優しい嘘…

〈ユメノ視点〉










「コラッ!もう…

 ダメだって言ってもするんだから…」






ピーコはニーコと違って

まだまだ子供だからか…

イタズラばかりする





抱き上げても大人しくしてくれず

直ぐに降ろせと暴れだすし…






アオシ「朝から騒がしいな…笑」





「あっ!ピーコ!!」






おじさんがお参りに行く準備を済ませ

外に出てくると…

ピーコは直ぐにおじさんの方へと駆け寄って行き

足の周りで甘える様に鳴いている






アオシ「コイツは俺に懐いてるみてぇだな?」





「・・・早く…お参りに行かないと…」






ニーコもおじさんに懐いていたけれど…

ピーコはニーコ以上におじさんに…

おじさんにしか懐いていない…





アオシ「あまり鳴くな」





おじさんは膝を曲げて

ピーコの背中を撫でながら笑ってそう言うと

ピーコは満足そうに顔を上げていて…





( ・・・なんか…ズルイ… )





おじさんの前に座ると

ピーコが怒るから

おじさんの背中側へと回り

腰を降ろして

ピーコの様に甘えたくて

おじさんの背中に自分の額をくっつけた






アオシ「・・・背中に化粧つけるなよ」





「・・・・・・」





アオシ「鶏と張り合ってんのか?笑」






おじさんの笑い声が聞こえ

腕をおじさんの胸へと回して

ギュッと抱きつくと

「重てぇ」と聞こえたけれど無視をして

「何時に帰る?」と問いかけた





アオシ「今日は遅せぇぞ」





「・・・何時?」






今日は遠くの法事に行くらしく

朝のお参りを終えたらそのまま行くようで…





「・・・お父さんが法事じゃダメなの?」





午後のお参りはおじさんに変わって

お父さんが行く事になっているけど…

遠くである法事にこそ行ってほしかった…






アオシ「・・・お前…」





「・・・飲み屋に行ったりしない?」





アオシ「・・・・・・」






お父さんみたいに

「付き合いだ…」とかなんとか言って

夜のご接待を受けて来るんじゃないかと思い

「早く帰って来て」と背中に呟くと

おじさんは「はぁ…」と息を吐き

「そろそろ行く」と立ち上がってしまった





「・・・・・・」





おじさんの袖を掴んで

「行ってらっしゃい」と言う口が

自分でもへの字になっているのが分かる






アオシ「・・・飯は帰ってから食う」





「・・・家で食べるの?」





アオシ「夕方は無理だろうから

   20時前頃に帰ってから食う」







変な接待には行かずに

真っ直ぐと帰って来る事が分かり

「じゃー待ってる」と言えば

おじさんは「袖を離せ」と

いつまでも掴んでいる私の手に

目を細めている





「早く帰って来てね?笑」





アオシ「コイツと大人しくしてろ」





「ピーコと…待ってる…笑」






おじさんが駐車場へと歩いていく背中を見ながら

隣りで追いかけ様としているピーコを抱き上げて

「今日は何しようか?ピーちゃん?」と問いかけた





私が数ヶ月前に連れ帰ったピーコは…

商店街の…駄菓子屋さんの庭にいる





「お前は暴れん棒のピーコね?笑」





抱っこを嫌がり羽をバサバサとさせる

ピーコをニーコの近くへと降ろし

「言う事聞く様に言ってよ」と

ニーコの眠る辺りを見ながら呟いた





( ・・・・・・ )






ピーコはおじさんを追いかける事を

忘れたのか近くの草を突き出し

機嫌良く一人遊びを始めたから

「いい子ね」と言って

また…駐車場の方へと顔を向けた…





「おじさんのバカ!」と

日の暮れた中、ツヤっと光る黒い袈裟が

段々と遠くなるのを眺めていた

あの日の事を思い出し

「アッチのピーコは元気かな…」と呟いた…






私がピーコを選んだのには理由があった…

ペットショップで沢山のひよこの入った

木のケースを見せられ

どの子にしようかと悩んでいると

あるひよこが少し歩いては転けてを繰り返していた




怪我でもしているのかと眺めていると

他のひよこよりも気が小さいようで

チマチマと様子を伺う様に歩いていて

他のひよこに押されていた





( ・・・今の…自分みたい… )





知らない場所に…

知らない人ばかりのこの町は

全然居心地が良くなく…



おじさんはあんまり相手をしてくれないし…

町の人の様子を伺って歩いていて

他のひよこ達の様にズンズンと歩けない

ピーコが…自分に見えた





( ・・・だから連れて帰った… )





あの広い庭で自由に

自分のペースで歩かせたくて…




おじさんがピーコをお店に返して

ニーコを連れ帰った後も

ピーコの事が気になり様子を見に行くと

ピーコはやっぱり他のひよこに押されて転んでいた…





「やっぱり連れて帰ろうかな…」






そう呟いていると

後ろから別のお客さんが入って来て

横にずれて亭主のおじさんとのやりとりを見ていると

気前のいいおじさんは「適当に3匹選んで」と言って

他の鶏達を眺め出し…





「あの…あのおじさんはいい人ですか?」





亭「えっ??」





「ひよこを古屋で飼うの?」





気前のいいおじさんは

広い庭のある家に一人で住んでいて

鶏を数羽放飼いにしているらしい






亭「駄菓子を買いに来た子供達が

  たまに庭で鶏と遊んでいるよ…笑」





「・・・・こっ…この子!

  この子が1番可愛いと思う!」






あのピーコは沢山の子供達にも遊んでもらって

きっと…楽しく暮らしてる筈だ…







「・・・ピーコ?」






アオシ「・・・そうだ…」







ピーコじゃない事は直ぐに分かったけれど…

おじさんがピーコだと言うのなら

そう思う事にした…




ニーコの事で悲しんでいる私に

おじさんがついてくれた

優しい…嘘だったから…






「・・・私の婚約者よ?笑」






ピーコに顔を向けてそう言うと

何も聞こえないと言うかの様に

離れて行こうとする後ろ姿にクスリと笑って

「私にも甘えさせてよ!」と

抜いた草でツンツンとピーコの背中を突いた




















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