歓迎会…

〈ユメノ視点〉











「・・・はぁ…行きたくないなぁ…」






もう直ぐ見えてくる商店街の看板に

「はぁ…」とタメ息を溢し

「嫌だな」ともう一度呟いた…





今日のお昼前に

麗子さんから電話がかかってきた…






麗子「もしもし、夢乃ちゃん?」






おじさんに用があるのかと思い

お参りに行っていると伝えると

「蒼君じゃなくて、夢乃ちゃんに用があって」と

クスクスと笑い…





( ・・・歓迎会?今更?? )






麗子さんは

私を満太朗さんや麗子さん達…

この町のおじさんの幼馴染みの皆んなに

紹介したいからと歓迎会に誘ってきた





レイコ「皆んなも夢乃ちゃんと話してみたいって」





そんな筈がない…

麗子さんはサラリと私に嘘を吐くし

麗子さんの友達が私を歓迎なんてするわけがない





楽しくない集まりになる事は

目に見えているけど…





レイコ「蒼君にもお参り終わったら

   うちに寄るように伝えてあるから」






おじさんは遠方のお参りに行っていて

帰りは19時を過ぎるから

1時間ほどは息苦しい時間が続くけれど






( ・・・糸が…薄れちゃう気がする… )






おじさんはコッチに帰って来て一度も

誰かと会ったり飲みに行ったりしていない…





私が麻梨子と連絡を取らなくなった様に

おじさんも私とのえにし線のせいで

友人達との糸が

薄れたてしまっているんじゃないかと心配になり





この前の餅つきの時の様に

愛想よく振る舞って

我慢しようと思った…






日の暮れた商店街の中を歩きながら

麗子さんの家である

仏壇屋の少し前で足を止め

「頑張れアタシ、頑張れアタシ…」と

自分の胸元を叩きながら小さく呟き

口の端をグッと上げてから

「こんばんは」と扉を開けた






お店の奥から麗子さんが小走りで近づいて来て

「いらっしゃい」と言うと

「皆んなもう集まってるから」と

私の手を引いて二階へと続く階段を登っていく






( 満太朗さん…いるかな… )







勇逸話せそうなのは

買い出しの時によく声をかけてくれる

満太朗さんだけで

祈る様な気分で部屋の中を覗くと

「夢乃ちゃん?」と私を見て驚く顔をした

満太朗さんの姿があった





「こんばんは…笑」






部屋には7〜8人の…

お姉さん達がいて殆どが女の人だった…






( ・・・男の人は2しかいない… )






自分が男の人に…

多少ウケがいいのは自覚しているし

同性である女子からウケが悪い事も知っている…




お姉さん達はジッと品定めをする様に

タイツを履いた脚から腕や胸元…

最後に顔をジロジロと見てきて

「和風って感じではないね?」と

何が楽しいのか笑っていた





( コケシよりもフランス人形の方が可愛いわよ )






黒髪ストレートな麗子さんの方が

おじさんの隣には合うって意味なんだろうけど…





ミツタロウ「夢乃ちゃん、コッチに座りなよ」





眉を少し下げた満太朗さんが

小さく手招きをしていて

隣りに腰を降ろすと

「今日はどうしたの?」と聞かれ

「へっ?」と顔を向けた





( ・・・どうしたのって… )






中身はどうあれ

表向きは私の歓迎会の筈だと

不思議に思っていると…






ミツタロウ「今日は蒼紫も無理だって言ってたけど…」





「・・・・・・」





ミツタロウ「お参り先で顔出しがあるって言ってたから」





おじさんがお参り先で

食事を摂って帰るんだと分かり

今から数時間はこの楽しくない集まりを

一人でやり過ごさなきゃいけないんだと理解した







ショウ「いや、蒼紫はいなくても

   次期坊守の奥さんが来たなら問題ないだろ」







満太朗さんの奥に座っている

細めのお兄さんが顔を出して

「ねっ?」と言っているけど

何の事か分からず満太朗さんをチラッと見ると

「今日の集まりは…」と説明してくれた






「・・・桜…祭り?」






この集まりは私の歓迎会なんかじゃなく

春過ぎにある商店街のお花見の話し合いだった…






ミツタロウ「餅つきとかはオヤジ達の代がとりしきるけど

    桜祭りは俺たち若い衆が段取りを組むんだ」





「そうなんですか…」





アキ「今年は夢乃ちゃんも加勢してくれるし

   正直助かるよね?」





ナオコ「お弁当どうしようかと思ってたしね」






全然話が読めず

「お弁当ですか?」と尋ねると

参加者の中の年配者には

手作りのお弁当をコッチが準備するらしく…

「毎年…20人くらいかな?」と

乾杯もしていないコップを手に取って

ゴクゴクと飲んでる


 




サオリ「去年は亜季がしたし

   その前はアタシがしたし…

   皆んなやっちゃったから今年は夢乃ちゃんに

   お願いしようと思って」






「・・・えっ…」






春過ぎの桜祭りは4月頭過ぎにある…

つまり私はもう此処にはいないし

引き受けてしまえばお母さんが一人で

準備をしなきゃいけなくなる…





( ・・・20人…しかも春過ぎは… )





おじさんが住職に就任して直ぐだし

春からは忙しくなると言っていた…





「あの…お母さんや…蒼紫さんとも相談を…」





そう言うとボールペンを手に持って

メモ帳に色々とまとめていたお姉さんが

「相談って…」と小さく呟いた






ミツタロウ「夢乃ちゃんはまだコッチに来たばかりだし

    オバさんと話合った方がいいよな?

