・・・」






「だけど……絶対に……ダメッ…なんだって…」






また懲りずに占いの所に

行ったのかと呆れていると

夢乃の声は震えだしギュッと首にある腕に

力を入れて抱きついて来た…






「・・・呪われた…運命線なんだって…」





アオシ「・・・・・・」






夢乃の言っている事はサッパリだったが…

呪われた運命線という言葉だけは

妙にしっくりときていた…





( ・・・呪い…か… )


 



駐車場へと着き

車のロックを解除し

夢乃を降ろそうと助手席側に回ると

また「おじさん…」と声をかけてきて

こめかみに柔らかい感触がした…






アオシ「・・・・・・」






こめかみに触れた物が何で

どう言うつもりでそうしてきたのかも分かり

顔を夢乃の方へと向けると

パチパチと切れかかる電柱の明かりの中

夢乃の顔が近づいて来たのが見えた




触れた唇は冷たく…

ただ触れるだけのキスをして

直ぐに唇を離した夢乃の顔を見上げていると

「タバコの味がしない…」と言って

俺を見下ろしている…






アオシ「・・・コッチに帰ってからは辞めてる…」





「・・・・・・」





アオシ「住職がタバコ癖ぇわけにはいかねぇからな…」





「・・・・・・」






夢乃がもう一度顔を寄せようとしているのが分かり

「公園のガキのままか」と

了承も得ず勝手にキスをしようとしている夢乃に

そう問いかけると…






「・・・嫌なら…離れて…」





アオシ「・・・・・・」






タバコが臭いと眉を寄せる夢乃に

「嫌なら離れろ」と俺が言ったセリフを

俺に返してくる辺りが

余計に生意気なガキにうつる…






( ・・・・だが… )






今度は触れるだけで終わらない夢乃のキスに

目を閉じて抱き上げている腕の力を強めた






( ・・俺はこの生意気な夢乃ガキに惹かれている… )







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