疑問…

〈ミツタロウ視点〉









ミツタロウ「・・・ん?」






何気なく上げた顔の先に

蒼紫の姿を見つけ「蒼紫」と声をかけた







ミツタロウ「今帰りか?」







日が傾きだした今から

お参りなんて事はないだろうし

誰かの悲報も聞いていないから

どこかの家のお参りが終わり

今から帰ろうとしているんだろう…






アオシ「鳥屋に行く途中だ」





ミツタロウ「鳥屋……また野犬に襲われたのか?」






数週間前に夢乃ちゃんが可愛がっていた

鶏が野犬に襲われたとかで…

蒼紫は新しい鶏を夢乃ちゃんの為に買ってやっていた…






( ・・・餌はそうそう無くならないだろうし… )






また野犬にでも襲われて

別の鶏を買ってやるつもりなのかと思っていると

蒼紫は「違う」と疲れたタメ息を溢し

「アイツは鶏を鶏だとは思ってないからな…」と

頭が痛いと言う様な表情を浮かべている






アオシ「オヤツが無くなったそうだ」





ミツタロウ「・・・オヤツ??夢乃ちゃんのか?」





アオシ「鶏のだ…」


 





不機嫌顔でそう答える蒼紫に

「あぁ…なるほど…」と言って

蒼紫が鳥屋に何しに行くのかが分かった…





( ・・・変わったな… )





昔の…少し前までの蒼紫は

他人に深く興味を示さなかったし

笑って接していても…

何処か少し距離をとって

一人何かを考えている様な所があった





( ・・・でも… )





恋人である夢乃ちゃんに対して

他と違うのは当たり前な事だが…






レイコ「あの二人…変だよ…」





( ・・・・・・ )






バレンタインの日に

夢乃ちゃんがうちの店に

「餅米が欲しい」とやって来た






ミツタロウ「餅米?何に使うんだい?」





「ふふ…おはぎを作ろうと思って」





ミツタロウ「おはぎ?」






彼岸会ひがんえの準備には早すぎるし

この時期におはぎを作る行事なんかあったかなと

不思議に思っていると

夢乃ちゃんが希望する餅米の量は少しで…






ミツタロウ「お客様とかじゃないの?」






「いえ、蒼紫さんと…お父さんもいるのかな…」






( ・・・おじさんじゃなくなってるな… )






あの日はふざけてそう呼んだだけなのかとも思ったが

今口にしている「蒼紫さん」よりも

あの日聞いた「おじさん」の方が

呼び慣れている感がある気もした…






ミツタロウ「蒼紫と住職だけ…」






俺はもしかしてと思い

「チョコ…の代わり?」と問いかけると

夢乃ちゃんはニッと笑いながら

人差し指を口の前に当てて

「内緒ですよ」と照れていた






ミツタロウ「バレンタインに…おはぎか…

    袈裟を着た蒼紫にはチョコよりも

    しっくりくるね?笑」






「本当に?良かった!

 バレンタインにチョコがダメとか初めてで

 朝からずっと悩んでたら…」






夢乃ちゃんは、泥団子を作って

おはぎをあげようと思いついた話をしていて…

俺も笑いながら聞いていたが…







ミツタロウ「・・・蒼紫…

    夢乃ちゃんとは長いのか?」






アオシ「・・・なんだ急に?」






ミツタロウ「いや、俺も今年で32歳だしさ…

   そろそろ結婚しろって親父おやじが五月蝿いんだよ…笑

   だけど直ぐ直ぐ結婚ってわけにもいかねぇし

   蒼紫は夢乃ちゃんとどれ位で結婚を考えたんだ?」






Kショップに行く用事のあった俺は

鳥屋に行く蒼紫の隣りを並んで歩きながら

さりげなく…問いかけてみた…







アオシ「・・・一年位じゃねぇか…」





ミツタロウ「へぇ…一年か…

    まっ!だいたいそんなもんだよな?笑」






Kショップの店の前へと着き

「夢乃ちゃんに宜しくな」と言って

歩いていく蒼紫の背中を見ながら

「バレンタインは…初めての筈だ…」と呟いた…














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