    嫁と姑は阿吽の呼吸が大事だって

    うちのオヤジも言ってたし…笑」






レイコ「・・・でも…今日決めないと

   そろそろ準備だってあるんだし…」







やっぱり女狐だと思いながらも

生意気な態度を取れば

おじさんの立場が悪くなると思い

「すみません」と謝るしかなかった…


   



「はぁ…」と面倒くさげなタメ息が聞こえた後

「じゃあ今年は誰がする」と

私以外のお姉さん達だけで話し合いは進んでいき

目の前にある料理に手をつける雰囲気でもなく

ただ時間が過ぎるのを待っていると





レイコ「・・・夢乃ちゃんと蒼君って…」





退屈な時間が1時間程過ぎた時に

麗子さんが私を見て話かけてきたから

今度は何よと思い顔を向けた






レイコ「どうやって出会ったの?」





「・・・えっ?」





レイコ「なんか…全然想像できなくて?笑」






他のお姉さん達も「気になる」と言って

興味ありげな目を向けてきているけど

私とおじさんの出会いは…






「友達とバーにいたら…

 蒼紫さんもたまたま一人で飲みに来ていて…」





サオリ「ナンパしたの!?笑」






どう話していいのか分からず

口籠もっていると

翔さんが「夢乃ちゃんやるね」と笑っていて

皆んな私から声をかけたと勘違いしている様だった…





「・・・いえ…あの…」





ミツタロウ「・・・もしかして…蒼紫から?」





満太朗さんの言葉に

「最初は…はい…」と

目線を料理に落として

気まずい雰囲気の中答えると

翔さんが「蒼紫が!?」と驚いた声を上げて

「ぜんっぜん想像できねぇ」と言って

どんな風にと質問攻めにしてきた






ショウ「なんて声かけてきたの?

   でも夢乃ちゃん友達といたんだよね?」





「・・・・カクテルを…

  紫色の…綺麗なカクテルをご馳走してくれて」






ショウ「あの蒼紫が!?笑」






不味かったかなと思いながらも

私とおじさんの出会いはあのカクテルからで…

嘘を言おうにも…何も思いつかなかった…






レイコ「・・・蒼君はそんな事しないよ…」






麗子さんの淡々とした物言いに

どんな顔をしているのかも想像できて

顔を上げれないでいると

「蒼君はナンパなんてしない」と

聞こえた声は震えていて

泣いているのが分かった…






( ・・・やっぱり来なきゃ良かった… )






お姉さん達は「麗子…」と

優しく慰める様に名前を呼んでいて

更に居心地の悪さを感じた






レイコ「・・ッ・蒼君の事…何にも知らない癖にッ…」





「・・・・・・」





レイコ「酔ったフリして蒼君に近づいた?」





ミツタロウ「麗子ッ!」





レイコ「それとも酔った蒼君を…ッ…

   ホテルか何処かに連れて行ったのッ!?」






麗子さんの言葉に

膝の上にある自分の手をギュッと掴んだ…





( ・・・また…また私なの… )





課長「神宮寺にまでいいよって…」





数ヶ月前の課長の言葉や…

会社の同僚達の目を思い出し

小さく自分の唇が震えていた…





( ・・・泣いちゃダメだ… )





そう思っていると

「パルフェタムールだ…」と

おじさんの声が聞こえた…





「・・・・・・」





声のする方へと顔を向けると

少し開いた襖からおじさんの姿が見えていて

ガラッと襖を開けると袈裟を来たままの

おじさんが部屋の中へと入って来た





ショウ「パルフェ??なんだ?」





アオシ「・・・・・・」





おじさんは部屋の中を見渡した後に

私をジッと見て「夢乃に送ったカクテルだ」と言って

コッチに近づいて来た






「・・・・・・」






アオシ「せっかく奢ってやったら…

   コイツ生意気に花の香りがする酒は

   嫌いだって文句を言い出すしな…笑」






腰を曲げて畳に膝をつけると

「帰るぞ」と言って私の手を握るおじさんに

「足が…痺れてるの」と言って

今は立ち上がれないと正座をしている足に

目線を落とすと「正座にも慣れろ」と

呆れた声を出した後

掴んでいた手を離し

脇に手を入れてきたから「えっ?」と驚いた





アオシ「お袋が探してるからうちに帰るぞ」





「・・・・・・」





おじさんの「帰るぞ」が

此処にいる誰よりも

自分は特別な存在なんだと思わせてくれて

おじさんの首に腕を回して「帰る」と小さく呟き





おじさんの袈裟からは

濃ゆい線香の香りがして

その落ち着く匂いに目を閉じた…





自分の体が持ち上げられたのが分かり

「悪いな」と部屋の皆んなに

話しているおじさんの肩から顔を離して

「ご馳走様でした」と頭を下げ





階段を降りて行くと

「蒼紫君」と知らないおじさんの声が聞こえ

顔を向けるとスーツを着たおじさんが

怖い顔をして立っていた





( ・・・麗子さんの… )






アオシ「こんばんは、夢乃がお邪魔してた様で」





水戸「・・・残念だよ…本当に…」






まるでおじさんを睨む様にしてそう言い…

この前のお見合いに来なかった事を

怒っているのかなとおじさんに抱きついている腕を

少し緩めて降ろしてと肩を叩くけれど

おじさんは「失礼します」と

眉間に皺を寄せている麗子さんのお父さんに

頭を下げるとそのまま玄関へと行き

私の靴を「自分で持て」と言うと

抱き上げたまま暗い商店街の道を歩き出した














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